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金瞳は神の末裔の証  作者: 詩・似・愛
第一章 幼い金瞳には試練が多い。

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2 黒い服の男たちは敵なのか、守護者なのか。

 璃凪は五歳の誕生日を前に、白い実を食べさせられた。その実は世界樹の接木の実だと教えられた。璃凪の部屋の窓際に置かれた小さな白銀の鉢に、黒い幹、黒い枝、黒い葉の小さな木が植えられていて、白く小さな実がたわわに実っている。それを一粒取って、口に入れる。甘くて少し酸っぱい果汁が広がり、少し弾力のある柔らかな果肉が噛みごたえがあって、なんだか癖になる実だ。

 だけどそれを一粒食べたら、猛烈な吐き気と頭痛に襲われ、身体中が焼けつくように痛み、足がガクガクし始めた。耐えきれず璃凪はその場にしゃがみ込み、頭を押さえて悲鳴をあげた。

「璃凪!」

 見守っていた両親がたまらず璃凪に駆け寄り、父親がその小さな体を抱きしめ、母親が手を握りしめた。その時、璃凪の耳元で、優しい女性の声が聞こえてきた。

『大丈夫、璃凪。あなたはこれを、自分の体に合わせて変容できる。今のあなたの神力は純然たる導きと変容の権能。その実は、純粋な創世の権能。あなたは幼すぎて、神力はまだ弱くて、うまく制御もできず、今はまだ創世の権能を自分のものに出来ないけれど、いずれそれを手に入れ、自在に操る事ができるでしょう。だから、自分の体に合わせて変容しなさい。』

 その声はとても優しくて、でも毅然としていて、その言葉には自然と従ってしまう。璃凪は体の中の神力を全て解放した。体からふわりとすみれ色の光が溢れ、体の痙攣が治まっていく。本能的に璃凪は理解した。創世の権能は、創造する力だけではない。爆発的にあらゆるものを発生する創造の力と、逆に完全に無にして消し去る消滅の力という、表裏一体の力を併せ持ち、世界に均衡を与えているのだ。璃凪の体に合わせて、創造と消滅の比を変容していく。少しずつ、吐き気と痛みが治まってきた。それでも、痛みは幼い体を容赦なく責め続けた。

『良い子ね、璃凪。体に負担はくるけれど、世界樹の実を食べて精進なさい。あなたの神力が強くなり、制御もうまく行くようになって、いずれは創世の権能も手に入れる事ができるでしょう。』

 その声が遠のいていくと、代わりに両親の声が聞こえてきた。

「なんてことだ。こんなに苦しんで。他に方法はなかったのですか。」

「璃凪、璃凪、まだこの子は五歳にもならないんです。神様、この子を私から奪わないでください。」

 父親の腕の中で、璃凪は目を開いた。周囲が沈黙する。璃凪は父親の腕をキュッと掴んだ。身体中が悲鳴を上げている。

「パパ、りな、とってもいたい。」

「ああ、璃凪、可哀想に。たとえ成功しても、こんな状態では出国は無理です。」

「りなの目の色が変わったの?」

「うん、変わったよ。試みは成功だ。」

 父親がそう答え、父親の隣で涙ぐんでいる母親が、璃凪に手鏡を見せてくれた。瞳の色は淡い琥珀色になり、両親と同じ色だ。髪は赤っぽい茶色に変わり、両親の色を混ぜた色だ。璃凪はにっこりと笑った。本来の自分の色より、この色の方が好きだと思う。荒い息をしながら手鏡を見ているうちに、瞳も髪もすうっと元の色に戻る。神官が小さくため息をついた。

「十五分です。」

「十五分?こんなに苦しんでたったの十五分ですか?」

「文献では、丸一日、金瞳の色を変え、神力を抑制したとあるのですが、恐らく璃凪様のお力は、歴代の金瞳を遥かに超えて強力なのでしょう。このように激しい副反応は記録にありませんでした。」

「これでは、とても出国は無理ではありませんか?」

「大神官長様に相談してみます。」

 父親たちの会話は、璃凪にはよく理解できなかったけれど、世界樹の実で瞳の色を変える試みは失敗だったのだと分かる。そして、意識を失った。


 璃凪はその後、三日三晩、熱にうなされた。神官たちや両親が入れ替わり立ち替わり、璃凪の看病をしてくれていた。そして璃凪は夢現の中で、美しい女性と出会っていた。瑠璃色を帯びて波打つ不思議な色合いの黒い髪、淡い青紫色の瞳。顔立ちは母親に似ていると思う。その女性はにっこりと微笑みかける。

『璃凪、大変な思いをしましたね。それでも、世界樹の実を食べて、神力の加減と制御を覚えないといけません。』

 ああ、この声は、世界樹の実を食べて苦しんでいた時に、励ましてくれた声だ。それでも璃凪は、あんな苦しい思いはもうしたくない。

『りな、とてもいたいの。もうたべたくない。』

『でも、熱から覚めた時は、きっと今まで以上に神力が強くなっていることを感じるでしょう。そして、それはあなたにとって必要なことなのです。』

『チカラがつよくなったら、いたくなくなる?』

『ええ、少しずつね。だからあなたも少しずつ食べて、体を慣らしていけばいいのです。丸ごと一個、食べる事ができるようになったら、きっと次の段階に到達するでしょう。』

『うん、りな、がんばる。おねえさんはだあれ?』

『私?私は挑戦と芸術のミューズ。道標と審判のローと共に、あなたを見守っています。』

 そして目を覚ました時、確かに璃凪の神力が強くなっていることを感じたのだった。


 璃凪の五歳の誕生日に、神官たちは綺麗な箱を持ってきた。中を開けると、白銀に輝く薄い布が入っている。神官はにっこりと笑って、布を取り出し、璃凪の頭からその布を被せた。

「聖遺物のナルバスティブ神金でできた布です。璃凪様、なりたいものに変身できますよ。」

「なりたいものにかわれるの?」

「はい、なりたいものをイメージしてみてください。」

「じゃあ、りな、しんじゅうさまになりたい。へんしん!」

 璃凪がそう言うと、眩い光がその布ごと璃凪を包んだ。周囲にどよめきが起きる。

「りな、しんじゅうさまになった?」

「はい、素晴らしい神獣様です。璃凪様は今から綺麗な箱に入って、神獣様になりきって下さい。なにも心配しないで。私たちが傍にいます。」

 父親がホッとしたように璃凪を見つめた。

「なるほど、どう見ても神獣様の像です。」

「はい、昔、本神殿から借り受けた聖遺物を返還すると申請してます。このまま出国していただきます。」

「しかし、無事に出国できるでしょうか?」

「聖遺物の中にいれば、金瞳の神力は完全に隠されます。私たちが傍についています。大丈夫です。」

「我々はもう璃凪とは・・・。」

「大丈夫です、奥様はブラッドフォルトの末裔。時間をおいて、必ず本神殿にお招きいたします。」

 父親と神官の会話の意味は、璃凪にはよく理解できなかったけれど、神獣になりすまして、どこかに行くらしいと分かった。そして両親はその後、同じところに行くようだ。その行き先はどんな所だろう?両親と一緒ならきっと楽しいに違いない。

 神官は璃凪を抱き上げて、玄関を出た。玄関先のポーチには、綺麗な彫刻が施された箱が置いてある。箱の上の方には金属製の網が張られていて、息苦しくならないよう設計されていた。蓋を開けると、柔らかな布張りで、璃凪がうずくまって入っていたら、気持ち良くてきっと眠ってしまうだろう。

 神官はそっと璃凪を箱の中に入れて、蓋を閉じる。

「すぐ近くに控えております。しばらく隠れんぼしておきましょうね。声を掛けるまで、隠れておいてください。」

「りな、かくれんぼ、だいすき。」

 璃凪は大掛かりな隠れんぼが嬉しくてたまらない。柔らかなクッションに包まれて、蹲っているうちに、うとうとと眠くなってきた。箱を持ち上げられる気配がして、どこかに箱ごと運び込まれ、周囲が暗くなった。


 いつの間にか、璃凪は柔らかく暖かなクッションに包まれ、眠っていたようだった。周囲に何か争う不穏な気配に気付き、璃凪は目を覚まして、はっと顔をあげ、網目の隙間から外を伺った。見えるのは暗く狭い空間で、貨物室に入れられているようだった。そして何かがおかしい。いつも家の周りを取り囲んでいる気配が、次々と拘束されているようだ。弱くなってはいるけれど、消えてはいない。命は失ってはいないようだった。何か大声で言い争う声と、バタバタと何かがぶつかり合う音がして、パアッと光が差し込んできた。貨物室のドアが開けられたようだった。

「何をご無体な。神聖地区の本神殿に返納する聖遺物です。お控えください。」

「どのようなものか、改めさせて貰う。」

 言い争う声がして、璃凪の隠れていた箱の蓋が開けられた。璃凪は目を閉じ必死に息を殺して、神獣の像になりきった。

 頭の上から、称賛のため息が漏れる。

「なんとも美しい神獣像だ。翔馬、これは本物か?」

「お父さん、触ってみます。」

 璃凪の頭を優しく撫でられる感触があった。だけど、その手が触れた時に、ビリビリと何か力が弾ける感触がある。次の瞬間、勢いよく、璃凪の頭に被せられていた布が剥ぎ取られた。驚いて見上げる璃凪と、布を剥ぎ取った少年の目がパチリと合った。少年の目は驚きに見開かれる。その少年は端正な顔立ちで、白金のフレームの眼鏡の奥の瞳は、淡い琥珀色よりももっと綺麗な黄色の、宝石のように澄んだ色だった。少年の隣で、父親より年上の大人の男性が覗き込んでいて、その男性の目も驚きに見開かれている。二人は跪いた。

「金瞳様、お迎えにあがりました。このような狭いところからすぐに出ましょう。」

 その男の人が、璃凪を抱き上げて箱から出した。そして璃凪を箱の縁に腰掛けさせて、するりと布を剥がした。璃凪は不思議そうにその男の人を見た。

「おむかえ?どこに行くの?」

「もっと安全なところです。」

 璃凪は周囲を見回した。両親や神官たちが、黒いスーツを着てサングラスをかけた、いかつい男たちに取り押されている。瞬時に璃凪は思った。この人たちは悪い人だ。 

「イヤ!りな、ほんしんでんにいくの!」

 璃凪がそう叫ぶと身体中からすみれ色の光が輝き、璃凪を包んでいた白金色の布が盛り上がって、巨大な白金の獅子の形に変わる。それは神獣の姿だった。神獣は璃凪を背に乗せ、咆哮を上げる。傍にいた男性と少年は、強い圧力で跳ね飛ばされた。黒スーツの男性たちがすぐに反応して動き、二人の体を受け止める。

「望月様!翔馬様!」

「よい、金瞳様を捕らえろ。金瞳様を傷つけるな。」

 神獣は璃凪を背に乗せて、高く飛び上がる。その頭上に次々と網が投げられる。ぐいと、神獣は地面に引き下ろされた。

「イヤ!いきたくない!りなをつれていかないで!」

 再び、璃凪の身体からすみれ色の光が輝く。次の瞬間、璃凪と神獣を拘束していた網が、すみれの花で編んだ網に変わり、それがすみれの花にバラバラに解け、璃凪と神獣の身体や足元に落ちていく。その一瞬の隙をついて黒スーツの男たちが、次々と神獣に体当たりして抑え込む。一番大柄な男が璃凪を抱き抱えた。

「イヤ!」

 神獣の被毛が一筋伸びて、まるで鞭のようにしなり、その男を強かに打ち据えた。服が裂け、頬や、腕に血が滲む。璃凪は血を見て怯んだ。怪我をさせるつもりはなかった。じわりと涙が浮かぶ。

「きれいな石をたくさんあげるから、はなして!」

 地面がボコボコと盛り上がり、噴き出すように無数の小さな石が舞い上がった。その石は瞬時に色とりどりの宝石に変わり、璃凪を抱きしめる男の上に、打ち据えるようにバラバラと落ちていく。男はまるで璃凪を守るかのように、さらに強く抱きしめた。

「イヤ、イヤ、イヤ、つれていかないで。」

 璃凪は泣き喚きながら、神力を使い果たしてしまい、ふっと意識を失った。


 璃凪が目を覚ました時、見慣れた天井がぼんやりと見えた。どうやら自分の部屋のようだった。ゆっくりと視線を動かすと、璃凪のお気に入りのすみれの花の柄の壁紙、優しい色合いの木目の窓枠、窓のそばに置いた、たわわに白い実をつけた真っ黒な世界樹の鉢植えが見える。そしてベッドの近くには、黒いスーツの男が座って璃凪を見守っていた。頬にガーゼが当てられて、少し痛々しい。咄嗟に璃凪はベッドの上で身を竦ませ、その男から逃れようと身動きした。男はそっと璃凪の頭を撫でた。

「金瞳様、怖がらないでください。私は敵ではありません。」

「りなをつれていかない?」

「望月家当主様と直接お話しください。」

 望月家?困惑する璃凪を残し、その男は立ち上がった。黒いスーツは所々裂けていた。璃凪は気を失う寸前のことを思い出した。この人に怪我をさせてしまった。

「あの、おじさん?」

 璃凪が呼び止めると、男は振り返った。

「ケガさせてゴメンなさい。いたかった?」

「大丈夫ですよ、これくらい。私の方こそ、金瞳様に怖い思いをさせてしまって、申し訳ありません。」

 男は微笑んだ。いかつい顔に似合わない、優しい微笑みだった。そして男と入れ替わりに、璃凪を箱から出した男と少年が入ってきた。璃凪は思わず毛布を引き上げ、顔を隠した。二人はベッドの近くに椅子を引き寄せ腰掛け、恭しく頭を下げる。

「初めまして、金瞳様。私は十二支族の一つ、望月家当主の望月冬馬です。これは長男の翔馬です。」

 存外に丁寧で優しい声に、璃凪は顔を出した。そして二人をじっと見つめた。望月冬馬は、父親より年上のようだった。随分端正な顔立ちで、瞳の色は深い琥珀色だ。そして隣の少年は、望月冬馬によく似た綺麗な顔立ちで、今は眼鏡をかけておらず、顔立ちがはっきりとわかる。そしてその瞳の色は澄んだ淡い黄色で、まるで宝石のような瞳だった。まだ十代初めの年齢だろうが、幼い璃凪には十分に大人に見えた。

「りなをつれていかない?」

 璃凪がそう尋ねると、望月冬馬は柔らかな声で答える。

「璃凪様、この家にこのまま居たいのですか?」

「りな、ほんしんでんにあそびにいくの。」

「璃凪様、残念ながら、今はまだ本神殿には行けません。」

「いつか、あそびにいける?」

「はい、いつか必ず。」

「だったら、あそびにいくまでは、このおうちにいたい。」

「それが璃凪様のお望みでしたら。」

 璃凪はホッとしたように笑った。まだ幼い璃凪にとって、今暮らしている家は、安心して暮らせる居場所であり、世界そのものだったからだ。ホッとしたら、急に体が怠くなってきた。神力を使いすぎた反動だ。体がぽっぽと熱くなってきて、璃凪はぐったりと目を閉じた。


 璃凪はそれから三日三晩、熱にうなされていた。璃凪の枕元には両親や、あの黒スーツの男性がいつも居てくれて、看病してくれた。時々、望月のおじさんやお兄さんも様子を見に来てくれていた。

 望月のおじさんや黒スーツの男性が来てから、璃凪の周囲は少し変わった。まず気がついたのは、熱にうなされている時に、食べさせて貰う食事の変化だった。食べたことのない、美味しいものをたくさん食べさせてくれる。小さくカットされた果物がたくさん入った、はんなりと甘酸っぱい果実水。口に入れるととろとろにとろける、甘いミルク味のパン粥。とても美味しくて、くたびれたお腹に優しくて、璃凪はもっと、もっと、と強請った。

 それから神官たちの姿が見えなくなっていた。代わりにお世話をしてくれる黒スーツの男性は、まるで壊れ物を扱うかのように、璃凪を大切にしてくれた。男性は入江諒太と名乗った。

 熱にぼうっとしながら、璃凪は時々おしゃべりをした。相手は入江だったり、両親だったりと、その時で違った。熱でうなされている璃凪は、いつ入れ替わっているのか、気が付かない。

 ある時は、父親が傍にいた。

「パパ、あの黒いふくの人たちはわるい人なの?」

「違うよ、璃凪。あの人たちは、璃凪が悪い人に捕まるのを止めに来てくれたんだ。今は、璃凪を守ってくれている。」

「わるい人ってだあれ?」

「東條家だ。璃凪を狙っている。」

 トージョー。とても悪い人なんだと、璃凪の頭に強く刻み込まれる。

 そしてある時は、母親が傍にいてくれた。

「ママ、りな、ほんしんでんにいけないの?」

「いつかは行けるわ。本神殿のある神聖地区は、お母さんの故郷なの。」

「ママのふるさと?」

「ええ、そうよ。とても綺麗なところ。みんなで一緒に行きましょうね。」

「しんかんさんたちもいっしょに?しんかんさんたちはいないの?りなに会いに来てくれない。」

「神官様たちは、今、神聖地区にお使いに行っているの。直に帰ってくるわ。」

「おつかい?」

「ええ、璃凪にお土産を持ってきてくれるの。」

 それはとても楽しみだ。璃凪は神獣が気に入っていて、たくさん神獣のおもちゃが欲しかった。璃凪はうっとりと笑う。

「しんじゅうさまのおもちゃをもって来てくれるかな。」

「ええ、きっと沢山持って来てくださるわ。神聖地区は神獣様の寝床なのだから。」

 神官たちが早く帰って来てくれないかな、と璃凪は嬉しそうに微笑んだ。

 そして、両親が外している間は、いつも入江が傍に控えていてくれた。そっと璃凪を抱き起し、美味しい果実水を飲ませてくれる。果実水を飲んだ後、コップに沈んでいる果物を、無骨な手つきでスプーンですくって食べさせてくれた。入江の傷は浅かったのか、頬のガーゼは外され、ほんの少し赤みを帯びた筋が走っている。その傷跡を見るたびに、璃凪は申し訳ない気持ちになる。

「いりえさん、ケガさせてゴメンなさい。いたかった?」

「いいえ、璃凪様。これは怪我のうちに入りません。」

「どうしていりえさんが、りなのそばにいてくれるの?」

「冬馬様の、望月家当主様からの、指示ですから。」

「もちづきのおじさんがそう言ったから、りなのそばにいるの?」

 璃凪はちょっとだけ悲しくなった。入江は柔らかく微笑んだ。

「もちろん、璃凪様が大好きで、傍にいたいと私も願ったからですよ。」

 璃凪は嬉しくなってにこりと笑う。入江は怪我をさせた璃凪を嫌わずに好きと言ってくれている。その言葉に嘘はなかった。璃凪は本能的に、好きと思ってくれる人以外、自分の傍にはいて欲しくなかった。

 そして、少し回復した璃凪が体を起こし、入江相手に世界樹の絵本を開いておしゃべりをしていると、望月の親子が入ってきた。チラと望月冬馬が目配せすると、入江は一礼して席を外す。ベッドの横に椅子を運んで、望月親子は並んで腰を下ろす。

「璃凪様、お加減はいかがですか?」

「りな、げんきになったよ。いりえさんとおしゃべりしてた。」

「入江と仲良くなって何よりです。入江はこれから璃凪様のお傍に控えて、璃凪様を守ります。」

 入江はずっと璃凪の傍にいてくれる。璃凪はなんとなく、熱が下がって、神官たちが戻ってきたら、入江はいなくなると思っていた。でも、ずっと傍にいてくれる。嬉しくなって、璃凪はにこりと笑った。

 望月冬馬は窓の近くに置かれた世界樹の鉢植えを、少しばかり苦々しく見つめた。

「世界樹の実は、璃凪様の体に触ると思います。これは引き上げましょう。」

「もちづきのおじさん。それはダメ。ちょうせんさんが、この実をたべて、チカラをつけないさいって言ったの。」

 璃凪が慌ててそう言うと、ギョッとしたように、望月の親子が璃凪を見つめた。そして探るように冬馬が尋ねた。

「挑戦様が?何と?」

「えっとね、りなのチカラはへんようだけだから、この実をたべて、そうせいのチカラをみにつけなさいって。」

 親子は互いに目を見合わせ、璃凪に深々と頭を下げる。璃凪は少し不安になった。何か変なことを言っただろうか?

「璃凪様、何かお望みは?」

「はやく、しんかんさんたちに会いたい。おみやげをたくさんもって来てくれるって。りな、しんじゅうさまのおもちゃがたくさんほしい。」

「神官たちは直に帰って来ますよ。神獣様のおもちゃは私たちが差し上げましょう。」

 璃凪は嬉しそうに笑う。その笑顔に釣られて、望月親子も笑顔になる。もうすぐ神官たちも帰ってくるだろう。そして、望月親子や入江率いる黒スーツの男性たちが加わって、璃凪の世界はまた賑やかになった。 


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