第23話『禁酒と酒盛りの夜』
今回は発泡湿地帯へ向かう前夜、宿での酒盛り回となります。
禁酒中のジャックと、いつも通り騒がしい酒飲み達をお楽しみください。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
その日の夜――
一行は、街道沿いの宿へ泊まっていた。
発泡湿地帯へ向かう前の、最後の休憩地点。
木造二階建ての宿。
一階は酒場になっており、
大勢の冒険者達で賑わっていた。
「いい感じの店じゃん♪」
ジンが楽しそうに笑う。
「こういう騒がしい店、好きなんだよねー」
「お前は飲めればどこでも好きだろ」
マサムネが呆れる。
その時だった。
酒場の店員が近づいてきた。
「お客さん方、何にします?」
「とりあえず酒だな」
マサムネが即答する。
するとジンがニヤリと笑った。
「お、変身タイム?」
「その言い方やめろ」
マサムネは酒を受け取る。
琥珀色の蒸留酒。
軽く香りを確かめ――
一気に飲み干した。
次の瞬間。
ふわりと淡い光が溢れる。
「え……?」
カスミが固まった。
髪が伸びる。
体格が変わる。
声が変わる。
服装まで変化していく。
そして。
そこに立っていたのは、
長身の美女サクラだった。
「っはぁ……」
「やっぱ酒はうめぇな……」
「ま、マサムネさん……?」
カスミは完全に混乱していた。
「お、変わったおっさん♪」
ジンが笑う。
「毎回見ても慣れねぇな」
イーチコも苦笑した。
「おっさん言うな!!」
サクラが怒鳴る。
その時だった。
「おぉぉぉい!!」
酒場の奥から大声が響いた。
巨大なジョッキを掲げる男。
ラガーラガーだった。
「来たかお前らぁ!!」
「親父!?」
イーチコが目を丸くする。
「なんで居るんだよ……」
「決まってんだろ!!」
ラガーラガーは豪快に笑った。
「炭酸素材が手に入るって聞いてなぁ!!」
「そりゃ酒飲みとして見逃せねぇ!!」
「まだ手に入れてねぇだろ……」
サクラが呆れる。
だが。
ラガーラガーは既に出来上がっていた。
泡立つビールを豪快に流し込む。
「ぐはぁぁっ!!」
「うめぇ!!」
その隣で。
ジャックが静かに座っていた。
目の前には――麦茶。
「……」
哀愁が凄かった。
「なんで俺だけこんな目に……」
「まぁまぁ♪」
ジンが笑いながら肩を叩く。
「三日くらい我慢しなよ」
「酒飲みにとって三日禁酒は拷問だぞ……」
ジャックは本気で死んだ目をしていた。
すると突然、
ジャックが顔を上げる。
「……いや」
「待て」
真剣な表情。
「これだ」
「ハイボールだ」
「炭酸で割れば飲めるはず……!」
希望に満ちた目。
だが。
周囲は静かだった。
「いや」
イーチコが真顔で言う。
「たぶん酢だぞ」
「炭酸で割っても酢だな」
「そんなぁ!!」
ジャックが机へ突っ伏した。
「罰ゲームじゃん♪」
ジンが爆笑する。
「酢の炭酸割りかぁ!!」
ラガーラガーまで笑っていた。
「笑うなぁ!!」
酒場の客達まで笑い始める。
その頃。
カスミは少し落ち着かない様子で周囲を見ていた。
酒の匂い。
騒がしい笑い声。
酔っぱらい達。
禁酒教団に居た頃なら、
絶対に近づかなかった空間だった。
だが。
不思議と嫌ではない。
「カスミー♪」
ジンが手を振る。
「こっちこっち♪」
「は、はいっ」
席へ座る。
すると。
目の前へ酒瓶が置かれた。
「飲む?」
「い、いえっ!?」
カスミが慌てる。
「ま、まだ心の準備が……!」
「真面目だなぁ」
イーチコが苦笑した。
その時だった。
ふと、サクラが立ち上がる。
「……ちょっと花摘み行ってくる」
そして。
何の迷いもなく、
男子トイレの方へ歩き出した。
「……あ」
カスミが固まる。
「さ、サクラさん!?」
「ん?」
「そ、そっちは……!」
サクラは数歩進み――
ぴたりと止まった。
沈黙。
「……」
「……あ」
ゆっくり振り返る。
そして。
「……こっちか」
真顔で女子トイレ側へ向かった。
「完全におっさんじゃん♪」
ジンが腹を抱えて笑う。
「うるせぇ!!」
サクラの怒鳴り声が飛ぶ。
カスミは顔を真っ赤にしていた。
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
「中身はおっさんだからな」
イーチコが普通に言った。
数分後。
席へ戻ってきたサクラは、
やや不機嫌そうだった。
「慣れねぇ……」
「どっちに?」
ジンがニヤニヤ聞く。
「全部だ!!」
再び笑いが起きる。
その時だった。
突然。
空中へ光の輪が浮かび上がる。
「お?」
サクラが顔を上げた。
次の瞬間。
『ソーダーマテリアルですって!?』
元気な声が響いた。
酒の女神ヘーベだった。
『炭酸よ炭酸!!』
『ハイボール! ジンソーダ! 焼酎ソーダ割!!』
『絶対奉納してね!!』
「そこかよ……」
サクラが呆れる。
『炭酸は偉大なのよ!?』
『喉へ来るあの刺激!!』
『しゅわしゅわ感!!』
『酒の可能性が広がるの!!』
「ただの酒飲みじゃねぇか……」
ジャックが死んだ目で呟いた。
その横で。
ラガーラガーがジョッキを掲げる。
「いい女神じゃねぇか!!」
「お前は黙ってろ!!」
酒場はさらに騒がしくなる。
そして――
発泡湿地帯へ向かう前夜は、
ゆっくり更けていくのだった。
次回より、発泡湿地帯編へ突入予定です。
炭酸素材「ソーダーマテリアル」を巡り、禁酒教団との接触も増えていきます。




