第31話 『深夜の御用改めである』
夜行列車“酔っ払いエクスプレス”の夜は、まだ終わりません。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
第31話 深夜二時の検閲
ガタン――……。
ゴトン……。
夜の山間を、“酔っ払いエクスプレス”は走っていた。
五号車――食堂車。
そこでは今も、酒盛りが続いている。
「いやぁ〜、列車で飲む酒ってのは格別だねぇ!」
ジン・トニックがジョッキを掲げる。
「わかる」
サクラも満足そうに頷いた。
車窓の外には夜景。
遠くの灯り。
蒸気機関車の白煙が、時折窓の外を流れていく。
イーチコは頬を赤くしながら肉料理へかぶりついていた。
「食堂車ってのは最高だな!」
「料理もうめぇ!」
「当然さ」
シャルドネが優雅にワインを揺らす。
「この列車は“走る酒場”だからね」
その横では、ジャックだけが麦茶を飲んでいた。
「くそぉ……」
「まだ引きずってんのか」
サクラが笑う。
「酒飲めねぇのはつれぇんだよ……」
完全に魂を失っている。
そんな中。
カスミが小さくため息をついた。
「みなさん、そろそろほどほどにしてくださいね」
「ん〜?」
サクラがジョッキを揺らす。
「まだいけるぞ?」
「だからです」
カスミは呆れ顔だった。
だが。
楽しい時間は早い。
やがて食堂車の客も減り始め、車内の照明が少し落とされる。
「そろそろ寝るかぁ……」
サクラが立ち上がった。
そして当然のように、後方を指差す。
「じゃ、俺は六号車な」
紳士用寝台車である。
だが。
カスミが即座に腕を掴んだ。
「駄目です」
「なんでだよ」
「今は女性なんですから」
「いや中身おっさんだぞ?」
「見た目は完全に女性です!」
「どうせ寝てたら戻るし」
「戻りません!」
「なんで断言できるんだよ!?」
その様子を見ていたジンが、ニヤニヤ笑いながら割って入る。
「まぁまぁ、半分女なんだから仕方ないって♪」
「半分ってなんだ!」
「ほらほら、婦人寝台いこーねぇ」
ジンが後ろからサクラを押す。
「押すな押すな!」
イーチコまで笑っていた。
「見た目は完全に姉ちゃんだからな!」
「納得いかねぇぇぇ!!」
サクラの叫びが寝台車へ響く。
一方。
ジャックがぼそっと呟いた。
「……おっさんでも行っていいのか?」
そして普通に婦人用寝台車へ向かおうとする。
――バシィッ!!
「いてぇ!?」
ジンが容赦なく後頭部をはたいた。
「お前はただのおっさんだろ」
「差別じゃねぇか!?」
「当たり前だろ」
ジャックの叫びがさらに響く。
その後。
なんとかサクラは四号車――婦人用寝台車へ連行された。
「くそぉ……」
「観念してください」
カスミはようやく一息つく。
婦人用寝台車の中は静かだった。
暖色ランプ。
二段寝台。
揺れるカーテン。
列車の振動音だけが静かに響いている。
やがて。
サクラ達も眠りについた。
そして――
深夜。
午前二時頃。
“酔っ払いエクスプレス”は、とある山間駅へ停車していた。
シュウゥゥゥゥ……。
蒸気が夜空へ漏れる。
静かな駅だった。
乗客達の多くは眠っている。
その時だった。
ホームへ、黒いコート姿の男達が現れる。
規律正しい足音。
無駄のない動き。
教団員達の羽織には、白い段模様が刻まれていた。
まるで刃の連なりのような鋭い意匠。
統率された足音が、静かなホームへ響く。
そして先頭には――
銀縁眼鏡の男。
冷たい目。
黒い長コート。
胸元には、禁酒教団の紋章。
男は静かに列車を見上げた。
その目には、一切の感情がない。
そして――
低い声が、夜のホームへ響く。
「御用改めである」
その背後で、教団員達が一斉に動き出す。
男の名は――
ジュンシュー。
絶対禁酒主義隊副長。
魔神シドウを崇拝する、禁酒教団検閲官。
そして今夜。
“酔っ払いエクスプレス”へ、抜き打ち検閲が始まろうとしていた。
(第32話へ続く)
次回は、絶対禁酒主義隊による厳しい検閲が始まります。
深夜の“御用改め”をお楽しみください。




