第14話『姐さんの剣を打つ男』
腕は確か。
口も酒臭い。
そんな鍛冶師が、本気を出すようです。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
ラガー鍛冶店の工房には、朝から熱気が満ちていた。
炉の炎。
鉄の匂い。
打ち鳴らされる槌音。
そして――
「中年! 突っ立ってねえでこっち来い!」
ラガーラガーの怒鳴り声である。
「朝から人使い荒すぎるだろ……」
工房の隅で、マサムネは肩を落とした。
昨夜の縁で、なぜか雑用係として捕まっていたのだ。
炭運び。
水汲み。
床掃除。
「なんで俺がこんな目に……」
「手ぇ動かせ。働かざる者、飲むべからずだ」
「酒基準なのかよ」
そこへ、ジャック・ダニルが酒瓶片手に現れた。
「おう、景気よくやってるな」
「昼前から飲んでる奴に言われたくねえ」
「俺は景気づけだ」
「お前ら全員それ言うな!」
ラガーラガーは棚から大きな木杯を取り出し、黄金色の液体を注いだ。
泡立つ香り高い麦酒。
「中年、飲め」
「いや、朝だぞ?」
「朝だから飲むんだ」
「お前まで同じ理論か!」
ジャックが笑う。
「ここの麦酒はうまいぞ」
「ぐ……」
マサムネは少し迷い、木杯を受け取った。
「一杯だけだからな」
ぐい、と喉へ流し込む。
冷たい苦味。
鼻へ抜ける麦の香り。
「……くっ、うめえ」
その瞬間だった。
ふわり、と風が舞う。
桜色の髪が広がり、服装が変わり、背丈が伸びる。
工房の空気が一瞬止まった。
そこに立っていたのは、美しき女剣士――サクラだった。
ラガーラガーは固まった。
木杯が手から落ちる。
ごとん。
「…………」
「…………」
「なんだ今の」
サクラは額を押さえた。
「だから嫌だったんだよ……」
ラガーラガーは震える指で、さっきまでマサムネがいた場所を指差した。
「中年は!?」
「俺だよ」
「姐さんが!?」
「そうだよ」
「中年が!?」
「だからそうだって言ってるだろ!」
ラガーラガーは頭を抱えた。
「酒ってすげえ……」
ジャックが肩をすくめる。
「初見は皆そうなる」
数分後。
ようやく落ち着いたラガーラガーは、目を輝かせながらサクラの周りをぐるぐる回っていた。
「姐さん! その剣貸しな!」
「近い近い近い!」
半ば強引に剣を受け取り、刃を撫で、柄を叩き、重さを量る。
そして断言した。
「なまくらだな」
「はぁ!?」
「切れる。だが浅い」
「軽い。だが芯が弱い」
「見た目だけは派手だ」
「最後の一言いらねえだろ!」
ジャックが吹き出す。
「言うねえ」
ラガーラガーは棚の奥から、黒く鈍い鉱石を取り出した。
「こいつぁ《黒泡鉱》だ」
「熱に強く、粘りもある」
「姐さんの剣にゃ最高だ」
サクラは腕を組む。
「じゃあ作ればいいだろ」
「足りねえ」
「え?」
「一本分、少しだけ足りねえ」
ラガーラガーはにやりと笑った。
「だから取りに行く」
「どこへ?」
「町外れの旧坑道だ」
「まだ鉱脈が眠ってる」
サクラは顔をしかめた。
「危なくねえのか?」
「少し崩れる」
「かなり危ねえな!?」
その時、入口から遠慮がちな声がした。
「……あの」
振り向くと、そこには宇良かすみが立っていた。
教団の衣装姿のまま、籠を抱えている。
「昨日のお詫びに……パンを焼いてきました」
空気が止まる。
サクラは思わず顔を背けた。
(なんで今なんだよ……!)
ラガーラガーが小声で言う。
「姐さん、知り合いか?」
「ち、違うよ!」
カスミは頬を赤らめ、サクラを見る。
「やっぱり……素敵です」
「え?」
「昨日、助けてくれてありがとうございました」
サクラは気まずそうに咳払いした。
「べ、別に大したことじゃねえよ」
ラガーラガーの目がさらに輝く。
「姐さん人気者だな!」
「うるせえ!」
その日の午後。
黒泡鉱を求め、町外れの旧坑道へ向かうことが決まった。
ラガーラガーは槌を担ぎ、高らかに笑う。
「最高の剣を打ってやる!」
ジャックは酒瓶を掲げる。
「景気づけだ!」
「置いてけ!」
サクラは深くため息をついた。
「……なんでこうなるんだよ」
ムギルの騒動は、まだまだ終わりそうになかった。
(第15話へつづく)
第14話は、ラガーラガー本領発揮回でした。
そして新たな素材探しへ。
鍛冶師がいると、冒険の理由も増えます。
次回、坑道でまた騒ぎます。




