第13話『麦酒(ビール)とドワーフと……』
騒ぎの翌朝。
次に現れたのは、文句男でも教団でもなく――
酒くさくて、やたら声の大きい男でした。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
ジローたち禁酒教団が去った翌日。
ムギルの町は、表向きには平穏を取り戻していた。
もっとも――
「樽が三つ割られた!」
「看板も壊されたぞ!」
「誰が弁償するんだ!」
酒場通りでは、朝から店主たちの怒号が飛び交っている。
マサムネは、通りの端で腕を組んだ。
「全然平穏じゃねえな……」
隣でジャック・ダニルが笑う。
「祭りの後ってのは、いつだってこんなもんさ」
「お前、昨日ただ騒いでただけだろ」
「俺は心で戦っていた」
「口で飲んでただけだ」
その時、酒屋の店主が駆け寄ってきた。
「おお、あんたら!」
「頼む、ちょっと来てくれ!」
「今朝届いた麦酒樽の金具が壊れて、栓が閉まらねえ!」
「このままじゃ全部だめになる!」
ジャックの目が光った。
「麦酒が無駄になるだと?」
「それは国家的損失だ」
「そこまでか?」
店主は必死だった。
「修理できるのは一人しかいねえ!」
「この町一番の鍛冶師だ!」
「ただし……」
「ただし?」
「朝は機嫌が悪い」
「嫌な予感しかしねえ」
三人が案内されたのは、酒場通りの奥。
煙突から白い煙を上げる、大きな石造りの工房だった。
看板にはこう書かれている。
《ラガー鍛冶店》
その横には小さく、雑に殴り書きされていた。
《朝は起こすな》
「帰ろう」
マサムネが即答した。
「もう遅い」
ジャックが扉を叩く。
ドン! ドン! ドン!
次の瞬間。
内側から、とんでもない怒声が響いた。
「朝っぱらから誰だァァァ!!」
扉が勢いよく開いた。
現れたのは――
背は低い。
だが横幅は広く、岩のような肩。
燃えるような赤茶の髭。
腕は丸太のように太い。
片手に巨大ジョッキ。
もう片手に鉄槌。
そして顔は真っ赤だった。
「飲んでるじゃねえか!」
マサムネが叫ぶ。
男は鼻を鳴らした。
「朝酒じゃねえ。朝の景気づけだ」
「同じだろ!」
ジャックが笑って肩を叩く。
「久しぶりだな、ラガーラガー!」
「おう、うるせえカウボーイか」
「誰がうるせえだ」
「お前だ」
テンポよく言い切られた。
マサムネは呆れる。
「知り合いかよ……」
ラガーラガーは、じろりとマサムネを見た。
「なんだその冴えねえ中年は」
「初対面で雑!」
「鍛冶屋の目は誤魔化せん」
「誤魔化してねえよ!」
店主が慌てて事情を説明する。
麦酒樽の金具破損。
酒が駄目になる危機。
ラガーラガーの顔色が変わった。
「……それを先に言え」
ジョッキを置き、鉄槌を担ぐ。
「酒を粗末にする話は聞き捨てならねえ」
さっきまでの酔っ払いとは別人の目だった。
工房の奥。
問題の樽が運び込まれる。
金具はひしゃげ、栓が浮いている。
ラガーラガーは無言で見つめた。
指で叩く。
耳を当てる。
そして一言。
「三流仕事だな」
「分かるのか?」
「木の泣き声がしてる」
「分からん」
次の瞬間。
カン!
カン!
カン!
鉄槌が踊る。
火花が散る。
短く、正確に、迷いなく打ち込まれていく。
数分後。
ラガーラガーは鼻を鳴らした。
「終わりだ」
店主が恐る恐る栓を締める。
ぴたり、と閉まった。
漏れもない。
「おおおっ!」
店主は歓声を上げた。
「助かった!」
ラガーラガーは当然のように手を差し出す。
「報酬は麦酒三杯」
「安いな!?」
「今は朝割だ」
その時だった。
通りの外から、女たちの声が聞こえた。
「きゃー! サクラさんだ!」
「また来てる!」
ラガーラガーの耳がぴくりと動く。
「……姐さんが来てる?」
「姐さん?」
「昨日、教団を蹴散らした桜髪の剣士だ!」
目が輝いた。
「通せ!」
「俺が最高の武器を打ってやる!」
マサムネが青ざめる。
「やめろ」
「なんでだ?」
「色々ややこしいんだよ!」
ラガーラガーは鼻で笑った。
「安心しろ、中年には売らん」
「地味に傷つく!」
そして彼は、鋭い目でマサムネを見る。
「だが、お前――」
「どこかで見た顔だな?」
マサムネの背筋に冷たい汗が流れた。
(第14話へつづく)
第13話、新キャラ・ラガーラガー登場でした。
うるさい、飲む、女好き。
でも腕だけは本物です。
次回、武器と秘密が動き出します。




