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第65話 神界の声

翌日。

(カモメ)たち四人は朝からレフカンの実験室にやってきた。

手持ちの魔力材の残りは四本。

人間化に一本使うとして、残りは三本。

これだけあれば、流石に足りるだろう。


まずは準備からだ。

人間化した後にもう一度転生術を行使するからな。

時間は三十分程度しかない。

二度目の転生用の魔法陣は、あらかじめ紙に書いておく。


部屋の中央に、レフカンが大きめの紙を敷いてくれた。

シェリーと母アストリッドは少し離れて見守っている。

俺は、早速クチバシにインクを取った。

そしてスラスラと魔法陣を描いてゆく。

いつぞやの様に、上体を動かさないカモメ式歩法の出番だ。


転生先は、もちろん人間だ。

年齢は二十歳くらい。

ついでに、ミルコロンのことも書いておくか。

”ミルコロン・カモメ・された”

っとな。


……ふむ。

思ったより、長くなったな。

ただでさえ転生神へのメッセージは魔力を食うのに、この追加部分。

これだと通常の転生術の五割増しくらいか。

さすがにちょっと厳しいか。

悩んでいると、後ろから声がした。


「モーゼス」


母だ。


「心配すんじゃない。

 足りない分は、私が分けてやる。

 その感じなら、普通の魔力譲渡でも何とかなるだろ」


普通の魔力譲渡か。

それなら良いだろう。

それにしても、魔法陣を見ただけで魔力消費の検討もつくのか。

――まあ、出来るか。

俺の師匠だもんな。


「うん、分かった。

 それなら頼むよ、母さん。

 それじゃあ、シェリー?」


首を回して見上げると、シェリーが背嚢をまさぐるのが見える。

そして、魔力薬(ポーション)と小型魔法陣のスタンプを取り出した。


「はい。これね」


ん? 何か布を持ってるな。


「ほら、インク付きっぱなしよ」


シェリーが近寄り、クチバシを拭いてくれた。

甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

愛情を感じる瞬間だ。

俺は、シェリーの向ける愛情に何かを返せているのだろうか。


などと考えていると、ふいに身体を持ち上げられた。

シェリーはそのまま俺を抱きしめてくる。

良い匂いだ。

それに、また一層成長したか。


「必ず、帰ってきてね」


頭上から声が聞こえる。

この声を聞くためなら、俺は何としてでも帰ってくる。


「ああ、任せてくれ」


「約束よ」


そう言うと、シェリーはしゃがみこみ、俺を地面に降ろしてくれた。

優しい手つきだ。

そして、魔力薬(ポーション)を差し出してくる。

蓋は空いている。

至れり尽くせりだな。

口を開いて上を向くと、シェリーがそっと流し込んでくれた。


むむむ。

みなぎってきた。


「はい、モーちゃん」


シェリーが差し出したのは、小型の魔法陣がスタンプされた紙だ。

床に置かれた紙に乗り、集中する。

まずは最初の人間化だ。

光に包まれ、浮遊感が俺を襲う。

そして……


俺は仮初(かりそめ)の姿を取り戻した。

その時、背後から声が聞こえた。


「ルカ……」


その言葉とともに、母が近寄り俺を抱きしめてきた。

俺も思わず抱き返し、応えた。


「ただいま、母さん」


母が頭を撫でてくる。

俺のよく知る、母の手だ。


「やっぱり、人間の姿だと、実感が違うね」


その声は、涙ぐんで聞こえる。

血の繋がりは無くとも、俺達は親子だったのだ。


「母さん……ごめんよ」


「いいんだよ、ルカ

 アンタはこうして帰ってきて、再び姿を見せてくれた。

 それだけで十分さ」


気が付けば、俺の()(がしら)は熱を帯びていた。

カモメの姿では叶わなかったが、俺も再会の涙を流せたようだ。

涙の余韻に浸っていると、母の声が聞こえた。


「さあ、時間も無い。

 早速始めるか」


力強い、師匠の声だ。

相変わらず、切り替えが早い。

む! 急に魔力が身体に沸いてきた。

魔力譲渡を始めたか。

これが師の、そして母の魔力か。

暖かい。

俺は、魔力譲渡の心地良さに身を任せていた。


「もう十分だ」


その声とともに、魔力譲渡が終わった。

母の腕から解放されると、今度はシェリーが小瓶を三つ差し出してきた。

何というか精力剤だよな、これは。

今から三本も飲み干すのは正直きついが、ここが正念場だ。

意を決して小瓶を受け取り、一気に煽る。


喉が熱い。

うおぉぉぉぉ。

さらにみなぎってきた。

これなら。


魔法陣の中央に陣取り、再び集中に入る。

完成形の転生術だ。

全身が光を帯びて、浮遊感が俺を襲う。

意識が薄れゆくのを感じる。

これは――


気付けば、俺の体は光に包まれていた。

目の前にはシェリーが――

っと。

シェリーが飛び込んできた。


「モーゼス! よかった、無事で」


俺に抱きつき、シェリーがそう叫ぶ。

無事帰ってこれたのは良かったが、しかし……


「ああ、シェリー。

 だがこれは、失敗だ」


シェリーが腕に力を込めてきた。

ちょっと……苦しいんですけど。


「いいの。あなたが無事だったから」


その声色は、いつもの透明感は無く、いささかくぐもって聞こえた。

泣いて、いるのか。


「シェリー……」


気丈に振舞っていたが、内心は不安に押し潰されそうだったのだろう。

妻の不安を取り除くのは、夫の役目だ。


シェリーの肩に両手を添えると、

彼女もまた察したのか、腕を離して顔を向けてきた。

涙に濡れるその顔は、神々しさすら感じさせる。

シェリーが目を閉じた。

俺も目を閉じ、顔を近づける。


――その時、再び浮遊感に襲われる。

またこれか。

いい加減にしろよ、転生神の野郎!



「モケー」


俺の姿はカモメに戻り、シェリーの足元に佇んでいた。

あまりに無常な寸止めに黄昏(たそがれ)ていると、母の声が聞こえた。


「やれやれ。

 振り出しに戻っちまったかね」


そうだな、ここには母と、レフカンもいた。

二人の前でキスしようとしてたのか、俺は。

そう思えば、寸前で止まって良かったのかもしれない。

それより、収穫もあった。

まずはそれを伝えないと。


「いや、実は俺にも、神界からの声が聞こえたんだ。

 『道は扉の先に』って、な」


「なんだそりゃあ?」


ここに来て、レフカンが口を開いた。

ここまで空気だったからな。

俺の周りの男は空気と化す。

カモメ化だけでなく、そんな呪いにもかかったのかもしれない。

呪いに打ち勝ち声を上げてくれた、レフカンの友情に応えるべきだろう。


「心当たりは、ある。

 やはり、シェリーの黒髪だろう」


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