表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラとマサムネ異世界ほろ酔い漫遊記  作者: まほ。かんた。
15/16

第15話『娘の方がまともだった』

サクラ専用武器の素材――黒泡鉱。

その探索に向かう朝、工房では別の騒動が起きていました。

どうやら、鍛冶師本人より娘の方がしっかりしているようです。


※お酒は20歳になってから。

※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。

※楽しく適量で。

ムギルの町、朝。


 まだ日が昇りきらぬ通りには、麦の香りを含んだ風が流れていた。


 そんな穏やかな朝をぶち壊すように、一本の怒鳴り声が響く。


 「よぉぉし!! 決まりだぁ!!」


 ラガーラガーの工房である。


 扉の外を歩いていた鳥まで飛び立つほどの大声だった。


 工房の中では、マサムネが耳を押さえ、ジャック・ダニルが笑っている。


 「朝っぱらから元気だな、おっさん……」


 「HAHAHA! これぞドワーフ魂ってやつだ!」


 当のラガーラガーは、上機嫌で巨大な木ジョッキを掲げていた。


(第16話へつづく)


 「黒泡鉱を取りに行くんだろぉ!? なら話は早ぇ! この俺様も同行してやる!」


 「いや、朝から飲んでる奴は戦力に数えねえよ」


 「これは景気づけだ!」


 「三杯目で景気づけ終わってるだろ」


 マサムネが呆れていると――


 バァン!!


 工房の扉が勢いよく開いた。


 「行かせるか、この飲んだくれ親父!!」


 小柄な少女が仁王立ちしていた。

挿絵(By みてみん)

 茶色がかった髪を後ろで束ね、尖った耳。ドワーフ特有のしっかりした体つきだが、父親ほどごつくはない。瞳はくりっと大きく、愛嬌がある。


 だが今は、目つきが怖い。


 「イ、イーチコ……」


 ラガーラガーの顔色が変わった。


 「朝から酒! しかも工房の炉に火も入れてない! 注文の包丁は!? 修理の鍬は!? 積み上がってんだけど!?」


 「そ、それは後で――」


 「後では昨日も聞いた!」


 怒涛だった。


 マサムネは思わず姿勢を正した。


 「……娘さん?」


 「そうだよ。このダメ親父のな」


 少女はため息をつき、腰に手を当てた。


 「イーチコ。ここの実質責任者」


 「娘に責任者やらせてんのかよ」


 「親父が責任放棄してるからね」


 即答だった。


 ジャックが腹を抱えて笑う。


 「HAHAHA! こりゃあ嬢ちゃんの方が百倍まともだ!」


 「百倍で足りる?」


 「千倍だ!」


 「わかってるじゃん」


 ジャックと妙に息が合っていた。


 ラガーラガーは肩を落とし、木ジョッキをそっと置く。


 「……娘ってのは、どうしてこう強ぇんだ」


 「日頃の行いだよ」


 イーチコはそう言うと、マサムネの方を見た。


 「で、あんたが例の変なの?」


 「誰が変だ」


 「酒飲むと女になるって聞いたけど」


 「……説明すると長い」


 「見ればわかる」


 なんとも言えない顔をされた。


 だが、どこか嫌味ではない。


 「まあいいや。黒泡鉱が必要なんでしょ?」


 「お、おう」


 「なら親父は置いてく」


 「なんでだぁ!?」


 「坑道の酒まで飲み干すから」


 「そんなことせん!」


 「前科三回」


 「覚えてやがる……!」


 完全に信用がなかった。


 イーチコは棚から工具袋を背負い、小さなハンマーと鑑定用のルーペを腰に差した。


 「行くならあたしが行く。鉱石の見分けもできるし、採掘道具の扱いも親父より上」


 「おい親父より上は言いすぎだろ」


 「事実」


 ラガーラガーは静かに泣いた。


 マサムネは少し笑いながら言った。


 「嫌々付き合わせる形なら、無理しなくてもいいぞ?」


 その言葉に、イーチコは一瞬だけ目を丸くした。


 そしてすぐに視線を逸らす。


 「……別に嫌々じゃないし」


 「そうか?」


 「素材が気になるだけ。あと親父に任せると不安」


 「なるほど」


 「……あと、あんたらだけでも不安」


 「それは否定できねえ」


 ジャックが親指を立てた。


 「よし! なら決まりだ! 美女と旅だ!」


 「誰が美女だ、このタレ目男」


 「HAHAHA! 口が強い!」


 「黙れ」


 マサムネは少し安心した。


 この娘がいれば、騒がしい旅でも妙にまとまりそうだった。


 ラガーラガーは奥から地図を持ってきた。


 「旧坑道は北外れだ。今は使われてねぇが、昔は黒泡鉱が採れた」


 「危険は?」


 「落盤、魔物、迷路、あとたまに変なキノコ」


 「最後だけ妙にゆるいな」


 「食うなよ? 三日笑いが止まらなくなる」


 「最悪だな」


 準備を終え、三人は工房の外へ出た。


 マサムネ、ジャック、イーチコ。


 見送りに出たラガーラガーが大声で叫ぶ。


 「娘ぇぇぇ!! 気をつけろぉぉ!!」


 「親父こそ仕事しろぉぉ!!」


 「うおぉぉぉ!!」


 「泣いてんじゃねえ!」


 朝の町に、親子喧嘩が響き渡った。


 歩き出しながら、マサムネはぽつりとつぶやく。


 「……娘の方がまともだったな」


 「今さら気づいた?」


 イーチコが鼻で笑う。


 その横顔は、どこか少し誇らしげだった。


 やがて町を抜け、北の丘を越える。


 そこには、大地に口を開けた黒い穴があった。


 旧坑道――。


 風もないのに、奥から冷たい空気が流れてくる。


 ジャックが帽子を押さえた。


 「こいつぁ、歓迎されてねぇ空気だな」


 イーチコの表情が引き締まる。


 「ここから先は冗談抜きだよ」


 マサムネも唾を飲み込んだ。


 暗い坑道の奥から――


 ゴゴ……ン……


 何かを叩くような音が、響いた。

第十五話をお読みいただきありがとうございました。


新たに登場したイーチコは、ラガーラガーの娘にして、工房の実質的なまとめ役です。

豪快すぎる父とは対照的に、しっかり者で現実的――けれど酒好きな血筋はしっかり受け継いでいます。


そして物語は、黒泡鉱を求めて旧坑道へ。

次回より、少し冒険色強めで進んでいく予定です。


引き続きお付き合いいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ