第10話『文句の多い男』
新たな敵は強いのか。
それとも、ただ面倒なのか。
※お酒は20歳になってから。
※お酒を飲んだら乗り物の運転はやめましょう。
※楽しく適量で。
ムギルの町は、昨夜遅くまで騒がしかった。
禁酒教団を追い払った祝いだと、醸造所の者たちが酒樽を開け、町中で宴を始めたのである。
当然、ジャックは大喜びだった。
「素晴らしい夜だった!」
朝日が差し込む宿の一室で、ジャックは爽やかな笑顔を浮かべていた。
対して、マサムネは布団の上でうずくまっている。
「……うるせぇ……頭に響く……」
「何を言う。祝い酒は人生の潤いだ!」
「お前、何杯飲んだ」
「数えていない!」
「だろうな……」
マサムネは深いため息をつき、のろのろと起き上がった。
昨夜、サクラのまま散々飲まされ、変身が解けた後は再変身しないよう酒を取り上げられ、そのまま朝を迎えた。
ただの飲みすぎである。
その時、宿の扉が勢いよく開いた。
「マサムネさん! 大変です!」
ギルド職員が飛び込んできた。
「また禁酒教団か……?」
「いえ、それ以上です!」
「それ以上?」
職員は青ざめた顔で告げた。
「幹部が来ました!」
マサムネは嫌そうな顔をした。
「もう面倒くさい予感しかしねぇ……」
◇
町外れの広場。
そこには、昨日よりも整然と並んだ白ローブ集団の姿があった。
前列、中列、後列。
無駄に統率が取れている。
その中央に、一人の男が立っていた。
黒髪短髪。
鋭い目つき。
細身だが引き締まった体つき。
白を基調とした僧兵服に、腕には手甲。
腕組みした姿勢からも、面倒な空気がにじみ出ている。
その隣では、泥だらけのサケノーが正座していた。
「……申し訳ありません、ジロー様」
「本当にそう思うなら、まず顔を洗ってください」
冷たい声だった。
「見苦しいです」
「は、はい……」
マサムネは遠目にその男を見て、眉をひそめた。
「……なんか見覚えあるな」
男がこちらを向く。
目が合った瞬間、互いに止まった。
「……佐倉先輩?」
「木間次郎……?」
空気が止まる。
ジャックがきょとんとする。
「知り合いか?」
マサムネは頭を抱えた。
「会社の後輩だ……」
ジローは深々とため息をついた。
「異世界に来ても、だらしないんですね」
「第一声それかよ!」
「服装も乱れてますし、姿勢も悪い。朝から顔色も最悪です」
「二日酔いなんだよ!」
「自己管理不足です」
マサムネのこめかみに血管が浮く。
「相変わらず文句ばっかだなお前!」
ジローは腕をほどき、一歩前に出た。
「私は今、禁酒教団幹部補佐。クラスはモンクです」
「文句の方だろ!」
「格闘僧です」
「ややこしいわ!」
教団員たちがざわつく。
「ジロー様、知人だったのですか?」
「残念ながら」
「残念言うな!」
その時、ジローの後ろから一人の女性が姿を見せた。
白と金の僧侶服。
やわらかな茶色の髪。
穏やかな瞳。
だが、その目がマサムネを見た瞬間、大きく揺れた。
「……え?」
マサムネも目を見開く。
「……かすみちゃん?」
女性は小さく口元を押さえた。
「正宗さん……?」
ジャックが面白そうに口笛を吹く。
「おやおや」
ジローは露骨に嫌そうな顔をした。
「知り合い、多すぎませんか」
「知らん! こっちが聞きたい!」
混乱するマサムネ。
困惑するカスミ。
不機嫌なジロー。
楽しそうなジャック。
そして後ろでまだ泥だらけのサケノー。
ムギルの町に、新たな騒動の風が吹き始めていた。
(第11話へつづく)
ついにジロー登場。
そして、かすみちゃんも来ました。




