第58話 愛のかたち
レフカンを先頭に、エンシェルムの街を行く。
この道を、かつて何度レフカンと歩いたことか。
今の俺はいつもの定位置に座り、左手にはレフカンを携えている。
傍から見れば、シェリーとレフカンが並んで見える。
この二人の年齢差を考えれば親子――いや顔が似てもつかないか。
少女と保護者、そう見えてるに違いない。
おもむろに、レフカンの声が通りに響き渡る。
「まずは、そこのお嬢ちゃんを紹介してくれねえか」
相変わらず、声のデカい奴だ。
シェリーもびっくりしたのか、肩が一瞬跳ね上がったぞ。
無神経な奴め。
だが、それでこそレフカンだ。
俺は、どこか懐かしさを覚えながら、彼の問いへと答えた。
「そうだな。この子はシェリー。俺の、婚約者だ」
すると、またもやレフカンは耳をつんざくような大声で俺の言葉に異を唱えてくる。
「はああ? 何言ってんだ、お前」
懐かしいな、このやり取り。
何度繰り返したことか。
鬱陶しいはずのこの男の台詞、そして声量が俺の心に安らぎをもたらす。
おれはやはり、レフカンと過ごす時間が好きだったのだろう。
若干の心の高揚を覚えながら、俺は諭すようにレフカンへと伝えた。
「それがホントのことなんだ。まあ聞け。
そもそも何で俺がカモメの姿をしているか、からだな」
「おう」
――――――
あれから俺たちは、エンシェルムの通りを並んで歩きながら話を続けた。
転生失敗してカモメになった話。
シェリーとの馴れ初め。
下品な呪いを解いた話。
将来を誓い合った話。
逆転生術を成立させるため、旅をしてきた話。
ティシアの話は黙っておいた。
シェリーの前でする話じゃないだろう。
シェリーは時に頷き、時に相槌を入れながら野郎共の話に付き合ってくれた。
話をしながら10分ほどは歩いただろうか。
俺達は、屋外にイスとテーブルが立ち並ぶ酒場にやって来た。
「さて。ここならカモメが居ても、大丈夫だろ」
レフカンは俺達に着席を促し、屋内へと姿を消した。
シェリーは席に腰かけ、俺は膝上へと飛び降りた。
「レフカンさんって、なんだかすごい圧のある人なのね。
でも、優しそう」
「ああ、そうだな。
俺も、一度シェリーを紹介しておきたかったんだ。
でも、退屈してないか?」
「ううん。
それより、モーゼスが楽しそうだから、
私も見てて楽しいの」
シェリー、モーゼスの背中を擦る。
その様を見て、周囲の客が微笑んでいる。
心地良さに身を任せていると、レフカンが帰ってきた。
その手には、木のコップが三つ握られている。
「またせたな。
シェリーちゃんにはコイツだ。
それと、ルカも」
俺達の目前にコップが二つ差し出された。
一つは牛乳で、もう一つは麦酒だ。
麦酒は俺のだな。
「すまない、レフカン」
「良いってことよ。
それより、俺達の再会とシェリーちゃんに乾杯だ」
そう言ってレフカンはコップを持ち上げた。
シェリーも続く。
俺は、仕方ないので嘴を天に向ける。
そして二人はコップに口を付けた。
「美味しい……」
シェリーが声を漏らすと、レフカンはニヤリと笑って言葉を重ねる。
「だろう? 蜂蜜が入ってんだ、それ」
俺は、二人を横目に麦酒を突いてみた。
なんか苦いな。
こんなに苦かったか?
かつて愛した麦酒の苦さに困惑していると、レフカンはまたしても笑い始める。
その勢いのまま、レフカンが話題を振って来た。
「それにしても、転生失敗でカモメか。
お前もまあ、災難続きだよな。
日頃の行いのせいじゃねえのか?」
「お前、俺みたいな紳士を捕まえてなんてことを」
「はっはっは。
まあ、確かにお前は真面目だったよな。
しかしまあ、シェリーちゃん。
アンタみたいな美少女が、よりによってカモメと婚約とか。
勿体ねえなぁ」
デカい声だ。
レフカンお前、ちょっとは自重しろよ。
向こうの客が振り向いたじゃねえか。
などと心の中で毒づいていると、柔らかな手が俺のカモ胸を包んできた。
この感触は、いつでも俺の心に安らぎを与えてくれる。
続いてシェリーは背筋を伸ばし、凛とした声で宣言した。
「いえ。私はモーゼスを愛してますので」
俺は、女神に愛されていた。
いや、もちろん知ってたが、こうやって堂々と口にされると照れくさいものだ。
レフカンはというと、目を見開いて口笛を鳴らし、
シェリーを見たのち俺へと視線を固定する。
そして、歓喜の声を上げた。
「お前、やったな。
こんないい子を捕まえるとか。
よし、今日はお祝いだ!」
――――――
あの後シェリーを宿に送り返し、俺とレフカンは夜の街へと繰り出した。
レフカン行きつけの酒場で俺たちの会話は続く。
「それにしてもルカ、良かったな。
昔のお前は自暴自棄に見えたが、今は心底幸せそうに見える」
「そんなこと、カモメ姿の俺を見ても分かるのか?」
「分かるさ。
結局お前は昔の女とは縁が無かったみたいだが、良いじゃねえか。
そのおかげであの子と出会えたと思えば。
今なら過去の全てを許せるんじゃねえか?」
「そうだな。
確かに俺はシェリーに救われた。
過去の苦悩もこのためにあったんじゃないかとすら思えてくるな。
これが、運命というものか……」




