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生者失格~異世界転生したらもう死んでたんだが~  作者: ぐうたらするめ


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第18話「冥境の門が開く」

 残り5日。


 教会の最終審議の日と、冥境の門の崩壊が——同じ日に来た。


---


 朝、空が割れた。


 紫色の裂け目が、町の上空に広がっていく。冥境の門が完全に開き始めたのだ。


 地面が揺れ、墓地から、町の地下から、周辺の荒野から——死者が溢れ出した。前回の比ではない。数百体。あるいはそれ以上。


「全員、配置につけ!」


 レオンの号令が響いた。冒険者ギルド、教会の神官団、町の兵士——生者側の全戦力が動員された。


「ポジオ!」


 リリアが走ってきた。


「最終審議は——今日の午後です。教会の大聖堂で。でもこの状況では——」


「審議どころじゃねえな」


「でも審議を延期すれば、90日の期限に間に合わなくなります」


「……なら、並行してやるしかない。お前は審議に行け。俺はここで食い止める」


「でも、あなたは行動制限——」


「今この状況で行動制限もクソもあるか! 町が壊れるぞ!」


 リリアは一瞬迷い、そして頷いた。


「わかりました。審議は私が何とかします。……ポジオ。生きて——いえ、存在し続けてください」


「ああ。行け、リリア」


 リリアが教会へ走っていった。


---


 空の裂け目が広がり、その奥に——影が見えた。


 巨大な影。朽ちた王冠。紫の炎を灯す眼窩。


 冥境の屍王グラドゥス。


 夢の中でしか見えなかった存在が、現実に姿を現そうとしている。


「器よ。時間だ」


 グラドゥスの声が、空から降ってきた。町中に響く、死の共鳴。


「生者が汝を拒んだ。教会は汝に猶予を与えなかった。だが我なら——」


「断ると言っただろ。何度でも断る」


「ならば力ずくで迎えよう」


 冥境の門から、上位アンデッドが溢れ出した。骸骨の騎士団。死霊の魔術師。腐った巨人。——低級の群れとは次元が違う。


「レオン!」


「見えている! ——全軍、防衛陣を張れ! 町への侵入を許すな!」


 レオンが聖剣を振るい、骸骨の騎士を一閃で両断した。だが次から次へと来る。


---


 その時、背後から声が聞こえた。


「新入り。出番だぞ」


 ボーン先輩だ。


 そして——先輩の後ろに、墓地の古参アンデッドたちが並んでいた。骸骨、ゾンビ、浮遊霊、死者の騎士。数は少ないが、一人一人の目——眼窩に灯る光——が、決意に満ちていた。


「先輩!」


「約束通り、時間を稼いでやる。こいつらは冥境側の出身だ。グラドゥスの配下と正面からやり合えるのは、同じ死者だけだ」


「でも先輩、お前たちが戦ったら——」


「消滅するかもな」


「——!」


「だが、それでいい。俺たちは俺たちの意志で選んだ。お前が生き返れるなら、それで十分だ」


「先輩……」


「泣くなって言ってるだろ。湿気——」


「わかってるよ! ……先輩。必ず生き返る。先輩のことは絶対に忘れない」


「忘れていいぞ。俺の名前、自分でも覚えてねえし」


 ボーン先輩は笑った。カタカタと、骨が鳴る笑い声。最初に会った時と同じ、乾いた笑い声。


---


 墓地のアンデッドたちが、冥境の先遣隊と衝突した。


 死者同士の戦い。奇妙で、悲しくて、でも美しい光景だった。


 ボーン先輩が古い骸骨の剣を振るい、グラドゥスの騎士と斬り結ぶ。


「死者が生者の味方をするなど、前代未聞だ!」


「前例がないなら、俺たちが作る。あいつの口癖だ!」


---


 俺はレオンの横に立った。


「レオン。俺もやる」


「お前のスキルは微量だ。上位アンデッド相手に通じるか?」


「微量でもノイズにはなる。お前の剣と合わせれば——」


「わかった。やるぞ、ポジオ」


 勇者と元骸骨が、並んで剣を構えた。


 いや、俺は剣を持っていない。素手だ。素手で何する気だ。


「武器! 武器がない!」


「お前、冒険者なのに武器を持ってこなかったのか!?」


「Fランクの装備予算を知ってるか!? ゼロだぞ!」


「……俺の予備の短剣を貸す。落とすなよ」


「サンキュー。生き返ったらおごるから」


「約束だからな」


---


 ネクロミアが研究塔から駆けつけた。黒いローブをはためかせ、死霊術の杖を構えている。


「準備はどう?」


「セレスの呪い制御は完了したわ。あとは蘇生儀式の術式を組むだけ。——でも、この状況で儀式をやるの?」


「やるしかない。今日しかない」


「……なら、場所は教会の大聖堂がいいわ。聖なる力と死霊術を同時に扱える空間は、あそこしかない」


「教会……リリアが審議をやってる場所か」


「ええ。審議のど真ん中で蘇生儀式を始めることになるわね。史上最悪のタイミング」


「史上最高のタイミングだろ。教会の目の前で蘇生すれば、許可もクソもなく認めざるを得ない」


「……それはそうだけど、常識的に考えて——」


「常識は俺にはない。行くぞ」


---


 セレスが来た。白い衣装に、決意を秘めた穏やかな瞳。


「ポジオさん。準備はできています」


「セレス。本当に大丈夫か。無理はするなよ」


「大丈夫です。ネクロミアさんに教えてもらいました。呪いを制御する方法を」


「制御……」


「私は差し出されるだけの存在じゃありません。自分の力を、自分の意志で使います」


 セレスの目が、真っ直ぐ前を見ていた。


「……ありがとう、セレス」


「お礼は、生き返ってから言ってください。人間の口で」


「……ああ。必ず」


---


 大聖堂を目指して走る。


 町の通りにはアンデッドが溢れている。冒険者たちが戦い、兵士が壁を作り、墓地の仲間たちが時間を稼いでくれている。


 全員が、俺の蘇生のために動いている。


 不純な動機で始めた旅が、こんなにたくさんの人を巻き込んだ。


 ……いや、巻き込んだんじゃない。みんな、自分の意志で選んだんだ。


「行くぞ。世界を救って、生き返って、モテてやる」


 順番がめちゃくちゃだが、今はそれでいい。


---


第18話「冥境の門が開く」 ― 了


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