第45話・大暴走<スタンピード>終幕
【1月17日15時20分――オンライン会議】
対策本部の大型モニターには首相官邸、宮城県庁、山形県庁、そしてハンター協会本部が映し出されていた。
日本中が固唾を呑んで見守っていた大暴走。
静まり返ったテントの中、鳴尾は一拍置いて口を開いた。
「以上をもちまして、宮城・山形県境で発生した大暴走は完全に終息したことをご報告いたします」
その言葉が告げられた瞬間、画面越しの空気がふっと緩む。
『……ありがとうございます』
鷹藤首相は深く息を吐き、そのまま静かに頭を下げた。
『重傷者を出すことなく、多くの命を守っていただいたことに、政府を代表して心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました』
鳴尾も小さく頭を下げる。
『それでは、この後ただちに緊急記者会見を――』
「総理」
鳴尾が言葉を遮った。
「申し訳ありません。もう一点、ご報告があります」
首相の表情が引き締まる。
『……何でしょうか?』
鳴尾は一度、隣に立つ尊を見てから、静かに告げた。
「洞窟最奥部において、新たな神獣を確認いたしました」
その一言で画面越しの空気が凍り付く。
『……神獣、ですか?』
政府関係者たちの間にも小さなどよめきが広がる。
「はい」
鳴尾は力強く頷く。
「現在のところ敵対行動は確認されておりません。つきましては当該地域を指定区域Sランクへの引き上げをお願いします」
首相は数秒沈黙したあと、ゆっくり頷いた。
『承知しました。成宮会長、正式な申請手続きをお願いいたします』
『承知いたしました』
ハンター協会会長・成宮が穏やかに答える。
その後、首相官邸と両県庁との通信が切れ、モニターにはハンター協会本部だけが残った。
『本当にご苦労だったね、鳴尾……そして尊』
成宮は、画面越しに優しく笑みを浮かべる。
『だが、君たちの報告はそれだけじゃないだろう?』
その一言に、鳴尾は苦笑する。
「……やはり隠せませんか」
「それについては俺から話します」
尊が一歩前へ出る。
洞窟で起きた出来事。
黒い魔獣の正体。
そして――銀月狼との邂逅。
一切包み隠さず説明した。
最後に尊は付け加えた。
「神獣・銀月狼は、自らの眠りから生まれた影が魔獣化したことを詫びていました。さらに希望する者には、自らの血を授けるとも言っています」
成宮は静かに目を閉じ小さく息を吐いた。
『……なるほどねぇ……寝たら魔獣が出る……なんて迷惑な神様だね』
その一言に、鳴尾と尊は思わず苦笑した。
『とは言え、今回は本当にご苦労だった。鳴尾』
「はい」
『参加してくれた全ハンターを、しっかり労ってあげなさい』
「承知いたしました」
通信が終了し、モニターが暗転する。
報告を終えても、尊の顔は晴れなかった。
「どうした?」
尊は真顔のまま口を開いた。
「.....会長って何歳なんですかね?」
「.....はぁ?」
鳴尾が思わず素っ頓狂な声を上げる。
「いや、鳴尾さんも気にならないですか? だって50過ぎのはずなのに見た目20代じゃないですか」
「まぁ、それは俺も思う」
鳴尾は腕を組む。
「本人は『神獣の血の影響かな』って笑いながら言ってたな」
「どの血を入れたらあぁなるんだよ」
「それはわからん、本人に聞いてみろ.....ほら、馬鹿な話はその辺にして行くぞ」
「祝勝会ですか?」
「そう言いたいところだが、まずは対策本部の撤収だ。まだ魔獣がうろつく場所で宴会なんてできるわけないだろ」
「それもそうですね」
二人は笑いながらテントを後にする。
外では、無事に生還したハンターたちの歓声が、冬空へと響いていた。
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大暴走終息から一週間。
洞窟周辺に設営されていた対策本部は、その日のうちに速やかに撤去され、現場はいつもの静かな山へ戻っていた。
そして今――。
仙台市内の高級ホテルでは、大暴走殲滅作戦に参加したハンターたちを労う祝勝会が盛大に開かれていた。
豪華な料理が並ぶ会場には、ようやく戦いから解放された者たちの笑顔が溢れている。
もちろん皆方高校の生徒たちも、招待されていた。
「ぉぉぉ!! メシがいっぱいだぁ!!」
真っ先に叫んだのは環太だった。
「恥ずかしいからやめてよ、環太」
「そんなの関係ない! 俺は食うぞーーっ!!」
そう叫ぶや否や、一直線に料理コーナーへ駆け出していく。
その姿を見て笑うハンターたち。
「犬童くんは、相変わらずみたいね」
聞き慣れた声に翔馬が振り向く。
「乃木さん」
そこには、黒いドレスに身を包んだしおりが立っていた。
戦場で見せる凛々しい姿とは違い、アイドルらしい華やかさが会場の照明を受けて一層際立っている。
「またお仕事ほったらかしてきたんですか?」
「翔馬くん、またって何よ。今日はちゃんと休み取ってるわよ」
腕を組みふくれっ面を見せるしおり。
その仕草に翔馬たちは思わず笑った。
その後、鳴尾や尊の挨拶を経て、祝勝会は和やかに進んでいった。
「楽しんでいるか?」
翔馬、真、政美たち突入部隊の6人に加え、環太としおりが集まっているところへ尊が声をかけた。
「ちょうどそろっててよかったよ」
「父さん、どうしたのさ?」
「なに、君たち6人にちゃんとお礼を言っておかないとと思ってな。俺の予想以上の活躍を見せてくれたよ」
「諏訪ハンターにお褒めの言葉をいただけるとは、光栄です」
政美が上品に頭を下げる。
「君たちはもう、立派な戦力だ。これからのハンター業界の未来は明るいな」
尊が豪快に笑ったその時、翔馬がふと疑問を口にした。
「尊さん、一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんだい?翔馬くん」
「あの時、剣に炎を纏わせていましたが……あれは魔法ですか?」
その質問に、尊はわずかに怪訝な顔をする。
「そうだな……ここにいるのは『血』の事情を知っている者だけだからいいか」
一拍置き、尊は声を落とした。
「神獣の血を取り入れた者だけが目覚める異能の力だ。魔法と呼んでも間違いじゃないが、我々はそれを【神異】と呼んでいる」
「【神異】」
「俺は炎だったが、雲竜の血を取り入れた者が全員炎を使えるわけじゃない。どんな力が発現するかは、誰にも分からんのさ」
「なるほど……」
「何を話してるんだい?」
いつの間にか成宮が尊の背後に立っていた。
「会長!!何故ここに??」
「ハンター協会の会長として大暴走に関わってくれた者たちをねぎらうのは当たり前だろ」
「はぁ」
「しかしだね。ハンター協会本部は仙台にあるのに、すぐ隣にわざわざ宮城県支部があるのはどういうことかな?」
「はい?」
支部は各県のハンター管理や魔獣の監視を行う場所であり、本部はそれを束ねる役割を持つ。役割分担として当然の組織図だ。
「宮城県が直轄なら私が今回対策本部長としてやれたのに、、、」
「何言ってるんですか、会長」
「この地位に着くと現場に行かないからな。つまらんからなぁ」
「会長、何やってるんですか?」
「なんだ、鳴尾じゃないか」
「なんだじゃないですよ、最後の挨拶をしていただかないと」
鳴尾は呆れたようにため息をつき、成宮の腕を引っ張って壇上へと連れ出した。
「……あれが、協会のトップなんですか?」
「残念ながらな」
「嵐みたいな人ですね……」
「仕事の時は完璧なんだがな……」
遠い目をする尊をよそに、壇上では成宮がマイクを握り、軽妙な挨拶を始めていた。
こうして、宮城・山形を揺るがした大暴走は、本当の意味で幕を閉じたのだった。
この度は読んでいただきありがとうございます。
この作品は、構成、文章を先に考え細かい描写等に関してはAIにて修正しています。
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