第28話 『真面目なほど、シャイである』
再び宿へ現れた禁酒教団。
ハイボールを巡る攻防戦(?)が始まります。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※お酒は楽しく適量で。
宿の外では、
再び禁酒教団が騒ぎ始めていた。
「禁酒を受け入れよ!」
「酒は堕落である!」
夜の街へ響く声。
だが。
宿の中では、
酒飲み達が完全に出来上がっていた。
「ハイボールうめぇぇ!!」
サクラがジョッキを掲げる。
炭酸の泡がしゅわしゅわ弾ける。
その時だった。
ぽんっ。
金色の光が弾ける。
机の上へ、小さな女神ヘーベが現れた。
「ハイボールまだ?」
「は?」
サクラが止まる。
ヘーベは頬を膨らませていた。
「炭酸酒の奉納はまだなのじゃ?」
「こっちは今それどころじゃねぇんだよ」
サクラが窓の外を指差す。
「取り込み中だ」
「なんであいつら、酒飲んでる時に限って邪魔してくんだ?」
ヘーベは数秒考えた後、
あっさり答えた。
「融通が利かんのぅ」
「テミスの信徒だからしゃーない」
「雑だな説明が」
ヘーベはニヤリと笑う。
そして。
ジョッキを掲げた。
「じゃが――」
「それをはねのけてこそ、真の呑兵衛じゃない?」
一瞬、静まる室内。
次の瞬間。
ジンが吹き出した。
「ぶはははっ!!」
「女神が煽るなよ!!」
ジャックも笑う。
だが。
サクラはニヤリと笑っていた。
「……言ったな?」
ハイボールの泡が、しゅわりと弾ける。
「なら飲みながら迎え撃ってやるよ」
その瞬間。
――バンッ!!
宿の扉が勢いよく開いた。
「禁酒教団です!!」
ジローだった。
その後ろには、
マジナノと複数の教団員達。
「また来たのかよ」
サクラが呆れる。
「当然です!!」
ジローは両手を合わせた。
「今夜こそ酒を断ってもらいます!」
「酒駄目波を放ちます!!」
次の瞬間。
白い衝撃波が宿の中を走った。
「っ!?」
サクラが目を見開く。
近い。
避け切れない。
だが。
「――知心刀」
銀色の刃が走る。
――ザンッ!!
酒駄目波が真っ二つに裂けた。
「なっ!?」
ジローが固まる。
切り裂かれた酒駄目波は、
無数の白い破片となって飛び散った。
その瞬間。
「あ」
ジャックが嫌な顔をする。
パシャァッ!!
破片がジャックへ直撃した。
「げっ」
嫌な予感。
ジャックは恐る恐る、
ハイボールを一口飲む。
次の瞬間。
「…………」
沈黙。
「すっっっっっっっっっぺぇぇぇ!!」
宿が揺れた。
ハイボールは、
完全に酢の炭酸割へ変わっていた。
ジンが腹を抱えて笑う。
「またお前かよ!!」
イーチコまで吹き出していた。
「今回は破片か……」
ジャックは涙目のまま、
ジローへ詰め寄った。
「おい!!」
「破片だから前よりは早く戻るんだろ!?」
「いつ酒飲めるんだ!?」
「そんなもの知りません!!」
ジローが叫ぶ。
「そもそも何故そこまで酒に執着するんですか!!」
「当然だろうが!!」
ジャックが怒鳴る。
「酒飲めねぇ人生なんざ地獄だ!!」
すると。
ジローは胸を張った。
「ならばこの際――」
「我が禁酒教団の教えを説いてあげましょう!」
「いらねぇ!!」
全員が即答した。
だが。
マジナノは静かに眼鏡を押し上げる。
「ですが」
「酒を断つことで得られる平穏もあります」
「酔って暴れることも無い」
「判断力も鈍らない」
「財布も軽くならない」
「健康にも良い」
「素晴らしいではありませんか」
沈黙。
数秒後。
サクラが真顔で呟いた。
「……つまんねぇ人生だな」
「同感♪」
ジンも頷く。
マジナノのこめかみに青筋が浮かんだ。
そして。
ぐいっとジローへ詰め寄る。
「ジロー」
「は、はいっ!」
「アル中どもに――」
「我が禁酒教団の尊い教えを、身をもって教えて差し上げなさい」
「えぇっ!?」
ジローが固まる。
だが。
その瞬間。
サクラがニヤリと笑った。
「おっ」
「じゃあ俺が相手してやるよ」
「っ!?」
サクラが一気に距離を詰める。
「ほらほら」
「禁酒の教えってやつ、聞かせてくれよ?」
至近距離。
ジローの顔が一瞬で赤くなる。
「ぐ……っ」
「ち、近いです!!」
その様子を見ていたカスミが、
ふと首を傾げた。
「……あれ?」
「ジローさん」
「もしかして女性が苦手なんですか?」
沈黙。
ジローの動きが止まる。
その瞬間。
ジンがニヤァっと笑った。
「えっ♪」
「試してみる?」
「なっ!?」
ジンがぐいっと顔を寄せる。
酒の香り。
ジローは一歩後退った。
「ち、近いです!!」
すると今度は、
イーチコまで面白がり始めた。
「ほぉ?」
「こっちはどうだ?」
ドワーフ娘が酒瓶片手に迫る。
「うっ……!」
ジローがさらに後退る。
サクラは腹を抱えていた。
「弱ぇぇぇ!!」
「やめなさいあなた達……」
マジナノが頭を押さえる。
だが。
ジンは止まらない。
「ほらほら~♪」
「禁酒の教え、聞かせてよぉ♪」
「う、うわぁぁぁっ!?」
完全に追い詰められるジロー。
その時だった。
マジナノが深く溜息を吐く。
「……あなた達」
「少しは加減しなさい」
「ジロー」
「は、はいっ……!」
マジナノは気を遣うように、
そっとジローの肩へ手を置いた。
「落ち着きなさい」
「深呼吸です」
だが。
その瞬間。
ジローの顔がさらに真っ赤になった。
「ぐっ……!?」
「えっ」
マジナノが止まる。
耳まで赤い。
完全に限界だった。
サクラが数秒固まる。
そして。
「お前、マジで駄目じゃねぇか!!」
宿屋が爆笑に包まれた。
数秒後。
ジローはぐっと拳を握り締めた。
「……今日は撤収します!!」
「ですが!!」
「今後はさらに禁酒強化運動を促進しに来ますからね!!」
「また来るのかよ」
サクラが呆れる。
ジローは顔を真っ赤にしたまま、
その場を去っていった。
その後ろ姿を見ながら。
マジナノは深く溜息を吐く。
「……もうジローは……」
そして。
静かに教団員達へ指示を飛ばした。
「撤収です」
禁酒教団は、
夜の街へ消えていく。
一方。
酒飲み達の宿では、
再びハイボールの泡が弾けていた――
(第29話へ続く)
今回は禁酒教団側もかなり賑やかな回となりました。
特にジローは、真面目なのですが……。
次回も引き続き酒飲み達の騒動は続きます。




