第33話 『婦人用寝台車への御用改め』
深夜の婦人用寝台車へ、“御用改め”が踏み込んできます。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
その直後――
ガチャリ。
婦人用寝台車の扉が、ゆっくり開き始めた。
暖色ランプに照らされた通路へ、黒い影が入ってくる。
だんだら模様の羽織。
統率された足音。
そして先頭には――
銀縁眼鏡の男。
絶対禁酒主義隊副長、ジュンシュー。
冷たい視線が、寝台車内を見渡した。
「絶対禁酒主義隊による検閲を行う」
低い声。
静かな圧力が車内を包む。
その時だった。
ジュンシューの視線が止まる。
婦人用寝台車。
その中央に立っていた――
マサムネへ。
数秒の沈黙。
そして。
ジュンシューは静かに口を開いた。
「……ご婦人用寝台に、おっさんか」
嫌そうに眉をひそめる。
「貴様、変態だな」
「変態だと!?」
マサムネが即座に反応した。
「ちげぇよ!」
「違わないだろ」
イーチコが普通に言う。
「どっちかっていうと変態寄りだぞ」
「なんで味方が追撃してくるんだよ!?」
するとジンがニヤニヤ笑いながら肩をすくめた。
「まぁ、おっさんは変態だしねぇ」
「お前まで!?」
「否定できる?」
「ぐっ……」
マサムネが詰まる。
その様子を見たジュンシューは、小さく目を細めた。
「……なるほど」
静かな声。
だが逆に怖い。
「規律が乱れているということか」
空気が変わる。
カスミが表情を引き締めた。
「待ってください」
「この人は――」
だがジュンシューは遮る。
「不要」
冷たい一言。
「酒は人を乱し」
「規律を壊し」
「秩序を腐らせる」
ゆっくりと腰へ手を伸ばす。
そして――
シャリン。
細身の剣が抜かれた。
ランプの光が刀身へ反射する。
「ここで成敗し――」
「酒も断絶させてやる」
張り詰める空気。
その瞬間。
「おぉ怖ぇ怖ぇ」
ジンが笑いながら前へ出た。
「夜中にいきなり婦人寝台へ剣抜いてくる方が問題じゃない?」
「黙れ」
「いやいや、完全に不審者だって」
「貴様ら酒飲みよりはマシだ」
「うわ、堅物」
イーチコも立ち上がる。
「寝起きで説教されるとか最悪だな」
「酒臭いぞ」
「そりゃ酒盛り列車だからな!」
マサムネは頭を抱えた。
「なんでこんなことになってんだよぉ……」
その時だった。
ジュンシューの視線が、机の上へ向く。
そこには――
まだ飲みかけの酒瓶。
数秒。
沈黙。
そして。
ジュンシューの額に、ぴきりと青筋が浮かんだ。
「……婦人用寝台で酒盛りだと?」
「あ」
全員固まった。
次の瞬間――
「貴様らぁぁぁ!!」
ジュンシューの怒声が、深夜の寝台車へ響き渡った。
そして同時に。
イーチコが、マサムネへ酒瓶を放り投げる。
「マサムネ!!」
「おぉ!?」
反射的に受け取る。
ラベルを見る。
――強炭酸ハイボール。
「飲め!!」
「今か!?」
「今しかねぇだろ!!」
ジュンシューが剣を向ける。
「酒を飲む気か」
「当然だろぉぉぉ!!」
マサムネは勢いよく瓶をあおった。
炭酸が喉を駆け抜ける。
次の瞬間。
身体が淡く光り始めた。
「また貴様か……!」
ジュンシューが目を細める。
――ぽんっ。
桜色の髪の美女剣士サクラが現れる。
寝間着姿のまま。
だが目だけは完全に戦闘モードだった。
「やれやれ……」
知心刀を抜く。
「夜中に御用改めとは、無粋な野郎だな」
するとジュンシューは静かに剣を構える。
「酒に溺れた愚か者め」
「その酒気ごと――断つ」
深夜の婦人用寝台車。
暖色ランプの下。
酒飲み達と絶対禁酒主義隊の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
(第34話へ続く)
次回は、サクラとジュンシューの衝突が始まります。
深夜の“酔っ払いエクスプレス”は、さらに騒がしくなりそうです。




