第12話『文句男と美人剣士』
文句の多い男、ついに動く。
美人剣士との相性は――最悪かもしれません。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
翌朝。
ムギルの町の中央広場は、朝から騒がしかった。
禁酒教団が、通りの一角を占拠していたのだ。
白い旗。
酒杯に赤い禁止線が描かれた紋章。
そして、木箱の上に立って演説する一人の男。
木間次郎ジローである。
「酒は判断力を鈍らせます!」
「財布の紐も緩ませます!」
「翌朝の頭痛率も高い!」
通行人たちは、朝からげんなりした顔だった。
「なんか細かいな……」
少し離れた場所で、マサムネはパンをかじっていた。
隣では、ジャック・ダニルが酒瓶を持っている。
「朝から飲むな」
「朝だから飲むんだ」
「意味が分からん」
その時だった。
広場の一角で、教団員たちが酒屋の樽を運び出し始めた。
店主が慌てて叫ぶ。
「おい! それは今朝届いたばかりの麦酒だぞ!」
ジローは腕を組んだ。
「没収です」
「教育的措置です」
「ただの横暴だろ!」
マサムネが思わず前へ出る。
ジローが振り向いた。
「先輩」
「やっぱお前か」
「やっぱとは失礼ですね」
「朝から町中に文句撒き散らしてる時点でお前しかいねえよ」
ざわつく周囲。
ジローは冷静に眼鏡を押し上げた。
「先輩。あなたは昔からだらしない」
「遅刻する」
「提出遅い」
「言い訳多い」
「姿勢悪い」
「公開説教やめろ!」
通行人が少し笑う。
ジローはさらに続ける。
「そんな人間が酒を擁護する資格はありません」
マサムネのこめかみに青筋が浮いた。
「言わせておけば……!」
マサムネはジャックの持っていた小瓶をひったくった。
「おい、それ俺の朝酒――」
「うるせえ、あとで返す!」
ぐい、と一気に喉へ流し込む。
次の瞬間。
ふわりと桜色の髪が揺れた。
「――そのへんにしておけ」
現れたのは、美しき女剣士。
サクラだった。
周囲がどよめく。
「また出た!」
「美人剣士だ!」
ジローの眉がぴくりと動く。
「……あなたですか」
サクラは肩をすくめた。
「朝から町の人に嫌われる才能、大したもんだな」
「規律を嫌う者には理解できません」
「文句ばっか言ってる奴にもな」
「……」
空気が張り詰める。
ジャックが後ろで笑った。
「始まるぞ」
次の瞬間。
ジローが地面を蹴った。
速い。
拳法の踏み込みだった。
サクラは身をひねり、紙一重でかわす。
「へえ、口だけじゃなかったか」
「当然です」
連撃。
突き。
回し蹴り。
ジローの攻撃は鋭く、無駄がない。
サクラも剣を抜かず、体さばきだけで避け続ける。
「本気でやると町が壊れるぞ」
「言い訳ですね」
その瞬間、サクラの足払いが決まった。
「うおっ!?」
ジローが初めて体勢を崩す。
そこへ剣の鞘先が、ぴたりと喉元へ止まった。
「勝負ありだ」
広場に歓声が上がる。
ジローは悔しげに立ち上がった。
「……覚えていなさい」
「小物っぽい捨て台詞だな」
「違います。次回への布石です」
「自分で言うんだ」
教団員たちを引き連れ、ジローは去っていく。
その途中、宇良かすみだけが一度だけ振り返った。
サクラを見る。
そして、その横にいるマサムネを見る。
「……?」
何か引っかかったような顔だった。
だが、すぐに去っていく。
サクラは小さく息を吐いた。
「危なかった……」
ジャックが笑う。
「何がだ?」
「昔の後輩に説教されるのがよ」
「そっちか!」
ムギルの朝は、今日も騒がしい。
(第13話へつづく)
第12話は、ジローとサクラの初対決でした。
強いのに面倒くさい男。
かなり厄介です。
次回、物語はさらにややこしくなります。




