第21話『おっさん、女子服屋へ……』
新たな酒飲み仲間、エルフの弓使い「ジン・トニック」が登場します。
そしてサクラは、半ば強引に女子服屋へ連行されることに――。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
「……飲めねぇ……」
ジャックは机に突っ伏していた。
目の前にはバーボン。
だが、飲めない。
口に入れた瞬間、酢になる。
「うう……」
「まだ治らないのか」
イーチコが呆れたように言う。
「だって飲めねぇんだぞ!?」
ジャックは顔を上げた。
「地獄だろこれ!!」
その時だった。
「……多分ですけど」
カスミが遠慮がちに口を開く。
「ジローさんの酒駄目波って……」
「三日くらいは続くらしいです」
沈黙。
「……は?」
ジャックが固まる。
「三日ぃぃぃぃ!?」
頭を抱えて絶叫する。
「無理だ!!」
「個人差はあるみたいですけど……」
カスミが苦笑する。
「十分長ぇよ!!」
ジャックは机に突っ伏した。
「騒がしいなぁ」
軽い声が店内に響く。
入口から現れたのは――
長い金髪。
尖った耳。
緑を基調にした軽装の弓使い。
腰には小瓶。
背には弓。
風がふわりと髪を揺らした。
「よぉ、ジャック」
エルフの女はニヤッと笑う。
「なんか死にそうな顔してんじゃん?」
「……ジン」
ジャックが顔をしかめた。
「笑いに来たのか」
「うん」
即答だった。
「酒飲めない酒飲みとか最高じゃん♪」
「性格悪ぃな!?」
ジン・トニック。
酒と風を愛するエルフの弓使い。
ジャックとは古い飲み仲間だった。
「ほら」
ジンは腰の小瓶を揺らす。
「今日はいいジン入ったんだよねぇ」
「やめろぉぉぉ!!」
ジャックが頭を抱える。
イーチコは横で吹き出していた。
「相変わらず仲いいな」
「どこがだ!」
その時だった。
ジンの視線が、ふと止まる。
「……ん?」
視線の先。
そこにはカスミがいた。
まだ教団の制服を着ている。
ジンの笑みが少し消えた。
「……それ」
カスミが小さく身構える。
「まだ着てんの?」
「え……」
「いや、その服」
ジンは露骨に顔をしかめた。
「気に入らないんだよね」
空気が少し止まる。
カスミは視線を落とした。
「……まだ、着替えがなくて」
「なら買いに行こ」
ジンは軽く言った。
「その教団っぽいの、見てるだけで肩凝る」
「お前なぁ……」
サクラが苦笑する。
ジンはそこで初めてサクラを見る。
「ん?」
「そっちの美人、誰?」
「サクラだ」
ジャックが雑に答えた。
「まぁ、仲間みてぇなもんだ」
「へぇ~」
ジンは面白そうにサクラを見る。
「美人じゃん」
「どうも」
サクラは軽く手を上げた。
「そっちの美人も来る?」
「は?」
サクラが眉をひそめる。
「なんで俺まで」
「サクラも女子でしょ、行こう♪」
ジンは当然のように言った。
「いや、そういう問題じゃ――」
ぐいっ。
ジンがそのまま腕を引っ張る。
「ほらほら♪」
「おい」
「めんどくせぇ……」
「諦めろ」
イーチコが淡々と言った。
ジンは風のように店を出ていく。
カスミも慌てて後を追った。
サクラは肩をすくめる。
「行くか……」
数十分後――
街の中心部。
女性向けの服屋が並ぶ通り。
「これとか似合いそうじゃん?」
ジンが次々と服を持ってくる。
「え、えぇ!?」
カスミが慌てる。
「そんな派手なの無理です!」
「絶対似合うって」
「いやでも……!」
その様子を見ながら、
サクラは少し離れた場所で待っていた。
「女子って元気だなぁ……」
「サクラさんも選べば?」
カスミが聞く。
「俺はいい」
サクラは苦笑した。
「服より酒――」
そこまで言って、
ふらりと体が揺れた。
「……ん?」
嫌な感覚。
体の奥が冷える。
「おい?」
イーチコが眉をひそめる。
「まさか」
次の瞬間――
ふっと光が弾けた。
そして。
そこに立っていたのは――
黒髪。
くたびれた顔。
完全に見慣れたおっさん。
「……あ」
マサムネだった。
店内が静まり返る。
「…………」
数秒の沈黙。
そして――
「ぶはっ!!」
最初に吹き出したのはジンだった。
「おっさんじゃねーか!!」
腹を抱えて笑い始める。
「なにそれ!?」
「サクラっておっさんだったの!?」
「だから見られたくなかったんだよ……!」
マサムネが頭を抱える。
周囲の女性客がざわつき始めた。
「え、誰?」
「さっきまで女の人じゃ……」
「変態……?」
「違う!!」
マサムネが即座に叫ぶ。
カスミは呆然としていた。
だが、やがて小さく笑う。
「……やっぱり」
マサムネが顔を上げる。
「サクラさんは、マサムネさんだったのね」
その声は、どこか納得したようだった。
「まぁ……そういうことだ」
「いやー、おもしれぇ……♪」
ジンはまだ笑っていた。
「美人剣士がおっさんとか反則だろ」
「うるせぇ!」
イーチコはため息をつく。
「だから酒切れに気をつけろって」
「しょうがねぇだろ……」
マサムネは完全に居心地悪そうだった。
女子服屋。
周囲は女性客。
その中心に、おっさん。
地獄だった。
「……帰りたい」
「無理♪」
ジンが笑顔で即答する。
「せっかくだし、今度はおっさん用の服でも選ぶ?」
「やめろ」
マサムネは真顔で答えた。
(第22話へ続く)
お読みいただきありがとうございました。
ジンは自由奔放ですが、酒と風をこよなく愛するエルフです。
そして女子服屋に放り込まれたマサムネの運命やいかに……。




