第38話『酒豪達と禁酒主義隊』
グレープマスカト公国の酒貨物を巡り、ついに禁酒主義隊と正面衝突。
そしてサクラ達の前に、見慣れた教団メンバー達も姿を現します。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
港の貨物ヤード。
積み上げられたワイン樽。
酒貨物列車。
そして対峙する両陣営。
サクラは知心刀を肩に担ぎながら笑った。
「さて」
「今度は何を没収するつもりだい?」
ジュンシューは表情を変えない。
「酒である」
「酒全部かい?」
「酒全部である」
サクラは呆れた。
「本当に極端だねぇ」
その時だった。
貨物ヤードの入口から足音が響く。
「副長!」
聞き覚えのある声。
全員が振り向いた。
駆け込んできたのはジローだった。
白い制服。
真面目な表情。
そして相変わらずの堅苦しさ。
「おお」
ジャックが笑う。
「久しぶりだな」
ジローは無視した。
その視線はサクラだけを見ている。
「サクラ……」
「また貴様か」
サクラは軽く手を振る。
「やあジロー」
その笑顔を見た瞬間。
ジローは少しだけ顔を赤くした。
「なっ……!」
「ち、違う!」
「私は任務中だ!」
「誰も何も言ってないぞ?」
ジャックが突っ込んだ。
その直後。
妖艶な笑い声が響く。
「ふふふ」
「相変わらずねぇ」
マジナノだった。
赤い眼鏡。
長い髪。
教団幹部らしい余裕の笑み。
「今回は本気よ」
「この公国の酒文化を止めるために来たんだから」
シャルドネが眉をひそめる。
「ふざけるな」
「ここは酒で栄えてきた国だ」
「だから問題なのよ」
マジナノは肩をすくめた。
「酒があるから堕落する」
「酒があるから争いが起きる」
「酒があるから――」
「人生が楽しいんだろ?」
ジャックが遮った。
その言葉に酒呑み達が頷く。
ジンも言う。
「嫌なこと忘れられるしな」
イーチコも頷く。
「ご飯も美味しいし」
マジナノは頭を抱えた。
「駄目だわこの人達」
その時。
ジローが前へ出る。
「ならば力ずくで止める!」
懐から呪符を取り出した。
見覚えのある札。
酒駄目波だった。
ジャックが叫ぶ。
「またそれか!」
「食らえ!」
ジローが放つ。
青白い波動が一直線に飛んだ。
しかし。
サクラは慌てない。
知心刀を抜く。
銀色の刃が閃いた。
ズバァン!
酒駄目波が真っ二つになる。
そのまま霧散した。
「なっ!?」
ジローが固まる。
「だから言っただろ」
サクラは笑った。
「その技はもう見切ったって」
ジャック達が拍手する。
「おおー!」
「二度目は効かねぇ!」
「さすがサクラ!」
ジローは悔しそうに歯を食いしばった。
その時。
マジナノが新たな呪符を取り出す。
「だったらこっちはどうかしら?」
複数の札が空中へ舞う。
不気味な光。
貨物ヤード全体へ広がっていく。
シャルドネが警戒した。
「今度は何だ?」
「二日酔いじゃないわ」
マジナノは笑う。
「もっと面白いものよ」
だが。
発動する前だった。
遠くから鐘が鳴り響く。
ゴォォォォン……
ゴォォォォン……
今まで聞いたことのない重い音。
全員が空を見上げた。
雲が渦を巻いている。
昼間なのに暗くなっていく。
風が止まった。
鳥の声も消える。
ジュンシューは静かに跪いた。
ジローも。
マジナノも。
禁酒主義隊全員が頭を下げる。
異様な光景だった。
「おい……」
ジャックの顔から笑みが消える。
「なんだあれ」
空の中心で。
巨大な光が脈動していた。
マジナノが震える声で呟く。
「ついに……」
「御身が……」
ジュンシューも頭を垂れる。
「魔神シドウ様……」
その名が響いた瞬間。
空を覆う光がさらに強く輝いた。
サクラは知心刀を握り直す。
今までとは違う。
そう本能が告げていた。
そして――
巨大な影が、
ゆっくりと空から姿を現し始めた。
(第39話へ続く)
第38話をお読みいただきありがとうございました。
ジュンシューに加え、ジローとマジナノも参戦。
しかし事態は酒貨物争奪戦だけでは終わらず、不穏な気配が公国全体を包み始めます。




