第39話『魔神シドウ』
酒貨物を巡る騒動の最中、ついに禁酒主義隊が崇める存在が姿を現します。
酒豪達と禁酒主義者達、それぞれの信念がぶつかる時がやってきました。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
港の貨物ヤード。
誰も動けなかった。
空を覆う巨大な光。
渦を巻く雲。
重苦しい圧力。
酒貨物列車の蒸気機関車でさえ、まるで怯えるように汽笛を鳴らしている。
ゴォォォォ……
光の中から巨大な影が現れた。
人の形をしている。
しかし人ではない。
異様な威圧感。
圧倒的な存在感。
その場の誰もが息を呑んだ。
ジュンシューが深く頭を下げる。
「お待ちしておりました」
ジローも跪く。
「魔神シドウ様」
マジナノも頭を垂れる。
「御身のお力を」
ゆっくりと。
巨大な存在が口を開いた。
「見ていたぞ」
低く響く声。
まるで空そのものが喋っているようだった。
「酒を巡る争い」
「愚かなり」
ジャックが小声で呟く。
「でかいな……」
ジンも頷いた。
「でかいだけじゃねぇ」
「なんかヤバい」
イーチコは半歩後ろへ下がる。
「二日酔い吹き飛んだ……」
その時だった。
シドウの視線がサクラへ向く。
「お前か」
「酒の力を借りる者よ」
サクラは知心刀を構えた。
「借りてるわけじゃないさ」
「好きで飲んでるだけだよ」
その答えに。
魔神シドウは沈黙した。
数秒。
そして。
「理解不能」
真面目な返答だった。
ジャックが吹き出す。
「そこ引っかかるのかよ!」
だがシドウは本気だった。
「酒は人を堕落させる」
「酒は理性を奪う」
「酒は争いを生む」
ジュンシュー達が深く頷く。
完全に信者だった。
しかし。
マサムネ達も黙っていない。
ジャックが前へ出る。
「酒があるから仲良くなれることもある」
ジンも続く。
「嫌なこと忘れて笑えることもある」
イーチコも言う。
「美味しいものと一緒に飲むと幸せだし」
カスミは少し困った顔になる。
「皆さんの場合は飲みすぎなんですけどね……」
その言葉だけは否定できなかった。
サクラが笑う。
「結局さ」
「酒なんて楽しむためのものだろ?」
シドウは静かに首を振った。
「ならば問おう」
「酒をやめられるか」
全員が顔を見合わせた。
そして。
即答だった。
「無理」
「無理だな」
「無理」
「無理ですね」
「無理だ!」
最後はシャルドネだった。
故郷のワインを背負っている男である。
無理だった。
シドウは目を閉じた。
そして深く息を吐く。
「そうか」
「やはりそうか」
妙に納得していた。
その直後。
とてつもない魔力が溢れ出した。
空気が震える。
大地が揺れる。
貨物列車の車輪が軋む。
ジュンシュー達が歓喜する。
「おお……!」
「ついに!」
「御身が!」
シドウはゆっくり両手を広げた。
空を覆う光がさらに強くなる。
港。
街。
葡萄畑。
公国全体を包み込むほどの輝きだった。
ヘーベの声が突然響く。
「えっ?」
「ちょっと待って」
「それは――」
珍しく焦っていた。
サクラが眉をひそめる。
「知ってるのかい?」
「知ってるというか……」
ヘーベは困ったように言う。
「あっりゃ……」
「これは……」
「もしや……」
シドウは静かに宣言した。
「どうやっても酒をやめないのであれば」
「無理やりすべてをわからせる」
ジュンシュー達が歓喜する。
「おおおおお!」
「さすがシドウ様!」
シドウは大きく手を掲げた。
そして――
「シドウ的シドウ」
誰も意味が分からなかった。
しかし。
次の瞬間。
とてつもない光が世界を包み込んだ。
白。
白。
白。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ光だけが広がっていく。
サクラは目を細めた。
「なんだこれは……!」
マサムネも叫ぶ。
「おい!」
「待て!」
しかし光は止まらない。
やがて。
全てが白に飲み込まれていった――。
(最終話へ続く)
第39話をお読みいただきありがとうございました。
ついに魔神シドウが降臨。
そして放たれた謎の力「シドウ的シドウ」により、物語は思わぬ方向へ動き始めます。
次回はいよいよ最終話。
マサムネ達の旅路の結末を見届けていただければ幸いです。




