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金瞳は神の末裔の証  作者: 詩・似・愛
第一章 幼い金瞳には試練が多い。

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4 世界は優しくも厳しい。

「そんなの聞いてない!」

 璃凪は七歳の誕生日に辛い現実を突きつけられた。大好きなお兄さんである翔馬が、来年には遠くの学校に行ってしまう?そんなの嘘だ。その現実を突きつけた、翔馬は困った顔で笑ってた。

「璃凪ちゃん、何も一生の別れってことじゃないから。」

「でも、お兄さん、こんなふうに会いにきてくれないんでしょ?それも六年間も!」

 璃凪は大粒の涙をボロボロこぼし、ついでに鼻水まで流して、声をあげて泣き始めた。隣に座っていた両親は困り果て、それでも失笑を抑えきれず、母親が璃凪の鼻水をかんであげた。璃凪たちの正面に座っていた望月父子も苦笑していた。望月翔馬は慰めるように言った。

「でも、璃凪ちゃんも十歳になったら世界樹教本神殿に行くんだよ。同じ大陸に行くんだよ。僕が先に行って、璃凪ちゃんを迎える準備をするだけだよ。」

「でも、璃凪が八歳の時に遠くに行って、十歳になるまで離れ離れなんでしょ?二年間も離れ離れ!」

 まだ幼い璃凪にとって、二年などと永劫の時のように思えた。またボロボロと涙が溢れてくる。望月冬馬は璃凪を穏やかに見つめた。

「だったら、璃凪ちゃん、翔馬と婚約するかい?」

「望月様、それは。」

 父親がはっと顔を上げたが、望月冬馬に厳しい目で一瞥され黙り込んだ。翔馬の方は、少し顔を強張らせて、璃凪の返事を待っていた。璃凪は望月父子を交互に見比べ、首を傾げた。

「婚約って何ですか?」

「璃凪ちゃんが、将来、翔馬と結婚するって約束することだよ。そしたら翔馬も、今以上に君に会いにくるだろうね。お休みの日はお泊まりしてもいいだろうね。」

 璃凪はうっとりと笑った。今以上に翔馬と一緒にいれる?

「璃凪、お兄さんと婚約する。お兄さんと結婚したい。」

 翔馬は明らかにホッとした顔だったが、璃凪は探るように翔馬を見つめた。

「璃凪はお兄さんと結婚したいけど、お兄さんはどうなんだろう?」

「僕も璃凪ちゃんと結婚したいよ。きっと君は素敵な女の子になるんだろうね。」

 翔馬は穏やかに微笑んで、その様子を見ていた望月冬馬は満足そうに頷いた。

「二人も異論がないようだ。きちんと書面に残しておこう。」

 将来、翔馬と結婚することが決まったようだ。そしてこの契約が、将来璃凪の助けになり、あるいは火種になることを、璃凪にはまだ幼くて理解できなかった。

 璃凪は握っていたスプーンに神力を入れた。スプーンはクルクルと丸まって、白みを帯びた金色に輝き始める。この一年の間に、璃凪は自在にオルパパスタイト王金に変容することが出来るようになっていた。そして、神聖画は全て頭の中に入っている。璃凪の手の平から、ふわりと王金の塊が浮かび上がり、王金が細い繊維状に伸びて、クルクルと神聖画の立体的に描き始める。そしてそれが小さく縮んで、小さな立方形に変わる。それを包み込むように、また繊維がクルクルと巻きながら、リング状の形に変わる。

 その様子を、璃凪の両親も、望月父子も、息を潜めて見守っていた。指環はゆっくりと璃凪の手の平に落ちてくる。出来上がった指環を、璃凪はにこりと笑って翔馬に渡した。

「お兄さん、これね、聖遺物のレプリカ。お兄さんの神力を入れたら、お兄さん以外の人には触れることができなくなるよ。お兄さんを全ての物理的な危険から守ってくれるの。遠くに行く時に、ちゃんと持って行ってね。」

 受け取った翔馬は、じっと指環を見つめていた。隣から冬馬も覗き込んで、感嘆の声をあげた。指環は、世界樹の枝にとまった神鳥のモチーフが掘り込まれ、装飾物としても芸術品としても美しいものだった。そしてその素材がオルパパスタイト王金製で、内にレプリカとはいえ聖遺物を秘め、十分に機能するとなれば、その価値はとても計り知れない。そして内側には、S&Rと刻印までされている念の入れようだった。そして翔馬がその指環を左手の薬指にはめると、ぱあっと輝き、そして光が消えた。聖遺物との契約が完了したのだ。

「凄い。本物と何の変わりもない。」

 翔馬は感極まった声でつぶやいた。

 当の璃凪は、手の平に余った王金を眺め、またちょっと考えているようだった。

「王金、余っちゃった。お兄さん、他に何か欲しい聖遺物ある?宝石も使えば良かったな。有り合わせで御免なさい。でもお兄さんにやっと宝物を渡せた。次はもっと上手に作るね。」

 翔馬ははっと我に返り、小さく苦笑した。

「いや、璃凪ちゃん、最高のプレゼントだよ。参ったな。先に指環を贈られてしまったよ。」

 こうして璃凪の七歳の誕生日は、そのまま婚約のお祝いに変わったのだった。



   ***



 璃凪は少しずつ、世界樹の実を体に馴染ませ、丸ごと一粒、食べることが出来るようになったのは、六歳を過ぎてからのことだった。その頃から璃凪は自在に金属をオルパパスタイト王金に変容できるようになっていた。

 同じ時期から、璃凪は神聖画の解析をするようになった。璃凪の目には、その画が精密な立体画に見え、その聖遺物の機能も一目でわかる。いつかは作ってみたいのが、初めて会った時に翔馬が掛けていた眼鏡だった。今なら分かる。フレームに聖遺物が隠されていて、その機能は生物であれ、無生物であれ、全ての物体の組成や機能、能力を分析するものだった。

 その構造は少し複雑だったので、手始めに璃凪が作ったのは、水を浄化する聖遺物だった。比較的単純な構造で、濾過と蒸留の機能を持つ。その聖遺物を手の平の上で復元し、さらにはそれを圧縮して、周りを包んで水差しの形に成形した。水差しには、世界樹と神獣の彫刻を施した。その聖遺物には属性を与えず、誰でも使えるようにして完成だ。

 試しに水差しに泥水を入れて、中の水をコップに注ぐと、透き通った綺麗な水に変わっていた。その一連の様子を見守っていた神官たちは、また揃って跪いた。そんなに大したことをしていないのに、何故そんな反応をするのか、璃凪には不思議だった。

 それでも璃凪の体には負担だったのか、やっぱりその夜は熱を出した。熱を出す度に、璃凪の神力が少しずつ強くなっていく。璃凪は日をおいて、いくつかの聖遺物を復元した。空気の温度と湿度を一定に保つ聖遺物。登録している人間以外が境界を越えたら警報が鳴る聖遺物。それらは璃凪の生活に役に立ったようで、皆にとても感謝された。そしてやっぱり毎回熱が出た。

 熱にうなされると、必ず挑戦と芸術の女神が夢に現れた。

『璃凪、まだあなたは幼くて、全ての聖遺物を復元することはできません。まずは簡単なものから復元しなさい。いつかは必ず、望みのものを復元することが出来ます。』

「女神様、私ね、お兄さんに宝物をあげたいんです。」

『宝物?』

「大好きなお兄さんが怪我をしないように、聖遺物を作りたいんです。」

『あの聖遺物ね。では、世界樹の実から神力を貰いなさい。復元するには三つぐらい必要です。そして、まずは自分の身を守るために、あなたの中の神金を使って聖遺物を作りなさい。』

 三つも食べたら、体がどうかなってしまいそうな気がする。その戸惑いを察して、女神はにっこりと笑った。

『大丈夫、あなたの体に同化した神金が、あなたを守ります。その前にもう少し、創世の権能を身につけないといけません。あなたが成長すると、相対的に神金が足りなくなって、守りが薄くなってしまいます。そして、あなたが神金を使うと、使った分の神金が無くなって、やはりあなたの守りが薄くなります。あなた自身のために、創世の権能を身につけなさい。』

 目が覚めた璃凪は、女神の言いつけを守って、世界樹の実を食べる量を増やした。許容量を超えるとやはり熱が出た。それでも、体の中を循環する神力が増えているのが分かる。そして、創世の権能の詳細を少しずつ理解していく。創造と消滅。無から有を生み出し、有を無に帰す、絶対的な力。

 創世の力は、璃凪にはやはり使えないようだった。だから璃凪はそれを変容する。成長と増殖、退縮と崩壊。全くの無から新たに何かを生み出し、それを完全に消滅して無にすることはできないが、今あるものを増やし、壊すことはできる。それが璃凪にできる精一杯だった。


 璃凪の神力の強化と制御の正確さの訓練に並行して、学習も進んだ。自然科学の分野は、璃凪の権能を行使するにあたり、効率的にあまり無駄な神力を使わずに行使できて、とても役に立った。璃凪は本能的に理解していたが、璃凪の変容の権能には限界があった。すなわち鉱物は鉱物に、金属は金属にしか変容できない。

 つまりアルミ缶から宝石に変容できないし、ただの石からではオルパパスタイト王金は変容できないのだ。そして植物性のものからは植物にしか変容できないし、その変容にも限界があった。璃凪は何故かすみれの花と相性が良くて、植物から出来たものは、すみれの花になら変容できる。麻縄をすみれの花に変容できても、樹脂製のロープであれば、元の原材料となるドロドロした物体や、それを組成する化学物質にしか変容できないのだ。

 また変容の権能は、生死には行使できず、動物には行使できなかった。つまり枯れた花を生き返らせたり、例えばトンボを蝶に変えたり、ネズミを猫に変えたりなどは、決して出来ない。細菌やウイルスには可能かどうかは、璃凪の理解の範囲外で、もう少し学ばないと試すこともできないだろう。ただ、成長と増殖、退縮と崩壊を少し身につけた頃から、自分自身のちょっとした怪我を治すことぐらいは出来た。それは体内のナルバスティブ神金が助けているのかもしれない。それでも、もっと神力をつけて、もっと学べば、効率的に大きな傷も癒せるかもしれない。


 何度も熱を出して寝込む璃凪を望月親子は頻繁に見舞ってくれた。お見舞いの品は、口当たりの良いお菓子だったり、甘い果物だったりして、璃凪は熱を出すのも悪くはないなんて思ってしまう。

 翔馬はベッドにぐったりと横たわる璃凪の手を握って、少し悲しそうだった。

「璃凪ちゃん、無理しなくて良いんだ。こんなこと言うとね、お父さんに叱られるけど、璃凪ちゃんはもう、金瞳の権能なんか使わなくてもいいんだよ。」

「どうして?璃凪ね、お兄さんに宝物をあげたいの。」

「宝物?」

「お兄さんが怪我しないような聖遺物。どんなことからもお兄さんを守ってくれるの。」

「僕は聖遺物は使えないよ。」

「お兄さん、初めて会った時、聖遺物使ってた。あの眼鏡。聖遺物でしょ?」

「よく気がついたね。僕はちょっとだけ神力の強いただの人間だから、聖遺物を使うと、命を削られるんだよ。すごく体調が悪くなるから、長くは使えないんだ。」

「え?」

「でも、金瞳だってそうなんだ。多分ね、人間には強すぎる能力を使うとね、命を削られるんだろうね。代々の金瞳は皆短命だったんだよ。僕は璃凪ちゃんに長生きしてほしい。だから権能なんか使わなくていいんだ。」

 自分が短命ということより、璃凪は聖遺物を使うと翔馬の命が削られることの方が衝撃だった。だったら何故、望月冬馬は自分が使わずに、息子に使わせたんだろう?自分の命を守るために、息子に肩代わりさせるような、利己的で冷酷な人には見えなかったのだけれど。

「お兄さん、どうして聖遺物を使ったの?」

「璃凪ちゃんを見つけて守るためだよ。聖遺物はね、一族なら誰でも使えるわけじゃないんだ。僕は一番、聖遺物と親和性が高かったからね。」

 そして翔馬はポツポツと語り出した。翔馬とて、最初から神力が強かったわけではない。普通の子供で、瞳の色も暗い茶色だった。それがある日突然、瞳の色が薄くなり始め、透き通った黄色に変わっていった。

「多分ね、璃凪ちゃんを守るためなんだと思うよ。」

「どうして?」

「僕がこんなふうに変わったのは、七歳の時だったんだ。」

 璃凪はまたも衝撃を受けた。七歳。それはきっと。

「そう、璃凪ちゃんが生まれた頃だね。璃凪ちゃんを守るのが、きっと僕の使命なんだと思う。そして僕以外にも、きっと力を得た奴もいるんだ。それが璃凪ちゃんの敵か味方かわからないけれどね。少なくとも僕は璃凪ちゃんの味方だよ。」

 そして翔馬は晴れ晴れと笑う。

「でも、僕で良かったよ。僕には歳の離れた弟がいるんだ。璃凪ちゃんと同じ歳。あいつ馬鹿正直で、いい奴なんだよ。あいつが選ばれなくて良かったって思うんだ。」

 そしてまた璃凪の手を握りしめた。

「あいつ、うっかり秘密を漏らしそうでさ。まだ璃凪ちゃんに会わせられないけど、そうだね、あいつと璃凪ちゃんが十歳になる頃には、会わせられるかな?その頃は璃凪ちゃんは神聖地区に行ってるだろうから、安心して会わせられるね。」

 十歳になったら、神聖地区に行って、翔馬の弟と会える?でも何故十歳まで待たないと、神聖地区に行けないんだろう?

「その子に会いたい。すぐに神聖地区に行ってはダメなの?」

「うん、まだ準備が整ってないんだ・・・。」

 それきり翔馬は黙ってしまった。


 その夜、女神に会いたいと願って璃凪は眠りについた。そして願いを聞き届けてくれたのか、女神が現れた。璃凪は涙を流して女神に尋ねた。

「女神様、聖遺物をお兄さんに渡してはいけないの。どうしたらお兄さんを守れますか?」

『璃凪、あなたは自分の命より、翔馬のことを気にしているのね?』

「お兄さんは、とても優しくて、大切な人なんです。」

 女神は優しく微笑んだ。

『聖遺物は本来金瞳でなければ使えないもの。オルパパスタイト王金を使って聖遺物を復元しなさい。性能はナルバスティブ神金に劣りますが、命を削ることはありません。それに、たとえ神力が強くても、ただの人間の翔馬が使えば、聖遺物の本来の力は出せません。ですからオルパパスタイト王金でも、十分に同等の性能が出せます。』

 璃凪は大きく目を見開き、嬉しそうに笑った。

「わかりました、女神様。」

『璃凪。』

「はい、女神様。」

『ナルバスティブ神金を体の内に納めたあなたも、神力を使ったからといって命を削られることはありません。』

「でも、神力を使うと、酷い熱が出ます。」

『それはさらに神力が強くなる反動です。ナルバスティブ神金は、創世神から賜った祝福です。それを体の内に納めたあなたは、半神に等しいものになりました。』

「私は人間ではなくなったのですか?」

 璃凪は驚き、そしてひどく悲しくなった。目からポロポロと涙がこぼれ始める。

『璃凪、あなたは人間です。人間として生まれ、人間として生きることができます。神の権能を分け与えられただけです。神ではない証拠に、あなたの権能は制限されているでしょう。半神ゆえに出来ないことや弱点がたくさんあります。』

 そう言われてみればその通りだ。

『だから、もっと強くおなりなさい。あなた自身や、あなたの大切なものを守るために。』

 女神はすうっと輝いて姿を消し、璃凪の夢もそのまま霧散していった。


 それからの璃凪は、憑りつかれたように世界樹の実を食べては熱を出し、手の平からナルバスティブ神金を取り出しては、少し難易度の高い聖遺物の復元を始める。失敗したら元の神金に戻し、また作り直す、を繰り返していた。

 最初に復元に成功したのは、体に有害な物質を無害化して排除する、という聖遺物だ。何故それを選んだのかは、挑戦の女神の指示だったためだ。そんなものが必要になるのだろうか、と、璃凪は訝しく思うけれど、女神さまの指示には逆らえない。

 手の平に浮かび上がった神金が、細い糸のようになって、くるくると神聖画を立体的に再現し、それをきゅっと圧縮して、小さな立方体になり、更にそれを包んで世界樹の枝に止まった小鳥のモチーフに変化していく様を、見守る神官たちは崇拝と畏敬のこもった目で、息を潜めて見つめていた。

「璃凪様、そのような飾りをつけなくても、聖遺物は十分働くのではありませんか?」

「あら、だって、可愛いほうがいいでしょ?」

 璃凪は屈託なく笑う。聖遺物は縮小しなかったら、繊細な編み目細工みたいで綺麗だと思う。でもどうせなら、もっと綺麗に飾りたい。特にずっと身に着けるものなら尚更だ。神官たちは、ほうっとため息を吐く。

「璃凪様は、芸術の才もお持ちなのですね。」

 そう言われて璃凪は嬉しそうに笑う。璃凪を見守ってくれている女神は芸術も司り、度々夢に現れて、璃凪の作った聖遺物を褒めてくれるのだ。

「うん、挑戦の女神さまは、璃凪の飾りを褒めてくれるの。そして、どうせならどれも綺麗に仕上げてね、って仰るの。」

 そして璃凪は、出来上がった聖遺物を眺め、自分の喉の下の方、左右の鎖骨のつながるくぼみの真ん中に押し当てた。聖遺物はぱあっと光って、璃凪の体の中に吸い込まれていく。そしてうっすらと白金色に光る、世界樹と小鳥の紋様が浮かんで、そして消えた。


 やっぱり熱を出して、ぐったりと寝込む璃凪を見舞った翔馬は、小さくため息を吐いた。

「璃凪ちゃん、神力を使わないで、って言ったよね。君が神力を使わないでいいように、僕がいるんだ。」

「お兄さん、あのね、挑戦の女神さまが教えてくれたの。ナルバスティブ神金を体に入れてるから、璃凪、神力を使っても大丈夫なんだって。」

「女神様が?」

「うん、それからね、オルパパスタイト王金で聖遺物を復元すると、命を削らずに使うことが出来るんだって。」

 翔馬は目を見開いて、璃凪を見つめた。

「それは、本当?」

「そう女神様が言ってた。だから、神力を強くしなさいって。いつかお兄さんに、宝物をあげたいから、璃凪、がんばってるの。」

 翔馬は、璃凪の手を握りしめた。

「・・・ありがとう。僕も君をしっかり守れるよう、強くなるよ。」


 璃凪はそれからも聖遺物の復元に勤しんでいた。本当に作りたいものは二つ。あらゆる物理的な危険から身を護る聖遺物。これは、自分のためにも翔馬のためにも、きちんと作りたい。翔馬が持っていた眼鏡に仕込まれている聖遺物。翔馬とお揃いで持っていたいし、そして翔馬の命が削られないように、オルパパスタイト王金でも復元しておきたい。

 ナルバスティブ神金で何度も挑戦しては失敗しを繰り返し、璃凪はようやく危険から身を護る聖遺物の復元に成功した。折角だから璃凪は、身に着けて可愛らしい聖遺物にしたい。聖遺物をぎゅっと圧縮して、それを世界樹の枝と神獣、神鳥を配置した可愛らしいブレスレットにした。それを左手首にはめると、前の聖遺物と同じように、ぱあっと光って璃凪の体の中に入っていく。白金色の文様に変わり、そして消える。聖遺物は璃凪の体の中に入って、璃凪の体を守る盾となったのだ。



   ***



 そして、また熱をだした璃凪がようやく回復したのは、七歳の誕生日の当日だった。綺麗なドレスを着せられて、両親や、神官たちや護衛たちが、璃凪を祝ってくれる。望月父子も駆けつけてくれた。たくさんのプレゼントの箱に囲まれて、たくさんのご馳走に囲まれ、大きなケーキのろうそくを吹き消し、璃凪はとても幸せだった。

 食事が終わって、いきなり翔馬が爆弾発言をするまでは。

「璃凪ちゃん、僕は来年、中央大陸の学校に進学するよ。」

「中央大陸?どこ?遠いの?」

「うん、とても遠いところになる。今みたいには来れなくなるけど、ちゃんと璃凪ちゃんに会いに来るから。」

 璃凪の瞳から大粒の涙がこぼれだし、璃凪は大きな声をあげて泣き始めた。涙は滝のようで、ついでに鼻水も垂らしている。そんなこと、何故お誕生日に言うんだろう?せっかくのお誕生日が、悲しい思い出に変わってしまった。

 望月父がさりげなく翔馬との婚約を打診してきた。まだ幼い璃凪は、その契約がもたらす様々な効果について、良くも悪くも色々な変化が起こるであろうことを思い至ることが出来ない。少し厳しい顔で渋っている両親をよそに、璃凪はあっさりと翔馬との婚約を望んだ。

 璃凪にとって七歳の誕生日は、一瞬で、悲しい思い出から、大切な記念日に塗り替えられた。そして璃凪は考える。今日みたいな特別な日には、大好きな翔馬に贈り物をするのにうってつけだろう。そして聖遺物は何度も練習して、ちゃんと作れる。

 婚約記念の贈り物は指環に決まっている。璃凪は自分のスプーンをオルパパスタイト王金に変容し、それに聖遺物を中に秘めた、愛らしい指環を作った。それを翔馬に渡すと、左手の薬指にはめてくれた。嬉しい。今はぶかぶかだから、他の指にはめていつだって身に着けておいて欲しい。遠くに行くとなると尚更だ。でも宝石が手元にあれば、もっと素敵な指環にできたのに、と璃凪は少し残念だった。

 そして、璃凪は翔馬ににっこりと微笑んだ。

「お兄さん、お兄さんの眼鏡もオルパパスタイト王金で作るから。お兄さんが遠くの学校に行く前に、必ず作るからね。」

 きっとその聖遺物は、翔馬の役に立つだろう。


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