表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラとマサムネ異世界ほろ酔い漫遊記  作者: まほ。かんた。
7/15

第7話『レベルアップしたのに強くなっていない』

※お酒は20歳になってから。

※お酒を飲んだら車や馬車などの運転はやめましょう。

※お酒は楽しく、ほどほどに


酒を捧げれば力を得る――。

そんな話を聞かされたマサムネは、半信半疑のまま女神ヘーベへの奉納へ向かう。


だが、この世界のレベルアップは少しややこしいようで――。

翌朝――


 マサムネが異世界へ転生してから、拠点としている町。


 王国辺境にある交易町――ムギル。


 町の周囲には広い麦畑が広がり、果樹園や牧草地も点在している。

 街道を行き交う旅人、荷馬車を引く商人、依頼を求める冒険者たちが集まる、

 辺境ながら活気ある町だった。


 そしてムギルは、麦酒と果実酒でも知られている。


 朝の通りには焼きたてのパンの香りが漂い、酒場へ運ばれる樽の音が早くも響いていた。


 その宿の一室。


 マサムネは、椅子に腰掛けながら小瓶を見つめていた。


 中には黄金色に透き通った酒。


 果樹園の依頼で受け取った、メウ酒。


 梅酒によく似た、甘く香る酒だ。


 「……これを奉納、ねえ」


 昨夜、ジャックに聞かされた話を思い出す。


 酒を女神ヘーベへ捧げれば、祝福を受け、力が増す。


 にわかには信じがたい話だ。


 だが、自分自身が酒で女になる時点で、今さら何を疑うのかという気もした。


 その時だった。


 ドンドンドン!!


 扉が激しく叩かれる。


 「同志! 起きているか!!」


 朝からうるさい声だった。


 「……開いてる」


 扉が勢いよく開く。


 ジャック・ダニルが、朝日を背に立っていた。


 カウボーイハット。

 もみあげ。

 ひげ。

 そして、深く割れたけつあご。


 「我が名はジャック!」


 「知ってるよ」


 「奉納の時間だ!」


 「朝っぱらから何なんだお前は」


 連れてこられたのは、ムギルの町外れにある小さな祠だった。


 石造りの簡素な祭壇。

 ぶどうや麦の装飾。

 酒瓶を置くためらしき窪み。


 その中央には、女性像が彫られている。


 どこか気だるげで、楽しそうな笑み。


 「あいつだな」


 「神像に向かって“あいつ”とは失礼だぞ!」


 「酔っ払い女神で合ってるだろ」


 「そこは否定しづらい!」


 ジャックは胸を張った。


 「さあ、同志!」


 「メウ酒を捧げるのだ!」


 「……同志じゃねえっての」


 ぼやきながらも、マサムネは小瓶を祭壇へ置いた。


 その瞬間――


 淡い光が、祭壇全体を包み込む。


 風がふわりと吹き抜けた。


 そして、聞き覚えのある声が頭の中へ響く。


 『あら〜、いい香り♪』


 「出た」


 『メウ酒ね。なかなかやるじゃない、マサムネくん』


 「くん付けやめろ」


 『奉納、たしかに受け取ったわ〜』


 『はい、レベルアップ♪』


 光が、マサムネの身体へ流れ込んだ。


 数秒後。


 静寂。


 マサムネは、自分の手を見た。


 握ってみる。


 腕を曲げる。


 足を踏みしめる。


 「……で?」


 何も変わらなかった。


 ジャックが目を見開く。


 「何か感じぬのか!?」


 「何も感じねえ」


 「力が湧いてこないのか!?」


 「腹は減った」


 「違うそうじゃない!」


 マサムネは肩をすくめた。


 「レベルアップしたって言ってたぞ」


 「だが強くなった感じは一切ねえ」


 ジャックは腕を組み、真剣な顔になる。


 「……なるほど」


 「飲め」


 「なんでだよ」


 「飲めば分かる」


 「雑だなお前も」


 マサムネはため息をつき、懐から別の酒瓶を取り出した。


 軽く一口、喉へ流し込む。


 その瞬間――


 光が弾ける。


 桜色の髪が揺れ、身体つきが変わる。


 次の瞬間、そこに立っていたのは、


 女剣士サクラだった。


 ジャックが叫ぶ。


 「オォォォ!!」


 「朝から見ても素晴らしい!!」


 「うるせえ」


 サクラは腰の剣へ手を添えた。


 ふと、違和感に気づく。


 「……軽い」


 剣を抜く。


 振る。


 シュンッ!!


 空気を切る音が、明らかに以前より鋭い。


 「お?」


 もう一度振る。


 踏み込む。


 地面を蹴る。


 身体が軽い。


 視界も冴えている。


 「……マジか」


 ジャックは両手を広げた。


 「そういうことだ、同志!」


 「レベルアップの恩恵は、サクラに出たのだ!」


 「俺には?」


 「据え置き!」


 「言い方ァ!」


 サクラは元に戻るため、酒の効果が切れるのを待ちながら石段に座った。


 やがて身体が元へ戻り、マサムネになる。


 立ち上がる。


 軽く拳を振る。


 遅い。


 「……弱いままだな」


 ジャックが肩を叩いた。


 「安心しろ!」


 「何をだ」


 「酒を飲めば強い!」


 「普段どうすんだよ」


 「飲め!」


 「解決になってねえ!」


 二人がギルドへ戻ると、朝の喧騒が始まっていた。


 ムギルの冒険者ギルドは、旅人と地元の荒くれ者たちで朝から賑わっている。


 受付嬢が手を振った。


 「おはようございます」


 「ちょうどよかったです。新しい依頼があります」


 「金になるなら聞く」


 「酒が関係あるならなお聞く!」


 ジャックが割り込む。


 受付嬢は慣れた顔で紙を差し出した。


 ムギル醸造所護衛依頼


 最近、町外れの醸造所周辺で不審者集団が目撃されている。

 酒樽破壊、麦畑荒らし、脅迫文あり。


 名乗りは――


 禁酒教団


 マサムネが眉をひそめた。


 「嫌な名前だな」


 ジャックの目が見開く。


 次の瞬間、拳を天へ突き上げた。


 「戦争だァ!!」


 「まだ依頼受けてもねえよ!」


 「酒を狙う者は許さん!」


 「そこだけは同意する」


 マサムネは紙を見つめた。


 醸造所。

 麦酒。

 そして禁酒教団。


 どうやら次の一杯も、平穏には飲めそうになかった。


(第8話へつづく)

レベルアップしても本人は据え置き。

だが酒を飲めば強い――ややこしい主人公です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ