第8話『禁酒教団あらわる』
水か酒か。
朝から騒がしい連中が現れました。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
ムギルの町の朝は早い。
石畳の通りには荷車が行き交い、麦袋を積んだ商人たちが声を張り上げる。
焼きたてのパンの香り。
果実を煮詰めた甘い匂い。
そして――
酒場の樽を開ける、景気のいい音。
本来なら、そういう町だった。
だが、その朝は違った。
町の中央通りに、妙な静けさが広がっていた。
酒場の前には割られた木樽。
地面に流れる黄金色の液体。
店主たちは頭を抱え、通行人たちは遠巻きに様子を見ている。
その中を、マサムネとジャックは歩いていた。
「……嫌な予感しかしねぇな」
マサムネが顔をしかめる。
隣のジャックは帽子を押さえながら、樽の破片を拾い上げた。
「これは上等な麦酒だったな」
「分かるのかよ」
「香りだ、マイフレンド」
ジャックは砕けた木片を握りしめ、天を仰いだ。
「なんという悲劇……!」
「知らんがな」
そこへ、ギルド職員が慌てて駆け寄ってくる。
「マサムネさん! ジャックさん! 探してました!」
「どうした?」
「ムギル醸造所が襲われています!」
「やっぱりか」
職員は声を潜めた。
「犯人たちは白いローブ姿で……“禁酒教団”と名乗っています」
ジャックの目が見開かれた。
「……ついに来たか」
「知ってんのか?」
「噂だけはな。酒を悪とし、宴を堕落とし、杯を見ると割りたがる連中だ」
「迷惑すぎるだろ」
職員は震えながら続けた。
「連中はこう叫んでいました」
『酒を捨てよ!』
『聖水こそ正義!』
マサムネは思わず聞き返した。
「……聖水?」
「はい」
「それ、何なんだ?」
「ただの水です」
「ただの水かよ!」
ジャックが拳を震わせる。
「酒を否定し、水を神格化するとは……!」
「お前も大概大げさだけどな」
その時だった。
町の奥から悲鳴が響く。
「醸造所の樽がーっ!!」
「麦芽倉庫がやられたぞー!」
職員が青ざめる。
「急いでください!」
マサムネは歯を食いしばった。
「……ったく。異世界来ても、トラブルばっかだな」
ジャックがにやりと笑う。
「ならばいつものアレだ」
「分かってるよ」
マサムネは懐から小瓶を取り出した。
中には昨夜残しておいたメウ酒が入っている。
「朝から飲む羽目になるとはな……」
ぐい、とあおる。
体の奥に熱が走った。
視界が揺れ、光が舞う。
次の瞬間――
長い桜色の髪が風になびく。
すらりと伸びた手足。
凛とした眼差し。
女剣士サクラが、その場に立っていた。
通行人たちがざわめく。
「おお……!」
「また出たぞ、美人剣士!」
ジャックが帽子を取って一礼する。
「待っていたぞ、レディ・サクラ!」
「うるさい。行くぞ」
サクラは剣の柄に手をかけ、醸造所の方角を見る。
その先で、白ローブの集団が樽を転がしながら叫んでいた。
『酒は悪!』
『酔いは罪!』
『聖水こそ正義!』
サクラはため息をついた。
「……面倒くさい連中だな」
ジャックが銃を回しながら笑う。
「同感だ」
二人は駆け出す。
ムギルの町最大の酒蔵を守るために――。
次回、ムギル醸造所防衛戦!
※良い酒は、人も物語も少し豊かにします。
※飲めない人には無理にすすめないようにしましょう。
(第9話へつづく)
聖水と言いながら中身は水。
次回、禁酒教団との初激突です。




