第2話『酔いと変身と、最初の一歩』
※お酒は20歳になってから。
※飲酒後の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく、ほどほどに。
――飲めば変わる。そんな話です。
――見知らぬ草原。
「……で、なんで女なんだよ俺は」
桜色の髪を指でつまみながら、ため息をつく。
「いや、強いのはいいんだけどさ……」
軽く拳を握る。
体は信じられないほど軽い。
「さっきの……なんだったんだよ」
記憶はある。
あの一撃の感触も、はっきり残っている。
「……別人じゃねぇか」
足元の水たまりを覗き込む。
そこに映るのは、
桜色の髪を揺らす、美しい女剣士。
「……サクラ、ね」
ぼそりと呟く。
「誰だよほんとに……」
自分で言って、少しだけ笑った。
――そのとき。
ふっと、力が抜けた。
「……あ?」
視界が下がる。
体が、重くなる。
「……おいおいおい」
手を見る。
見慣れた、冴えないおっさんの手。
「戻ってる……」
その場で肩を回す。
重い。鈍い。弱い。
「……極端すぎるだろ」
ため息をついた。
ふと、足元を見る。
酒瓶が転がっていた。
「……これか」
拾い上げる。
「いや、まぁ……そうだよな」
少し考えて。
「……飲めばいいんだろ」
ゴクリ、と一口。
――瞬間。
「うおっ!?」
体が切り替わる。
軽さが戻る。
「……やっぱりか」
再び、サクラ。
「はは……分かりやすいなこれ」
その場で軽く跳ねる。
ふわり、と体が浮く。
「すげぇな……ほんとに」
だが――
「ってことは」
酒瓶を見下ろす。
「飲んでる間だけ、か」
少し待つ。
数秒。
そして――
「はい戻った」
またマサムネに戻る。
「……なるほどな」
空を見上げる。
「飲めば強い女、切れたらおっさん」
間。
「……シンプルでいいな」
少しだけ、笑った。
そのとき――
ぐぅ、と腹が鳴る。
「……腹減ったな」
現実的な問題だった。
「とりあえず……人いるとこ行くか」
周囲を見回す。
遠くに、煙が見えた。
「街、だな」
酒瓶を軽く振る。
「使いどころは……考えないとダメだな」
そう呟き、歩き出す。
しばらく進むと――
石造りの門が見えてきた。
「おお……」
人の出入りがある。
商人、旅人、武器を持った連中。
「完全に異世界だな……」
門をくぐる。
その瞬間――
ふわりと漂ってくる匂い。
「……酒だな」
鼻が反応する。
「いいねぇ……」
自然と笑みが浮かぶ。
通りには屋台が並び、
人の声が飛び交っていた。
その中で――
ひときわ目立つ建物がある。
大きな看板。
武器を持った連中が出入りしている。
「……なんだあそこ」
近くの男に声をかける。
「ギルドだよ」
「ギルド……ね」
いかにもな単語だ。
「登録すりゃ仕事もらえるぞ」
「へぇ……」
ちらりと建物を見る。
「……まぁ、そのうちだな」
視線を外す。
「……ギルド、か」
小さく呟いて、
「……まぁいい、後でだ」
そう結論づけた。
今は――
「それよりこっちだな」
足が向かう先。
暖簾のかかった店。
中から聞こえる笑い声。
そして――
酒の匂い。
「……決まりだ」
にやり、と笑う。
「異世界一発目は、まず一杯だろ」
そう言って、暖簾に手をかけて――
「……いや待て」
ぴたりと止まる。
「金、ねぇな俺」
沈黙。
「……」
「……ツケ、いけるか?」
自分で言って、ため息をつく。
少しだけ振り返る。
「……ギルド、か」
間。
「……まぁいい、後でだ」
そう呟いて、前を向く。
酒瓶を軽く持ち上げる。
「最悪、これでなんとかなるだろ」
根拠はない。
だが――
「酒があるなら、なんとかなる」
そう言って、暖簾をくぐった。
――こうして。
マサムネの異世界生活は、
“酒”とともに、
本格的に始まった。
(第3話へつづく)
第2話です。
変身の仕組みと、旅のスタート地点を描きました。
次回、ギルドと“金と酒”の問題に直面します




