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金瞳は神の末裔の証  作者: 詩・似・愛
第一章 幼い金瞳には試練が多い。

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3 強すぎる力は双刃の剣。

「璃凪ちゃん、世界樹の実を食べるのは辞めといたほうが良くない?」

「ううん、食べないとね、お兄さんに宝物をあげられないの。」

 頬杖をついて眺める翔馬の目の前で、璃凪は世界樹の実を一粒つまみ取る。そして右手の手の平から、白金色の小さなナイフがすうっと飛び出してきた。璃凪は小さな手で器用に世界樹の白い実を二つに切る。断面がくるりと回って、半分の大きさの実に分かれた。璃凪はその小さくなった実をさらに半分に切る。四つに分離されて小さくなった白い実を摘んで、水晶の小瓶に入れた。

 璃凪は六歳になった。望月家に保護されて過ごすようになって、一年が経とうとしていた。望月家長男の翔馬は十三歳になったばかりの少年だったが、璃凪から見れば立派な大人に見える。そして一年の間に、璃凪ちゃん、お兄さん、と親しく呼び合う仲になっていた。



   ***



 璃凪が五歳になって望月家に保護されたばかりの頃、璃凪は神力を使い過ぎて熱を出して寝込んでいた。璃凪がようやく回復すると、望月親子が璃凪を訪ねてきた。両親は、彼らに頭が上がらない様子だった。きっととても偉い人なんだろう。そして息子翔馬が、たくさんのおもちゃを抱えて来てくれている。神獣の小さなぬいぐるみは関節が動いて、色んなポーズを取れる。色んな色のベルがぶら下がっていて、小さなハンマーで叩くと違う音階の鳴るおもちゃは、綺麗な音が出て簡単な音楽が奏でられる。そして大きなスケッチブックと色とりどりのクレヨン。たくさんの子供向けの図鑑。璃凪は嬉しくてたまらない。

「ありがとう、おじさん、お兄さん。」

 璃凪は走って庭に行き、スコップで石を掘り出す。そして、石をちょんと突くと、色とりどりの綺麗な透き通った石に変わる。そして土だらけの手で、その石を差し出す。

「きれいな石をあげる。」

 後を追いかけてきた望月父子が、驚愕した顔でそれを受け取り、土だらけの宝石を試す返す見つめている。熱がひいた璃凪の神力はさらに強くなっていた。璃凪は少し錆びかけたスコップを見て、えい、と神力を込める。スコップは長方形の塊に変わり、みるみる金色に輝き始めた。璃凪は自分の手の中の金塊を見て、思わず泣き出した。

「りなのスコップがなくなった。」

 慌てて翔馬が璃凪の小さな背中を撫でる。

「璃凪ちゃん、大丈夫だから。新しいスコップをプレゼントするよ。」

「ホント?」

 泣きじゃくっていた璃凪は満面の笑みを浮かべる。その様子に翔馬も大人たちも、思わず微笑むのだった。

 そして案の定、璃凪はその夜熱を出した。幼い璃凪にもその因果関係がわかって来ている。遊びすぎて神力を使いすぎると熱が出る。そして熱が引いた後は、格段に神力が強くなっているのだ。出来ないことが出来るようになる。熱にうなされていると、夢の中に瑠璃色に輝く黒い髪の女神様が現れる。

『璃凪、随分神力が強くなって来ましたね。もう少ししたらオルパパスタイト王金にまで変容させることが出来るでしょう。そうしたら、神聖画を読み解いて、聖遺物を復元することができます。本来聖遺物はナルバスティブ神金で作るものですが、ナルバスティブ神金は創世神の力により創造されたもの。金瞳であっても人間の神力では創造できません。今後ナルバスティブ神金を手に入れたら、自分の身を守る聖遺物を復元しなさい。それがあなたにとって必要なことなのです。』

 挑戦の女神の言葉は半分も理解はできないけれど、璃凪の拓跋な記憶力で、一字一句間違えずに覚えた。それが金瞳の能力なのか、璃凪個人の能力によるものかは分からないが、まるで写真や映像に残すかのように、璃凪は覚えようと思ったものは、たった一度見ただけ、聞いただけで、細部にわたって正確に記憶することが出来る。

 望月家が璃凪のために配備した護衛の中に若い女性がいて、この女性が教師資格を持っていた。なぜ教師資格を持っていて、学校の先生にならずに護衛になったのかは、璃凪には不思議だったけれど、この女性はたくさんの子供用図鑑や本を使って、毎日決まった時間に璃凪に教育を施していた。

 その夜の熱は幸い翌朝にはひいていて、璃凪はその女性護衛を質問責めにしていた。

「ゆいせんせい、おるぱぱすたいとおうきんってなに?なるばすてぃぶしんきんってなに?しんせいがってなに?せいいぶつってなに?」

 問われた女性護衛、原田由依は酷く驚いた。

「璃凪さん、そんな言葉、どこで覚えたの?」

「ゆめでちょうせんのめがみさまが言ったの。」

 原田由依は跪き、璃凪を慌てさせた。

「ゆいせんせい?」

「璃凪さん、神聖画や聖遺物のお話は神官様たちが戻られてから聞きましょう。今はオルパパスタイト王金とナルバスティブ神金についてお話ししましょうか。」

 そして図鑑を広げて、元素について教えてくれた。ナルバスティブ神金もオルパパスタイト王金も遷移性金属類だが、分類不能の金属だった。二つの金属は似た性質を示す。すなわち電子だけでなく、光子を減衰させずに通し、どんなに電子量や光子量が増えても決して熱を帯びず、主に電子や光子機器類の導線や、制御回路に使われる。

 しかし二つの金属には決定的な違いがあった。ナルバスティブ神金はまるで自らの意思を持つかのように、自己修復作用があり、何かの形に加工した後も、多彩な形状に変化することができる。そして、決して消滅せず、再生可能だ。

 一方でオルパパスタイト王金は、自己修復作用はもたないが、一度成形すると、外力や熱で形が変形したとしても、形状記憶していて、元の形に戻る。ただし許容量を超える力が加わると、崩壊して黒い土のような物質に変わって消滅する。

 璃凪は半分くらいは理解した。つまり、ナルバスティブ神金の方が偉くて、オルパパスタイト王金でも聖遺物の紛い物は作れる。そして、もっと力を得たら、璃凪にもオルパパスタイト王金なら、金属を変容させて得ることが出来るのだ。

 午前中の授業が終わって皆で昼食を取り、お昼寝の時間と寝かしつけられた後、璃凪はキッチンにこっそり忍び込んだ。目当ては調理鍋だった。シンクの下の収納に収められている鍋の縁を握ると、まるで粘土のように硬い鉄をちぎり取ることができる。手の平に神力を込めると、容易に長方形の形に変わって、金色に輝き始める。もっと力を込めると、金の延べ棒の一部が、不思議な金色とも白金色ともつかない色に変わった。

 半分ほど色が変わって、そこから先に進まず、璃凪はもっと小さい金の延べ棒を作ろうと、また鍋をちぎった。小さな金の延べ棒に変容させて、また神力を込める。色合いが変わって、完全に不思議な金色と白金色の間の金属に変わる。面白い。夢中になって、鍋をまたちぎって、オルパパスタイト王金の小さな長方形の塊にたくさん変容させた。鍋を半分ほどちぎったところで、璃凪は神力を使い果たして、その場にパタリと横になった。

 夕食の支度をしようと、食事当番の護衛とキッチンに入った母親は、そこで衝撃的な光景を目にする。無数のオルパパスタイト王金の小さな長方形の塊の中に埋もれて倒れている璃凪。母親は悲鳴をあげた。


 結局、また璃凪は熱に倒れた。しかも今回の熱は少し深刻だった。一足飛びに無謀な挑戦をしたためだ。いつもより高熱にうなされ、その期間は五日といつもより長かった。看病にあたる両親も、護衛たちも、心配と疲労の色が濃くなる。このまま愛娘を、金瞳を失ってしまうのではないか、そんな恐怖が彼らを襲った。

 璃凪がぼんやりと目を開けると、泣き崩れる母親、憔悴しきった父親、目を離した後悔に打ちひしがれている入江たち護衛が、入れ替わり立ち替わり、璃凪の枕元にいる。そして夢の中では、挑戦の女神が困ったように笑っていた。

『璃凪、少し急ぎすぎました。逸る気持ちを抑えなくてはなりません。オルパパスタイト王金はちゃんと変容できるようになります。けれど、それは世界樹の実を食べて、もう少し創世神の権能を身につけてからです。丸ごと一粒食べられるようになれば、あなたの神力はさらに強く、自在に操れるようになるでしょう。そのうち、ナルバスティブ神金があなたの所に来ます。まずはそれを体の内に収めなさい。』

 ナルバスティブ神金が手に入る?それを体の内に収める?挑戦の女神は不思議なことを教えてくれる。

 そしてようやく熱が下がった璃凪は、ひどくやつれて消耗していた。両親たちは、璃凪にたくさんの好物を食べさせてくれた。辛いことも喉元過ぎれば忘れ去り、璃凪は甘いパン粥や、プルプルのゼリーやプディングに夢中になっている。望月親子もお見舞いに来てくれて、そして、半分にちぎれた鍋、大量のオルパパスタイト王金の小さな延べ棒を、眉を顰めて眺めていた。

「璃凪ちゃん、もっと違う遊びをしようか。」

 翔馬が困ったように笑っている。璃凪も小さく頷いた。

「ちょうせんのめがみさまがね、いそぎすぎちゃダメって言ってた。もっとせかいじゅのみをたべてからって。」

 話を聞いていた母親が悲鳴をあげる。

「璃凪ちゃん、あんなもの食べてはダメよ。」

「すこしずつたべなさいって。」

「たとえ少しずつでも、駄目。」

 望月冬馬はチラと母親を見て制した。

「エリカ、世界樹の実は管理下で与えることにしよう。それが璃凪様にとって必要なことのようだ。」

 そして璃凪を見つめてにこりと笑う。

「璃凪様。世界樹の実は、大人のいるところで食べること。いいですね?勝手に食べたら、世界樹の鉢を没収しますよ。」

 !!

 璃凪は望月冬馬の言う事を聞かざるを得ない。世界樹の鉢植えがあると、璃凪は何故か落ち着いて、なくてはならない大切なものになっていたからだ。

 その後璃凪は金属に触れることを禁止された。土を掘り起こすスコップも、スプーンも、全て木製だ。璃凪は女神様の言う事をきちんと守るつもりでいるので、とても不服、というか不便だった。スプーンはともかく、木製のスコップでは土がよく掘り起こせない。

 そしてふと思いつく。石が自分から出てくるように、土の形を変容すればいいのだ。庭に出て、土に向かって手をかざすと、土がまるで沸騰した水のようにぼこぼこと泡立ち、石が勢いよく飛び出してくる。そして石はすでに宝石に変容していた。それを見守っていた護衛たちが、声にならない悲鳴をあげて、璃凪を抱きかかえて家の中に走り込む。そして璃凪は家から出ることも禁止された。

 望月翔馬は週末になると、親子で璃凪のところに度々訪れていた。部屋の中で退屈そうに図鑑を眺めている璃凪の隣に腰掛け、そっと頭を撫でた。

「璃凪ちゃん、退屈?」

「おそとであそびたい。」

「またお熱を出したら大変だからね。お絵描きして遊ぼうか。」

 璃凪は期待に満ちた眼差しで翔馬を見つめる。翔馬はスケッチブックを開いて、クレヨンの箱を開いた。

「好きなものを描いて。」

 璃凪は黄色いクレヨンを握りしめ、大胆な線を描き始める。太く荒削りな描線だが、何か惹きつけるものがあり、それはみるみる神獣の絵になった。荒削りでも、バランスのいい子供らしからぬ写実的な絵だった。

「しんじゅうさま。」

「うん、そうだね、上手だ。」

 そして翔馬はまた驚愕することになる。スケッチブックの中の絵が、まるでアニメーションのように動き始めたのだ。神獣が走り出し、遠くに行ったかと思うとまた近寄り、スケッチブックの中を走りまわり、走り回った後には、美しい背景が浮かび上がる。すみれの花が咲き乱れる庭園、その背後には、荘厳な白い建物。その建物の前で神獣は寝そべった。

 璃凪は嬉しそうに笑った。

「しんじゅうさま、そこがほんしんでん?りなも行きたい。」

 翔馬はまだ本神殿には行ったことはなかったが、本や写真で見る本神殿の姿とまるで同じに見えた。


 璃凪はそんな風に週末には翔馬に遊んでもらって、すっかり懐いてしまい、翔馬がくる日を心待ちにしていた。そして翔馬とお絵描きをして遊んでいると、懐かしい気配が近づいてきていることに気がつき、玄関の方を見やった。

「璃凪ちゃん?」

「しんかんさまたちがかえってきた。」

 璃凪が玄関の方に走り出すと、少し騒めいた様子で両親や望月冬馬、入江たち護衛が集まっていて、彼らは璃凪を振り返り、そっと背後に下がって道を開いた。そこには少し疲れた様子の三人の女性神官が立っていた。璃凪は神官たちに代わる代わる抱きついた。

「おかえりなさい。」

「璃凪様、お利口にしてましたか?」

「りな、おりこうにしてた。おみやげは?」

 神官たちは笑いながら、璃凪に箱をいくつか渡してくれた。開けてみると、神鳥の木像の掘られたオルゴールや、神獣や神鳥の小さなぬいぐるみの入った神殿のドールハウス、子供サイズの六本弦の木製の楽器が入っている。璃凪は嬉しくてたまらない。喜んでそれらを抱きしめ、リビングの床に並べ始める。

 璃凪がリビングの床で遊び始める姿を見ながら、両親や、教師を兼任する護衛、望月親子が神官たちを囲んで腰掛け、いろいろな報告をしていた。半分にちぎれた鍋と無数のオルパパスタイト王金の小さな延べ棒、半分だけ変容しかけた延べ棒、意志を持ったかのように地中から飛び出してきたたくさんの宝石、スケッチブックに描かれた動く神獣画。現物を見せながら、神官たちに報告し、判断を仰いでいた。

 神官たちは小さくため息をついた。

「璃凪様の成長は、思った以上に早いようです。おそらく、それは璃凪様にとって必要なことなのでしょう。そして本神殿より璃凪様へと預かって参りました。璃凪様、こちらへ来てください。」

 璃凪は顔をあげて遊ぶ手を止め、神官たちの方に走ってきた。神官は、平たい箱と、細長い箱を、包んでいる布から取り出し、そっと蓋を開けた。璃凪の目が大きく見開かれた。そこには、神聖画の図譜が多数掲載されている聖典、そしてナルバスティブ神金で出来た小さな聖杖が納められていた。聖杖のてっぺんには世界樹の枝を象られたもので作られた二つの輪が、二重に重なって繋がっている飾りがついている。一つは正円、もう一つは楕円で、楕円の方は途中でねじれて、表と裏がくっついている不思議な形で、それが正円の内側に横向きに繋がっていて、正面から見ると、まるで無限大の記号の形に見える。世界樹を意味するシンボルだ。

 璃凪には、一目でそれが何なのか、何故それが璃凪の元に来たのか、直ぐに理解した。神聖画。ナルバスティブ神金。夢で聞いた挑戦の女神の言葉は、まさしくこの事だったのだ。

「しんかんさま?」

「これは璃凪様のものです。」

 璃凪が聖杖に手を伸ばすと、まるで意思を持っているかのように、するすると細い紐のように解けて、真っ直ぐに璃凪の右手を突き刺した。そして体の中にぐいぐいと入り込んでいく。右手は痛くはなかったが、体の中に太い針が入り込んでいくような衝撃と、その場所が酷く熱を持った感覚を覚えた。璃凪と聖杖を引き離そうとして立ち上がった両親を、神官たちが止めていた。

 璃凪の体のなかに聖杖が入っていったのは、長い時間だったような気がしたが、実際は一分にも満たない時間の出来事だった。これがナルバスティブ神金を体に収めるってことだろうか。なんだかお腹が熱い。璃凪はワンピースをめくり上げ、自分のお腹を見た。お腹には、聖杖のてっぺんについていたものと同じ、二つの円の重なった文様が浮かんでいる。神官たちは跪いた。

「これは世界樹のシンボルです。璃凪様は新たな一歩を踏み出し、そして歴代の金瞳のどなたも到達しなかった高みに辿り着かれました。」

 璃凪は、なんだかとても体が怠くなって、その場に蹲り、意識を失った。


 やっぱり璃凪は熱に倒れた。高熱にうなされたが、翌朝にはスッキリと熱は下がっていた。そして、璃凪は自分の体の変容を感じていた。体の中を循環する神力を、自分で把握できるようになったのだ。そして、見える景色も変わっていた。今まで通りの景色や人の姿に重なるようにして、生命力のようなもの、璃凪の神力と似ているけれど、少し違う神力が循環しているのが見える。

 神官たちや護衛たちには、共通した人間の固有の神力のようなもの、両親には璃凪と似た神力が循環していて、神官たちや護衛たちよりはるかに強い神力を感じる。そして望月親子は、璃凪と良く似ているけれど少し異なる神力で、両親より強い。とりわけ翔馬には強い神力が循環していた。

 週末に遊びに来てくれた翔馬に、璃凪は尋ねた。

「お兄さん、つよいチカラがある。どうして?」

「ああ、僕は神の末裔と言われる十二支族だからね。僕は先祖返りって言われているんだ。璃凪ちゃんのような金瞳ではないけれど、それに準ずる神力があるって言われてるんだよ。」

 その話を聞いて、璃凪は納得する。でも、どうしてだろう?こんな強い神力を持っている人がいるのに、なぜ璃凪が金瞳として生まれたのだろう?そう尋ねると、翔馬は少し憐憫のこもった目で璃凪を見つめた。

「他にも先祖返りがいるらしい。それでも足りなくて、きっと璃凪ちゃんの神力が必要なんだろうね。」


 そして神官たちの立ち会いのもと、璃凪は時々世界樹の実を食べた。丸ごと一個は多すぎる。だから小さく切る必要があるのだけれど、世界樹の実は普通のナイフでは切れないらしい。ナルバスティブ神金製でないと切れないそうだ。

 璃凪はじっと自分の右手を見た。聖杖が入っていった右手の平には、うっすらと白金に輝く紋様がある。世界樹のシンボルだ。ふっとそこに神力を集中させると、手の平のシンボルから小さな白金色のナイフが飛び出してきた。

 璃凪が世界樹の実をちぎり、小さな手で実を押さえて恐々ナイフを当てると、まるで柔らかなプティングのように、つるりと二等分になる。切れた断端はくるりと丸まって、半分のサイズの元の木の実の形になる。そして半分になった実を半分に切る。四等分のサイズの実を見て、璃凪はすこし考える。これをどこかに保管しておいた方が良さそうだ。勿体ない。

 すうっとナイフが手の平の紋様に吸い込まれる。そして、璃凪は机の上の文鎮がわりに置いていた、お庭の石が水晶に変わったものを手に取る。ふわりと手の平にすみれ色の光が浮かび、水晶は形を変えて小さな小瓶の形になった。璃凪はにこりと笑って、その小瓶の中に、四等分した世界樹の実を入れた。

 その一連の作業を、神官たちは息を潜めて見守っていた。彼女たちにとって、目の前の出来事は奇跡以外の何者でもなかった。畏敬の念を持って、幼い金瞳を見守るしかない。そしてこれほどの神力を持って生まれたのには、きっと訳があるのだ。彼女たちにとって金瞳を大事に守り育てることが、人生の大きな役目であると心に刻んだ。

 そして、璃凪は四つに切り分けた実の一つを口に入れた。柔らかく弾力があって、不思議な噛みごたえだ。甘くてすこし酸っぱくて、璃凪の好きな味だ。やっぱり食べると直ぐに頭が痛くなって、体中が痛くなって、体の中を循環する神力で痛みを制御すると、世界樹の神力が馴染んでくる。痛みはうまく神力が馴染まない証拠なのだ。聖杖が体に入って以来、神力の制御がうまくいくようになった気がする。

 だけど、やっぱり熱が出た。最初の頃ほどの高熱ではないので、世界樹の神力がうまく馴染むようになったのだろう。


 幼い璃凪にとって、一日はひどく長い。だけど、璃凪の理想とする変容の力はなかなか手に入らない。オルパパスタイト王金を変容する許しはまだ出ないし、だから神聖画を読み解いて、聖遺物を再現することはまだ出来ないのだ。

 璃凪は大好きな人たちに、紛い物でも聖遺物を渡したかった。パラパラと開いて見た神聖画の後ろの方には、いろんな物理的な危険から身を守る性能のある聖遺物の神聖画があった。これを是非、大事な人たちに渡したい。璃凪は神聖画を見ると、なぜか一目で機能がわかって、全ての神聖画の細部まで覚えている。神力さえ身につけば、いつだって再現することができる。

 だから璃凪は決まったペースで世界樹の実を食べている。自分の中の神力が少しずつ強くなり、神力も変容していくのを感じる。



   ***



 そうして璃凪は六歳になった。その頃は自分でペース配分を覚え、実の食べ方も璃凪自身に任せられている。

「璃凪ちゃん、世界樹の実を食べるのは辞めといたほうが良くない?」

「ううん、食べないとね、お兄さんに宝物をあげられないの。」

 心配そうに見つめる翔馬の目の前で、璃凪はパクリと世界樹の実を食べた。今日は四等分した実を二つ食べてみよう。

 璃凪は大好きな人たちに、一刻も早く宝物をあげたいのだ。それは何か危険が迫ってきているような、ひどく急かされる気持ちだった。


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