第87話 神の試練
何言ってんだ、こいつ?
魂の結びつきとかおとぎ話だと思ってたが、
まさか転生神の口からその言葉が出るとは。
「なあ。
その、魂の結びつきって何なんだ?」
「質問の多い奴じゃのう。
まあよい。
魂の結びつきとは読んで字のごとく、そのままの意味じゃ。
魂とは、お主らの心の本質。
最小単位の構成要素といっても良いじゃろう。
人は生まれ、死を迎え、そしてまた生を迎える。
その輪廻の中でも損なわれず、世代を超えて受け継がれるものが魂じゃ」
……時々あちこちで耳にする言い伝えの一つだな。
てっきり現世にしがみつく者への気休めかと思ってたが。
仮にそうだとすると、俺とシェリーは……
「お主ら二人は過去世において、もう幾度となく添い遂げてきたのじゃ。
夫婦が多かったが、時に親友、時には家族。
その時々の関係に応じて様々な絆を育んできた。
生を終えて生まれ変わっても離れることはない。
あと何度か繰り返せばお主らは、互いに同化して神界へと至る。
だのに、ピチピチギャルじゃと!?」
目の前のサイラ=コロニアは拳を握りしめ、突如として声を荒らげた。
ピチピチギャル、そんなに許せないことなのか?
男だったら普通だと思うんだが……。
俺が呆気に取られて言葉を失っていると、
サイラ=コロニアは再び話し始めた。
「そんなことを認めれば、
お主らの縁は直ちに霧散し運命は二度と交わることはない。
全てが水泡と化すところじゃった。
そこを救ったのじゃ。
深く感謝するがよい」
ふーむ。
コイツの言う通りだとすると、
俺は一時の誘惑に負けてシェリーを失うところだったわけか。
そこを、コイツは止めた、と。
だがしかし……
「何の得があってそんなことを?」
そう問い返すと、サイラ=コロニアは目を伏せた。
神妙な面持ちだ。
見た目がシェリーだからか、
今から別れ話でもされるのではないかという錯覚を覚えてしまう。
まずい、ティシアの時の記憶が……。
俺が目を背けかけた時、再び俺の手が握られた。
……そうだな。
俺にはシェリーが付いてくれている。
何も不安に思うことなど、無い。
そう思い直して再び前を向くと、サイラ=コロニアと目が合った。
だがすぐにヤツは目線を外し、今度は辺りを見渡し始めた。
「見ての通り、神界は寂しいところじゃ。
神と呼ばれる物の数は限られておる。
お主らが神域に来れば、少しは賑やかになる」
「つまり、仲間が欲しかった。
そういうことなのか?」
「まあ、そうとも言うな」
何て言い草だ。
結局はコイツの為じゃないか。
むむむ。
だが、コイツの言うことが正しいとすると、あのまま行くと俺がシェリーと会う未来は無くて、その未来をこいつは阻止してくれたということか。
それならまあ……。
だが、なんか釈然としないものを感じる。
「さて、そろそろ仕上げと行こうかの」
突如、サイラ=コロニアの手元に槍が現れた。
なんかエライ立派な……って、あれは。
神槍グングニル。
エンシェルムの禁書庫に置いてあった図鑑で見たことがある。
実在したのか。
いや、それより。
何する気だ、コイツ?
「慈愛の少女、シェリサンドリカよ。
受け取るがよい。
これからお主らには我の試練を受けてもらう。
そのために必要な物じゃ」
そう言うと、サイラ=コロニアは槍を横に向けてシェリーに差し出した。
「しれ、ん……?」
「そうじゃ。
これからお主らは我と戦い、見事打ち破ってみせるのじゃ。
さすれば、お主らの望みも叶うであろう」
で、コイツの望みも叶う、と。
というか、八百長する気満々じゃないか、コイツ。
「分かったわ。
あなたを倒せばいいのね?」
シェリーは槍を受け取り、手首を回して振り回している。
準備運動なのか。
こっちはこっちでやる気満々だ!
なんで!?
「正直、モーゼスの姿のあなたに槍を向けるのは抵抗があるけど……。
でも、やるわ」
いや、ちょっと。
シェリーにはサイラ=コロニアが俺の姿に見えてるんだよな?
それなのにこんなにやる気出してるとか。
普通に怖いんですけど……。
あれか?
やっぱり朝帰りしたときのこと、根に持ってたのか?
……ごめんなさい。
もうしません。
だから……だからいつもの優しいシェリーに戻って!?
だが、俺の想いは通じない。
シェリーは中段に槍を構え、偽シェリーに穂先を向けている。
偽シェリーもまた不敵に笑い、両手を前に構えると、言った。
「準備は出来たようじゃな
さあ、来るがよい」




