第29話 『そして、酔っ払いエクスプレスへ・・・・・・・・』
今回は次なる目的地と、
夜行列車“酔っ払いエクスプレス”への導入回となります。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
翌朝。
酒飲み達の宿。
木製テーブルの上には、空になったジョッキが大量に転がっていた。
昨夜。
禁酒教団が乱入したあとも、宴会は止まらなかったのである。
当然。
朝は酷かった。
「うぅ……頭いてぇ……」
マサムネは机へ突っ伏した。
現在はおっさん姿。
完全な二日酔いである。
「お前ら飲み過ぎなんだよ……」
「おっさんが一番飲んでただろ」
ジン・トニックが呆れた顔をする。
「覚えてねぇ……」
「典型的な酔っ払いじゃねぇか」
イーチコが豪快に笑った。
その横では、ジャックが死んだ目で座っている。
机の上には麦茶。
完全に浮いていた。
「……俺も飲みてぇ……」
「まだ酒が酢になるんだろ?」
「うぅ……」
昨夜。
酒駄目波の破片を被弾。
再び、酒が飲めない身体になってしまったのである。
「かわいそー」
「全然同情してねぇな!?」
ジンが笑い転げる。
カスミは小さくため息をついた。
「朝から元気ですね、みなさん……」
「水……」
「はいはい」
完全に介護役である。
そんな時だった。
――ぽんっ。
青白い光が弾ける。
「来たか……」
マサムネが顔をしかめる。
空中へ、小さな女神ヘーベが現れた。
そして。
開口一番。
「ハイボールは!?」
「お前それしか言わねぇな!?」
「炭酸酒なのよ!? 革命なのよ!?」
ヘーベは机の上へ降り立つ。
その視線は、琥珀色のハイボールへ一直線だった。
「さぁ! 奉納しましょ!」
「朝からテンション高ぇな……」
マサムネは呆れながらグラスを持ち上げる。
しゅわしゅわと泡が弾ける。
その瞬間。
ヘーベの目が輝いた。
「それよぉぉぉぉ!!」
完全に酒好き女神である。
ヘーベが両手を広げる。
次の瞬間。
ハイボールが淡い光へ変わり、空中へ吸い込まれていった。
しゅわぁぁぁ……。
不思議な音が響く。
そして。
マサムネの身体が光った。
「またか!?」
――ぽんっ。
銀髪の美女剣士サクラへ変化する。
「……ん?」
サクラは軽く拳を握った。
空気が震える。
「なんか身体軽くねぇか?」
「やっぱり!」
ジンが立ち上がる。
サクラは試しに木製スプーンを持った。
――ぱきっ。
「折れた」
「力加減しろよ!?」
イーチコが吹き出した。
ヘーベは満足そうに腕を組む。
「炭酸酒の奉納効果ね♪」
「いや軽く言うな」
「サクラ形態の総合能力が上昇したのよ♪」
サクラは嫌そうな顔をした。
「……で、俺本人は?」
ヘーベは少し考え込む。
「レベルは上がってるはずよ?」
「はず?」
「ただ――」
ヘーベはにっこり笑った。
「伸びしろがないだけ♪」
「どういう意味だコラァ!!」
宿にツッコミが響いた。
その時だった。
コンコン。
宿の扉が叩かれる。
入ってきたのは――
長い金髪。
貴族服。
ワイングラス。
そしてキザな笑み。
「諸君。朝から実に騒がしいね」
「シャルドネか」
シャルドネ・メルローは優雅に礼をした。
だが今日は、少し真面目な顔をしている。
「本日は依頼があって来た」
「依頼?」
「うむ」
シャルドネは静かに頷く。
「グレープマスカト公国へ向かう貨客混合列車がある」
「列車?」
サクラの目が少し輝いた。
「ワイン、ブランデー、そしてビール樽を輸送している長距離列車だ」
「おぉ……」
イーチコが反応する。
「ムギルの町でワイン類を降ろし、復路ではビールや麦焼酎を積む」
「酒だらけじゃねぇか」
「素晴らしいだろう?」
シャルドネは胸を張った。
そして表情を引き締める。
「だが近頃、禁酒教団の検閲が激しい」
空気が少し変わる。
「特に危険なのが――ジュンシュー」
「……誰だそいつ」
「禁酒教団の検閲官だ」
シャルドネは低く言った。
「女神テミスではなく、魔神シドウを崇拝している」
「シドウ……」
カスミが小さく呟く。
「絶対禁酒主義を掲げる魔神です」
シャルドネは続ける。
「酒文化そのものを滅ぼそうとしている」
「一部地域では、本当に酒を根絶したとも聞く」
場が静かになる。
だが。
次の瞬間。
サクラがニヤリと笑った。
「つまりあれか?」
知心刀を肩へ担ぐ。
「酒を守りながら列車旅ってことだろ?」
「……話が早くて助かるよ」
シャルドネが苦笑する。
だがサクラは、そこまで深く考えていなかった。
「で、いつ発なんだ?」
「本日の夕方だ」
シャルドネは窓の外へ視線を向けた。
「ムギル中央駅を十六時ごろ発車する」
「お、結構すぐだな」
「夜通し走り、明日の昼頃にはグレープマスカト公国中央駅へ到着予定だ」
「夜行列車か……!」
ジンの目が輝く。
「食堂車ある?」
「もちろんあるとも」
シャルドネは優雅に微笑む。
「ワイン樽を積んだ貨車に加え、旅客用客車、食堂車、寝台車も連結されている」
「いいじゃねぇか……!」
イーチコまで嬉しそうに笑った。
だが。
ジャックだけは麦茶を飲んでいた。
「俺だけ麦茶なの納得いかねぇ……」
「まだ酒が酢になるんだから仕方ないだろ」
「くそぉ……」
完全に不憫枠である。
その横で、ヘーベがぴょこんと飛び上がった。
「あと今度はワインとブランデーの奉納も忘れないでね♪」
「お前、完全にそれ目的だろ……」
「当然でしょ?」
ヘーベは胸を張る。
「炭酸酒だけじゃなく、果実酒文化も大事なんだから!」
「ただ飲みたいだけじゃねぇか」
サクラは呆れながらも笑った。
そして。
窓の外を見る。
遠くへ伸びる線路。
朝日に照らされる線路の向こう。
うっすらと白い蒸気が見えた。
列車が動いているのだろう。
その光景を見ながら、サクラは楽しそうに口元を吊り上げた。
「護衛より――列車のなかで酒だ!」
「もう……ちゃんと護衛してくださいね?」
カスミが呆れたようにため息をつく。
だがサクラは止まらない。
「列車に揺られて酒呑みか……」
知心刀を肩へ担ぐ。
「――悪くない」
その時だった。
シャルドネが小さく笑う。
「ふふ……ならば気に入るさ」
「?」
「グレープマスカト公国行き“葡萄街道特急”は――」
ワイングラスを軽く揺らす。
「酒好き達の間では、“走る酒場”とも呼ばれているのでね」
一同の目が輝いた。
ただ一人。
ジャックだけを除いて。
「俺だけ麦茶ぁぁぁぁ!!」
その叫びが宿に響く。
そして――
夕刻。
酒飲み達は、ムギル中央駅へ向かうことになる。
ビール樽や麦焼酎を積み込んだ夜行列車。
グレープマスカト公国行き貨客混合列車――。
通称、“酔っ払いエクスプレス”。
酒好き達に愛される、走る酒場である。
第30話へ続く。
次回より、いよいよ列車編スタートです。
酒と鉄道、そして夜行列車の旅をお楽しみいただければ幸いです。




