第67話 男達の楽園?
肩にカモメを乗せた、銀髪の大男。
エンシェルムの夜の街で、男は仁王立ちしていた。
髭面の男、そしてカモメはどちらも心なしか精悍な顔つきに見える。
男の目前には建物の幅ほどもある看板を掲げた酒場がある。
看板には、若い娘たちが赤いランタンを持ち、踊る様子が描かれている。
「行くか」
「ああ」
男が促すと、カモメが同意した。
そして、男は大股で歩き始めた。
背筋は伸び、その姿は堂々たるものだ。
男は酒場の扉を開け、中へと入っていった。
――――――
赤い照明が鈍く光る、薄明るい酒場。
男とカモメはテーブルを挟み、互いに椅子に腰かけていた。
カモメは大型のクッションの上に座っている。
そこに、薄手の肌着のような服を着た女性が現れた。
年の頃は二十代半ば。
手には樫の木のジョッキが二つ。
「あら、可愛らしいカモメさんね」
女性はジョッキをテーブルに置くと、
艶めかしい動きで腰を滑らせカモメの隣に腰かけた。
「私もご一緒していいかしら?」
女性は口角を上げ、小首を傾げてみせる。
片やカモメは目を動かし、瞬く間に上から下へと走査する。
そして、答えた。
「ああ、構わないぜ」
女性は両の掌をパンと叩き、両眼を見開いた。
そして、即座に腰を上げ、カモメに伝えた。
「ありがとう♡
じゃあ、私の分も取ってくるからちょっと待っててね♡」
女性は片手で接吻を飛ばすと、
腰をやや大げさに振りながらカウンターへと向かった。
――――――
酒場の一角に、一際賑やかなテーブルがあった。
そこでは、カモメが魔法を駆使して光や音を出し、周囲の男女が囃し立てていた。
「ねぇねぇ、モーちゃん。
またあれやって?」
「え~、またかよ。
飽きないよな、キャサリンも」
カモメはそう言うと、椅子に置かれたクッションの上で仁王立ちした。
突如、カモメの背中がピカピカと光り、様々な色を発し始める。
そして、
「でーでーでーでっででーでっででー」
これまた魔法で重厚な音楽を奏でてみせた。
傍らの女性、そして向かいの大男は手を叩いて笑っている。
ひとしきり笑うと、女性がカモメに両手を差し出した。
「モーちゃん、おいで」
女性が一階高い甘声で誘うと、カモメはひょいと両手に飛び移った。
女性の両手はカモメを胸元へと運ぶ。
そして、胸の谷間にカモメの頭を挟みこむ。
カモメは目を丸くし、彫刻の様に固まった。
「あ~、照れてるー。可愛いの♡」
女性はさらに、両側から柔らかいものを交互に押し付けた。
テーブル向かいの大男は、その様子に指を指して大笑いしている。
そして、女性が再び甘声でカモメに囁きかけた。
「ねえ、そろそろあっちでイイことしない?」
「……」
カモメの返事はない。
だが、首を二、三度縦に振り、同意を示した。
女性は満足そうな笑みを浮かべ、静かに腰を上げた。
カモメは抱えたままだ。
そして、ゆっくりとした足取りで、酒場奥の廊下へと歩き始めた。
■■■■■■
「何やってんのよ!」
!!!
突如、激しく壁を打つ音がした。
「うおぉ!びっくりした!」
「痛ったぁ~。
……あれは、夢? 」
ここは大型貨物船の一角にある客間だ。
船窓からは、夜明け前の薄明かりが差し込んでいる。
壁沿いに置かれたベッドの上で、少女が拳を押さえて蹲っていた。
少女の枕元にはカモメが座る。
カモメは首を伸ばし、小声で話し掛けた。
「どうしたんだ?
夢で魔物にでも襲われたか?」
「そう、ね。
あれは、たしかに、魔物だった、わ」
少女は顔を歪め、絞り出すように言葉を吐き出した。
「痛そうだな。
ちょっと待ってな」
そう言うとカモメは立ち上がり、尾を振りながら少女の拳へと向かった。
そして、カモメは拳に胸を当て、囁いた。
「鴎の癒し」
カモメの体が薄く光り、少女の拳に癒しを与える。
途端に少女の顔から苦痛の色が消え、大きく息を吐く。
少しの間を置き、少女は上体を起こした。
ベッドの上で座り直し、同じく座ったカモメと向かい合う。
そして、囁くような声で少女はカモメに話しかけた。
「ありがとう、モーちゃん。
ところで、ふと気になったんだけど……」
「ん?どうした?」
「前に朝帰りした日って、どんなお店に行ってたの?」
「え? それは……」
少女の問いに言葉を詰まらせるカモメ。
そんなカモメの様子に、優しげだった少女の顔が徐々に険を帯びてゆく。
いつの間にか、少女はカモメの体を両手で掴んでいた。
「内緒☆」
バチンとウインクして、愛嬌を見せるカモメ。
対照的に、津波が引くかのようにゆっくりと、だが全くの表情を失う少女。
時が、止まった。
「ふーん」
再び時を動かしたのは、少女の声だった。
その声色は、少女の呆れを隠せない。
同時に少女の両手が首へと向かう。
「あ、ちょっと待って。
ごめん。
ゆるして?」
慌てるカモメを前に、少女の両手がピタリと動きを止めた。
そして今度はゆっくりと、首筋から背中へと向かって撫で始めた。
毛並みに沿った優しい手つきだ。
少女の顔には柔和な笑みが浮かんでいる。
「ふふっ。今のは冗談。
でも、あんまり変なお店に行ったらダメよ?」
「ハイ……」
カモメは頭をもたげている。
その返事も力無く、か細いものだった。
その時、少女の掌がカモメの頭をそっと包み込む。
「変な時間に起こしてごめんね。
もう少し寝ましょう?」
そう言うと少女は手を離し、体をベッドに横たえた。
そして、左脇を開き、右手でぽんぽんと叩いてみせる。
「おいで、モーちゃん」
その言葉にカモメは立ち上がり、ベッドの上をモソモソと歩き始めた。
少女の脇に辿り着くと、体を横たえ首を伸ばし、少女の胸元に預けた。
「あっ。もう……仕方ないわね」
言葉とは裏腹に、少女の顔には満足げな笑みが浮かんでいる。
「じゃあ、おやすみ」
その合図でカモメと少女、二人は目を閉じた。
すっかり忘れていましたが、前話で第六章完結です。
第七章は、5/1に投稿再開を予定しています。
無理そうなら、その時は活動報告でお知らせします。
もう一話くらい閑話を挟むかどうか、まだ決めかねています。
挟むなら、来週末になると思います。
完結まで、残すところあと二章。
もう一息です。
引き続き、カモメ賢者と黒髪の少女を宜しくお願いします。




