第3話『一杯の縁と、酒豪の正体』
※お酒は20歳になってから。
※飲酒後の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく、ほどほどに。
――その一杯が、運命を変えることもある。
第3話「一杯の縁と、酒豪の正体」
暖簾をくぐる。
途端に、熱気と匂いが押し寄せてきた。
酒の香り。
焼いた肉の匂い。
人のざわめき。
「……いいねぇ」
思わず頬が緩む。
空いているカウンター席に腰を下ろす。
目の前には、年季の入った木のカウンター。
その向こうで、店主らしき男がこちらを見た。
「注文は?」
「とりあえず、酒――」
「金は?」
ぴたり、と固まった。
「……」
「……ツケ、いけるか?」
「ツケは効かねぇんだ」
「ですよねー……」
小さくため息をつく。
「……ったく」
店主が、ぼそりと呟いた。
「仕方ねぇな」
酒を一杯、カウンターに置く。
「一杯だけだ。飲んだらとっとと帰れ」
「……いいのか?」
「その代わり、騒ぐなよ」
ぶっきらぼうに言う。
「……ありがてぇ」
マサムネは軽く頭を下げた。
その様子を見ていたのか、
後ろの席からくすくすと笑い声が漏れる。
「なんだあいつ、金もねぇのかよ」
「情けねぇなぁ」
ちらりとそちらを見る。
いかにも冒険者といった風の男たち。
「……まぁ、否定はできねぇな」
肩をすくめて、それだけ返す。
「おいおい、素直すぎだろ」
ひとりの男が立ち上がる。
「せっかくだ。飲ませてやるよ」
ぐい、と酒を差し出してくる。
「付き合えよ?」
マサムネは、その酒を見る。
そして――
ちらりと店主の方を見る。
店主は何も言わない。
だが、さっきの一言が頭に残っている。
(騒ぐなよ)
「……」
マサムネは小さく息を吐いた。
「……悪いな」
「ケンカはしねぇ主義なんだ」
軽く手を振る。
「は?逃げんのかよ」
少しだけ空気が張る。
だが――
「いやいや」
マサムネは振り返らずに言う。
「酒は飲む」
そのまま、差し出された酒を受け取る。
「それでいいだろ」
カウンターに戻り、
手にした酒を軽く掲げる。
「……飲む理由は、それで十分だ」
グラスを傾ける。
――その瞬間。
体が、切り替わる。
軽さが戻る。
視界が上がる。
「……あ?」
ふわりと揺れる、桜色の髪。
静かに、立ち上がる。
周囲の空気が――変わった。
「……なんだ?」
冒険者の男が、眉をひそめる。
先ほどまでの冴えない中年は、そこにいない。
そこに立っていたのは――
桜色の髪を揺らす、美しい女剣士。
「……」
サクラは、軽く肩を回す。
「……やっぱり、こっちのが楽だな」
ぽつり、と呟く。
「……は?」
男たちが戸惑う。
サクラは、ちらりと振り返る。
「騒ぐな、だったな」
小さく笑う。
「大丈夫だ。何もしねぇよ」
そう言って、再びカウンターに腰を下ろす。
何事もなかったかのように。
やがて――
「……おい、今のどうなってやがる」
周囲の視線が集まる。
マサムネは、少しだけ間を置いて――
「……体質だ」
「体質でああなるか!?」
即座にツッコミが飛ぶ。
その瞬間――
ふっと、力が抜けた。
「……あ」
視界が落ちる。
体が重くなる。
気づけば、
またマサムネに戻っていた。
「……やっぱりこれか」
ぽつりと呟く。
周囲の視線が、一斉に集まる。
「……ほんとに体質かよ……」
誰かがぼそりと漏らした。
マサムネは肩をすくめる。
「さぁな」
そして――
「……で、金は?」
店主の一言で、現実に引き戻される。
「……」
しばし沈黙。
「……働くか」
ぽつりと呟いた。
その脳裏に浮かぶのは――
さっき見た建物。
「……ギルド、ね」
ゆっくりと立ち上がる。
「一杯の礼は、そのうち返す」
そう言って、店主に軽く手を上げる。
「……忘れんなよ」
ぶっきらぼうな返事。
だが、その声はどこか柔らかかった。
暖簾をくぐり、外へ出る。
「……とりあえず」
酒瓶を軽く振る。
「稼がないとな」
そう呟いて、
マサムネはギルドへと向かった。
(第4話へつづく)
第3話です。
一杯の酒で、状況は一変しました。
次回、ギルドで“酒豪”が明らかに




