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第82話 事の真相

少女(シェリー)(アレス)の長い抱擁の(あいだ)

(カモメ)は肩から飛び降り傍から二人を見上げていた。

抱擁の(のち)、俺もまたアレスと再会の喜びを交わし合った。

だが俺達は男同士。

拳と(クチバシ)を突き合わせるだけの、あっさりしたものだ。


続いてアレスに連れられ、小屋へと向かった。

待ち構えるは、丸太を並べた形の重厚な扉。

扉の奥には板張りの、外扉とは対照的なこざっぱりとした扉が待ち構える。

再び扉を開けると居間が現れ、そこには一人の女性が待ち構えていた。

シェリーの実母、エリュナだ。


栗色の髪に、青い瞳。

40半ばにしてなお愛嬌を滲ませる顔立ち。

満面の笑顔を浮かべた――

シェリーがまたしても飛びついた。


勢いに押され、エリュナが姿勢を崩すのが見える。

俺は咄嗟に風魔法でエリュナの背中を支えた。


「おかえりなさい、シェリー。

 そして、モーゼス」


かつては共に旅をした仲間。

だが、彼女は(カモメ)の心の傷を知っていて、『お母さんになってあげる』と押し付けてくる、情の深い女性。

彼女の情に(ほだ)されたか、俺もいつしか彼女を母のような存在として受け入れていた。


「ただいま……母さん」


カモメの視界は広い。

俺の斜め後ろに控える育ての母アストリッドも、俺が第二の母を得たことを()て、満足げな笑みを浮かべていた。


――――――


その晩は、お祝いだった。

俺もアレスも二人の母も、皆でワインを飲み合い、大いに(よろこ)びあった。

シェリーは唯一人、「まだ早い」と飲酒を禁じられ、すねた様子を見せてくれた。

でも、すねたと言っても表情だけ。

その心の弾みは言葉の端々から伝わってきて、等身大の少女の姿に改めて惚れ直してしまったのは内緒の話だ。


宴もたけなわの頃、アレスの煙草に付き合い俺達野郎(ヤロウ)二人は小屋の外へと連れ立った。

アレスの口から白煙が吐き出される中、俺は聞いてみた。


「前から気になってたんだが、

 会うなりいきなり、

 エリュナはかなり強引に俺とシェリーをくっつけようとしてきたよな。

 あれは何だったんだ?」


俺の問いに、アレスは視線を虚空に移した。

そして再び白煙を吹いた(のち)、静かに語り始めた。


「エリュナにはな、ときどき未来が見えるらしいんだ。

 あれは、モーゼスが来る何日か前のことだ。

 『ルカとシェリーが寄り添い、幸せそうにしてる姿を見た』そうだ。

 『何かと思ったけど、カモメ姿で現れたルカを見て、直ぐにピンときた』

 『呪いのこともあるし、ルカが呪いを解きに来てくれたのだろう』と。

 その瞬間、『ルカならシェリーを任せられる』、そう思ったんだとさ」


アレスは再び煙草を口に運び、一寸(ちょっと)の間を置き、続けた。


「俺も、最初は年の差がどうかと思ったけど、

 お前さんは常にシェリーに寄り添い、解呪へと導いてくれた。

 それに、若き日の姿を取り戻せそうだし、人となりもよく知ってる。

 何より、シェリーはお前さんのことを随分と気に入ったみたいだしな。

 そんな姿を見せられたら、

 親父としては愛娘の気持ちを尊重するしかないだろう?」


むむむ。

(もっと)もらしいことを言ってやがる。

だが……


「なんか美談に仕立てようとしてやがるな……。

 その割には呪いにかこつけて、

 (カモメ)に危ない罠を仕掛けてきやがったよな。

 俺は今でも覚えてるぞ。

 『痣を見せてくれ』と伝えた瞬間(とき)の、シェリーの(さげす)みの眼差しを。

 誤解を解くのは大変だったんだぞ?」


そう言った途端にアレスは破顔し豪快に笑うと、得意げな顔をして再び語り始めた。


「それこそが、俺の仕掛けた踏み絵だったわけだ。

 そこで少女に欲情するような奴なら即座に真っ二つにしてやったさ。

 でも、お前さんはそうじゃなかったろう?」


「そりゃあ……。

 俺は、紳士だからな」


今度は途端に目端を尖らせると、一段低い声でアレスは言葉を繋いできた。


「だからさ。

 かつて背中を守り合ったお前だからこそ。

 娘に対して一線を引ける理性の持ち主だからこそ、

 俺もお前をシェリーの番と認めたのさ」


む。

意外と真面目だな。

これがアレスの心の内だったか。


「そうか……。

 なるほど、 納得したよ。

 だが、一つ伝えておかないといけない。

 実は、俺はそんなに長生きできないかもしれない。

 少なくとも人の姿の見た目ほどには、な」


そこから俺は、これまでの経緯を説明した。

母の寿命と転生失敗のこと。

とはいえ母の魔力量と見た目の関係から、好材料が無いとも言えないこと。

つまり、俺も常人よりは魔力が多い方だから、

その分長生きできるかもしれないことだな。

そして、それらをシェリーには全て伝えてること。


俺の話を一通り聞き終えたアレスは、僅かに破顔しこう語りかけてきた。


「シェリーが良いって言ってるなら、

 まあそれで良いんじゃないか。

 いずれにしたって、何十年か先の話だろう」


……そうだな。

この先何十年か、その時をシェリーと過ごせるなら本望だろう。

何十年しか、ではない。

何十年も、だ。

もはや叡者の高みへと昇った俺に新たな気付きを与えるとは、

アレスもまた父だったということなのだろう。


ひとしきりの話を終えた俺達は、

二人揃って小屋の中へ戻ったのだった。

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