最終話『酒を呑んだらわかる』
酒豪達と禁酒主義者達の戦いは、ついに最終局面へ。
そしてマサムネ達の旅路は、思いもよらない結末を迎えます。
まばゆい光が世界を包み込む。
白。
白。
白。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ光だけが広がっていた。
やがて――
どこか遠くから声が聞こえてくる。
「マサムネさん」
「マサムネさん」
聞き覚えのある声だった。
「もう閉店ですよ」
その瞬間。
意識が浮上した。
マサムネはゆっくり目を開ける。
見慣れた木のカウンター。
居酒屋の暖簾。
酒瓶の並ぶ棚。
そして。
目の前には呆れた顔の女性がいた。
「やっと起きましたか」
カスミだった。
エプロン姿。
店の制服を着ている。
見慣れた居酒屋の店員だった。
マサムネは辺りを見回す。
酒場ではない。
異世界でもない。
見慣れた居酒屋だった。
「……あれ?」
思わず呟く。
カスミは深いため息をついた。
「また飲み過ぎたんですか?」
「閉店時間ですよ」
マサムネは頭を押さえた。
少し痛い。
二日酔いだろうか。
妙に現実感がある。
「俺……」
「何してたっけ」
カスミが呆れたように言う。
「何って」
「飲んで寝てました」
「いつものことです」
マサムネは黙った。
頭の中が妙に混乱している。
夜行列車。
サクラ。
ジャック。
ジン。
シャルドネ。
ジロー。
マジナノ。
魔神シドウ。
色々な記憶が浮かぶ。
だが。
どれも夢のように曖昧だった。
その時。
店の奥から声が聞こえた。
「先輩」
振り向く。
そこにいたのはジローだった。
禁酒教団の制服ではない。
普通のスーツ姿。
書類鞄を持っている。
「帰り道気を付けてください」
「かなり飲んでましたから」
マサムネは目を瞬かせた。
「ジロー……?」
「はい?」
「どうしました?」
本人は不思議そうな顔をしている。
マサムネは首を振った。
「いや……」
「何でもない」
カスミが言う。
「だから前から言ってるじゃないですか」
「酒に溺れたら駄目ですって」
「先輩、もう若くないんですから」
「余計なお世話だ」
マサムネは苦笑した。
そして立ち上がる。
会計を済ませ。
暖簾をくぐる。
夜の街だった。
冷たい風が吹いている。
見慣れた街並み。
見慣れた道路。
見慣れた現実。
マサムネは空を見上げた。
「夢だったのかな……」
サクラ。
酒豪達。
夜行列車。
全部。
夢だったのかもしれない。
そう思った。
その時だった。
遠くから大きな音が聞こえる。
ブォォォォォン!
大型トラック。
猛スピード。
こちらへ向かってくる。
「……は?」
マサムネが振り向く。
次の瞬間。
強い光が視界を埋めた。
そして――
再び目を開く。
真っ白な空間。
どこまでも広がる白。
その中央に一人の女性が立っていた。
見覚えがある。
いや。
忘れるはずがない。
女神ヘーベだった。
「ようこそ」
ヘーベは微笑む。
マサムネは頭を抱えた。
「……夢なのか?」
「現実なのか?」
ヘーベは少し考える。
そして。
楽しそうに笑った。
「それは――」
答えは短かった。
「酒を呑んだらわかる」
マサムネは呆れた。
「なんだよそれ」
ヘーベは笑う。
その笑顔の向こうで。
どこか懐かしい桜色が見えた気がした。
そして――
物語は静かに幕を閉じる。
完
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
『サクラとマサムネの異世界ほろ酔い漫遊記』はこれにて完結となります。
酒を愛する者達との出会い。
禁酒主義隊との騒動。
そしてサクラとして過ごした不思議な日々。
それらが夢だったのか、現実だったのか――。
その答えは、もしかすると酒を呑んだ時にわかるのかもしれません。
またどこかで、マサムネ達とお会いできる日がありましたら幸いです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。




