第11話『僧侶カスミの本音』
再会のあと、静かな夜。
揺れるのは、教団の心か。
それとも、ひとりの女性の本音か。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
ムギルの町の夜は、静かだった。
昼間の騒ぎが嘘のように、石畳の通りには人影も少ない。
酒場の灯りだけが、ぽつぽつと温かく揺れていた。
その町外れ――
禁酒教団が借り受けている古い宿舎の一室で、宇良かすみ は小さく息を吐いた。
白と青を基調とした僧衣。
胸元には、水滴を模した教団の紋章。
だが、その衣装を着ていても、彼女の表情は晴れない。
「……これで、本当にいいのかな」
窓辺に立ち、外を見る。
遠くに見えるのは、賑やかな酒場通り。
笑い声。
歌声。
酔っぱらいの叫び声。
――昔から、ああいう場所が好きだった。
現代日本でも、彼女は小さな居酒屋で働いていた。
忙しかったが、嫌いではなかった。
人が笑って、少しだけ本音をこぼして、明日も頑張ろうと帰っていく。
酒には、そういう力があった。
だからこそ――
この世界で“酒は悪だ”と言われても、どうしても納得できなかった。
「壺を割って、樽を壊して……」
「それで人が幸せになるのかな……」
昼間、教団員たちが酒場へ怒鳴り込み、樽を蹴り倒そうとしていた姿が浮かぶ。
止められなかった自分も、情けなかった。
そして――
今日、再会した男の顔も思い出す。
マサムネ 。
現代で、よく店に来ていた常連客。
少し冴えなくて、愚痴が多くて、でも根は優しい人。
酔っても店員には絶対に横柄にならず、帰る時には必ず、
『ごちそうさん。今日も助かったよ』
そう言ってくれる人だった。
「……生きてたんですね」
もちろん違う。
この世界に来ている時点で、普通ではない。
けれど再び会えたことが、なぜか嬉しかった。
しかも、昼間の彼は少しだけ違って見えた。
情けない中年男のままなのに、どこか前より前を向いていた。
「……でも」
もう一人、気になる存在がいる。
桜色の髪の、美しい女剣士。
教団員を次々となぎ倒した、あの人。
――サクラ。
強くて、華やかで、自由だった。
まるで、誰にも縛られていないように見えた。
「……素敵だったな」
ぽつりと漏れた本音に、自分で驚く。
その時。
廊下の向こうから、怒鳴り声が響いた。
「水の配給が足りん!」
「寝床が硬い!」
「この町は酒臭い!」
木間次郎 の声だった。
カスミは肩を落とす。
「……元気だなあ」
真面目で有能なのは分かる。
けれど、文句の量まで転生前そのままとは思わなかった。
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「宇良さん!」
ジローだった。
眼鏡を光らせ、腕を組んでいる。
「明日から町の酒場を重点監視します!」
「あなたは回復担当です!」
「えっ、あ、はい……」
「あと、あの中年男には気をつけてください!」
「昔からだらしない人です!」
「は、はあ……」
「特に、あの美人剣士と関係がありそうです!」
「え?」
「勘です!」
「勘なんだ……」
言うだけ言って、ジローは去っていった。
静寂が戻る。
カスミは窓の外を見た。
酒場の灯りはまだ消えていない。
その一つに、あの人がいる気がした。
「……明日、ちゃんと話せるかな」
胸の奥が、少しだけ落ち着かない。
そして彼女はまだ知らない。
その“中年男”と、“美人剣士”が、
同一人物であることを――。
(第12話へつづく)
第11話は、かすみ視点のお話でした。
教団にいながら揺れる気持ち。
そして、まだ知らない“秘密”もあります。
次回、物語はまた動き出します。




