第1話『酒と厄年と、はじまりの一杯』
はじめまして。
酒を飲むと最強美少女になるおっさんの、コメディ寄り異世界ファンタジーです。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら車などの運転はしないでください。
※お酒は適量で楽しみましょう。
人生、うまくいかない。
それが、佐倉正宗――四十二歳の結論だった。
背は低い。腹は出ている。仕事は冴えない。
何をやっても空回りで、気づけば周りとの差は開くばかり。
だが――
「……くぅ〜……」
ジョッキを傾けた瞬間だけは、違った。
喉を通る冷たい酒。
体の奥からじわっと広がる熱。
「これだよな……」
思わず漏れる本音。
それだけが、正宗にとっての“救い”だった。
「おかわり!」
カウンター越しに声をかけると、
「またですか、佐倉さん」
くすっと笑いながらグラスを
差し出してきたのは、宇良かすみだった。
二十二歳。バイトの女の子。
「飲みすぎですよ?」
「今日はな……ちょっとな……」
本当は“ちょっと”じゃない。
「無理しないでくださいね」
少しだけ心配そうな顔。
「……お前は優しいな」
「え?」
自分でも意外な言葉だった。
「いや、なんでもねぇ」
ごまかすように、酒をあおる。
――こういう時間だけは、嫌いじゃなかった。
その帰り道。
夜風に当たりながら、ふらつく足取りで歩く。
「……はぁ……」
吐いた息が白くなる。
「厄年だからかねぇ……」
仕事も人生も、何もかも噛み合わない。
だが――
「まぁ……酒があればいいか……」
そう呟いた、そのとき。
――強烈な光。
耳をつんざくブレーキ音。
「……あ?」
次の瞬間――
世界が、途切れた。
◆
気がつくと。
真っ白な空間に立っていた。
「……どこだここ」
上も下も分からない。
ただ白いだけの世界。
「やっほー」
軽い声がした。
振り向くと――
酒瓶を片手に浮かんでいる女がいた。
「……誰だお前」
「女神だよ〜。ヘーベ」
「軽いな!?」
思わずツッコむ。
「君、死んだよ」
「は?」
「トラック。ドーンって」
「雑すぎるだろ!!」
頭が追いつかない。
だがヘーベは、気にした様子もなく笑う。
「いや〜いい飲みっぷりだったからさ〜」
「関係あるかそれ!?」
「でさ、お願いがあるんだよね」
少しだけ真面目な顔になる。
「ねぇ、異世界でさ〜。うまい酒、持ってきてくれない?」
「……は?」
「いろんなとこに、いい酒あるんだよね〜」
楽しそうに言う。
「持ってきてくれたら、ご褒美あげるからさ〜」
「ご褒美ってなんだよ」
「強くしてあげる」
「……軽いな」
「いい酒ほど、いいご褒美ね」
ニヤッと笑う。
「どうする?」
正宗は、少しだけ考えて。
笑った。
「……まぁいいか」
どうせ死んだ身だ。
「酒があるなら、どこでもいい」
そう言って、瓶を受け取る。
ゴクリ、と飲み干した。
◆
目を開けると。
そこは、見知らぬ草原だった。
「……マジかよ」
立ち上がる。
体は――そのまま。
重い。鈍い。弱い。
「ほんとに異世界来ても変わんねぇな……」
ガサッ――
草むらが揺れる。
現れたのは、小さな魔物。
「……ゴブリンかよ」
「無理だろこれ!!」
即座に後ずさる。
だが、足がもつれる。
逃げられない。
そのとき。
ふと、手元を見る。
酒瓶。
「……」
少しだけ笑った。
「こういう時に飲むもんだろ……酒ってのは」
一口、あおる。
――その瞬間。
体が、変わる。
「……あ?」
軽い。
さっきまでとは、まるで違う。
手を見る。
細い。
胸元に触れる。
「……デカイ」
一瞬、思考が止まる。
「……何やってるんだ俺?」
我に返る。
水たまりを覗き込む。
そこに映っていたのは――
桜色の髪を揺らす、美しい女剣士。
「……マジかよ」
完全に、別人。
だが。
ゴブリンが飛びかかってくる。
体が、勝手に動いた。
ふらり、と揺れて。
**ドンッ!!**
一撃で、吹き飛ばす。
「なんだこれ……強ぇ……」
信じられないほど軽い。
信じられないほど当たる。
「……悪くねぇな」
桜色の髪をかき上げる。
「サクラ、か」
そう呟いた。
――こうして。
冴えないおっさんの人生は、
一杯の酒で、
大きく動き始めた。
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(第2話へつづく)
第1話を読んでいただきありがとうございます。
ここから酒を求めて各地を巡る冒険が始まります。
今後もゆるく楽しんでいただけたら嬉しいです。




