第36話『ワインの都と禁酒の影』
二日酔いで始まったグレープマスカト公国観光。
酒豪達はボロボロですが、シャルドネの故郷には魅力的な酒文化があふれているようです。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
グレープマスカト公国駅を後にした一行は、石畳の大通りをゆっくり歩いていた。
朝の陽射しは心地よい。
空は高く澄み渡り、どこからともなく葡萄の甘い香りが漂ってくる。
しかし――
「うぅ……」
ジャックは青い顔のまま歩いていた。
「まだ頭が痛ぇ……」
ジンも帽子を深く被る。
「この国の太陽は眩しすぎる……」
「太陽はどこの国でも同じですよ」
カスミが冷静に突っ込んだ。
イーチコもふらふらしている。
「迎え酒……」
「禁止です」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてあります」
そんなやり取りをしながら進む一行の前で、シャルドネだけは少しずつ元気を取り戻していた。
故郷だからだろう。
歩くたびに表情が明るくなっていく。
「見ろ!」
「これが我が故郷だ!」
広場へ出た瞬間。
一行は思わず足を止めた。
そこには大きな噴水があった。
葡萄の房を模した彫刻。
ワイン樽を積み上げた装飾。
石造りの建物。
色鮮やかな花壇。
そして通りには多くの人々が行き交っている。
「おぉ……」
マサムネは感心した。
「綺麗な街だな」
「だろう!」
シャルドネは胸を張る。
「ワインの都だからな!」
「酒しか言わねぇな」
ジャックが呟いた。
「それでいいのだ」
シャルドネは真顔で答えた。
しばらく進むと、丘の上が見えてくる。
一面の葡萄畑だった。
朝日に照らされた葉が美しく輝いている。
その光景にカスミは目を丸くした。
「すごい……」
「全部葡萄畑なんですか?」
「まだ一部だ」
シャルドネはさらりと言う。
「公国全体ならもっとある」
「規模がおかしいだろ」
ジャックが呆れた。
その時だった。
遠くから汽笛が聞こえてくる。
ポォォォォ――
線路の向こうを蒸気機関車が走っていた。
長い貨車を何両も連ねている。
シャルドネが指を差す。
「あれはワイン貨物列車だ」
「収穫した葡萄や樽詰めワインを港へ運んでいる」
「へぇ」
マサムネは少し興味を示した。
「港もあるのか」
「あるぞ」
「ここは海運も盛んだからな」
「酒が世界中へ輸出されている」
やはり酒の話だった。
だが、その時。
カスミが小さく眉をひそめた。
広場の掲示板に何かが貼られている。
近づいてみる。
そこには大きな文字で書かれていた。
【酒類密輸に注意】
【不審な酒貨物を発見した場合は通報を】
【絶対禁酒主義隊協力案件】
その文字を見た瞬間。
空気が少し変わった。
ジャックが顔をしかめる。
「絶対禁酒主義隊……」
ジンもため息をついた。
「こんな所まで来てやがるのか」
シャルドネの表情も曇る。
「最近は公国にも圧力をかけているらしい」
「酒文化の国にか?」
マサムネが驚く。
「信じられん」
「向こうも本気なんだろう」
シャルドネは静かに答えた。
「酒をなくすためなら、国境も関係ない」
その言葉に一同は黙った。
すると――
広場の向こうから数人の兵士が歩いてくる。
黒と白。
見覚えのある配色。
ジャックの目が細くなった。
「おい……」
「まさか」
兵士達はそのまま通り過ぎていった。
しかし胸元には見慣れた紋章がある。
禁酒教団の紋章だった。
シャルドネは低い声で呟く。
「思ったより早く来たな」
マサムネは腕を組んだ。
「観光だけでは終わらなそうだな」
その予感は。
どうやら当たりそうだった。
葡萄の香り漂う平和な街の中で。
禁酒主義隊の影は、静かに広がり始めていた。
(第37話へ続く)
第36話をお読みいただきありがとうございました。
グレープマスカト公国の街並みや酒文化を少しずつ描いてみました。
しかし、禁酒主義隊の影はまだ消えていないようです。




