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第69話 魔法都市、再び

(カモメ)達三人を乗せた馬車が街道を進む。

街道の両側は青々とした草原。

さながら海を割って進むかのような錯覚を覚える街道だ。

俺はシェリーのお膝の上。

母アストリッドは向かいの席で頬杖をつき、眠っている。


陽の光が最高潮を超えた頃、草原の彼方に見覚えのある街並みが姿を現わした。

魔法都市アステロン。

盟友アマルティシアの住む街だ。


特徴的な球根屋根は、遠くからでもよく見える。

ふと、シェリーが呟いた。


「なんだか懐かしいわね。

 お家に帰ってきたような気分になるわ」


「そう言えば、前にティシアと別れたのもこれくらいの時期だったか」


俺の返しにシェリーが頷き、しみじみとした様子で言葉を繋げる。


「あれからもう一年も経つのね。

 思えば長いこと旅をしてきたものだわ」


そう言い終わると、シェリーの目線が虚空へと向かった。

これまでの旅を思い返してるのだろう。

思えば色々な事があった。


マリアの元での修行。

叡者の庵では魔力消失。

ソフィアの死に、断髪。

そして、初めての口づけ。

レフカンの件は、まあ良いだろう。


そして今、ティシアの元に帰って来た。

カモメ姿のままで。

俺はこの一年、何をやっていたのだろう。


幾許(いくばく)かの虚しさを覚えていると、シェリーの声が聞こえた。


「ねぇ、モーゼス。

 私ちょっとは大人になったと思う?」


俺は、小首を回してシェリーの顔を見上げた。


肩まで真直ぐに下ろした黒髪。

濃密な一年を経て深みを増した目つき。

そして表情。

背筋を伸ばして胸を張り、小首を傾げる姿が愛おしく、美しい。

以前よりも随分と大人びて見えるシェリーの姿に魅せられて、

気付けば俺の口は勝手に動いていた。


「ん? そうだな。

 今なら魔法大学でも勝負になるんじゃないか?」


女性の胸には魔力が宿る。

そして、大きさと魔力は大体比例する。

それゆえ魔法大学の女学生にはある種の偏りが見られるのだが……。

今のシェリーなら、見劣りすることもないだろう。


「ちょっと、何の話をしてるのよ」


痛てて。

羽根引っ張られた。

一瞬ジト目を向けてきたシェリーだが、すぐに目線が胸元に向かう。


「でも、そうねぇ。

 結構大きくなってきたかもしれないわね。

 ちょっと重みを感じるのよ――

 って、そういう話じゃなくて」


「ああ、スマン。

 ただの冗談だ。

 それは抜きにしても、すっかり大人びてきたと思うぜ。

 ティシアが見たら、見違えるんじゃないか?」


俺の言葉にシェリーは目を見開き、

直後に笑顔へと変わる。


「ホント?

 ティシアさん、もうすぐだものね。

 楽しみだわ」


大人びてきても、シェリーの笑顔は変わらない。

相変わらず後光が指して見える。

この光が俺達を祝福してくれると良いのだが。

……そこは、俺次第だな。



馬車が街門をくぐり抜けると地面が石畳に変わった。

その衝撃で、母は目を覚ましたか。

ピクリと跳ねて背筋を伸ばすと、首を回して周囲を見渡し始めた。


「ふーん。

 随分変わって見えるけど、

 立派な球根屋根は相変わらずだね」


「あれ? お母さん。

 ここに来たことがあるんですか?」


シェリーの問いに、母は静かに頷いた。

そして目線は外に向けたまま、答えた。


「まあ、長生きしてるからね。

 そういうこともあるさ」



――――――



馬車を下りた俺達は、まずは魔法大学へと向かった。

俺は勿論いつもの定位置(シェリーの左肩)だ。

15分ほど歩くと正門が見えてきた。


ん? あれは……。

アイツだ。


正門前に辿り着くと、

クズの門番が俺達に気付いて話しかけてきた。


「アマルティシア教授のご客人、モーゼス様ですね」


慇懃(いんぎん)な物言いだ。

ティシアの家に居候してた時はこんな奴じゃなかったはずだが。

気持ち悪いな。

とはいえ、俺はコイツの本性を知っている。

正直、まともに相手をする気にはなれない。

だから、俺はあえてぶっきらぼうに言い放った。


「よく覚えてるな」


片や門番は苦笑いを見せ、肩を丸めて縮こまる。


「それはもう。

 昨年は随分と勉強させていただきましたので……」


土槍(アースランス)のことか。

いや、去年のこいつはむしろ逆恨みしてたはずだ。

何があった?


……。


いや。

コイツのことは、もう良いだろう。

色々と、無駄だ。

俺は俺で、粛々と話を進めれば良い。


「こちらはノエリアの叡者、

 アストリッド・トレイン様だ。

 通って良いな?」


俺がそう言うと、母は続いてネックレスの下端、

すなわち叡者の証を掲げてみせた。

門番は、ろくに見もせず腰を引き、言った。


「ええ。もちろんでございます。どうぞお通りを」



こうして俺達は難なく魔法大学へと入構したわけだが――


「なんだ、あの掌返しは?

 流石に気持ち悪いな。

 前は、ティシアと一緒に通り過ぎるたびに睨みつけてきてたのに」


俺の呟きに、シェリーが悪戯(いたずら)っぽい声で応えてきた。


「そうね。

 何か、素適な『教育』でも受けたんじゃないかしら?」


……。

シェリーが変な知恵をつけてる。

これは、喜んでいいものか?



正門から母屋へと続く並木道。

その中ほどで、俺はふたたび呟いた。


「さて、前回は猛スピードで突っ込んできたわけだが、静かだな」


「手紙も出しておいたし、

 きっと今頃研究室で準備してくれてるんじゃないかしら」


「そうだといいんだが……」


こうして俺達は母屋に入り、ティシアの研究室の、その扉と対峙した。



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