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第57話 旧友との再会

転生法の聖地エンシェルム。

とは言え、あくまで転生法を学ぶ者たちが勝手に聖地と呼んでいるだけのこと。

表向きは、ただの学術都市の様なもの。

無数に立ち並ぶ建物には精緻な装飾や化粧が施され、

都市全体がひときわ(一際)華やいで見える。

格調と美意識、いずれの高さも兼ね備えた唯一無二の都市だ。


エンシェルムの街を貫く一本の河。

河上の、街の入り口には関所がある。

(カモメ)達は、やや大ぶりの舟に乗り、まずは関所で手続きをする。

入港が認められ、舟は街の中ほどへ進んだ。

河の両岸からはいくつもの桟橋が突き出している。

その一つに舟を繋ぎ、俺たちは桟橋へと降り立った。


シェリーが大きく伸びをする。

俺は、シェリーと母アストリッドの間でカモメ立ち。

母は穏やかな笑みを浮かべ、シェリーを眺めている。


「結局、ここまで二ヶ月足らずか。

 随分と速かったな」


「ふふっ。モーゼスのおかげよ。

 それに、お母さんも。

 ありがとうございます」


シェリーのその言葉に、母は照れくさそうに顔を伏せ、

手で払うような仕草を見せる。


「いいんだよ。娘の為だ」


(カモメ)達は、ノエリアからここエンシェルムまで、二ヶ月足らずの速さで到達した。

普通なら四カ月、急ぎでも三ヶ月の道程だ。

これも叡者たる母の尽力あっての物。

まあ、俺も今や叡者なのだが。


俺と母で交代しながら風を送り続け、常識を超える速度で舟を走らせてきた。

こんなに魔法を使い続けたのは久しぶりだ。

舟上では魔力制御の鍛錬も続けた。

そのおかげか、俺の制御力は以前にも増して高まった。

ついには、叡者の証に光を灯すほどに。

俺はまた、一つ上の(カモメ)になったのだ。


精緻な制御は、効率を上げる。

つまり、今の俺は、魔法の出力が上がったようなものだ。

これなら、逆転生にも手が届くかもしれない。

そんな期待を胸に、俺たちはエンシェルムの街へと足を進めた。



――――――



まずは宿に向かった。

ここは転生前に長らく過ごした街だ。

勝手知ったる我が家の様なもの。

手ごろな値段の小綺麗な宿に部屋を取った。

女将との掛け合いはいつものこと。

最早、様式美と言っても過言ではないだろう。

俺たちは、二部屋に分かれて滞在することにした。

(カモメ)とシェリーで一部屋。

もう一部屋は、母の物だ。

その気遣いが、ありがたい。


「さて、と。この後はどうする?

 部屋に入って一休みするとして……。

 後で行きたいところがあるんだが。

 母さんはどうする?」


「そうさね。

 私は宿で休むことにするよ。

 二人で楽しんできな」


「そうだな。シェリーもそれで良いか?」


「ええ、もちろんよ。

 そもそも、あなた一人だけでこんな大きな街、出歩いたらダメじゃない。

 野良カモメと間違えられるのがオチよ」


「なるほど。それもそうだな。

 懐かしすぎて、昔のつもりで考えてたな。

 じゃあ、それで行くか」




あの後一休みして、俺とシェリーは二人で街へと繰り出した。

今の俺は、いつもの定位置(シェリーの左肩)に居る。

格調高い街並みに、カモメを携えた黒髪の美少女。

これは絵になるに違いない。

そんなことを考えていると、シェリーがおもむろに口を開いた。


「ねえ、モーゼスの行きたいとこって、どんなとこ?」


「いわゆる、ダチだな。

 俺が以前、この街に住んでた頃の、一番の友人だ」


「ああ、なるほど。

 モーゼスは、この街にずっと住んでたんだものね。

 どんな人かしら。

 会うのが楽しみね」


「俺も、シェリーをアイツに紹介するのが楽しみだ。

 レフカンって言うんだ。

 いい奴だよ」


それからしばらく街を練り歩き、ようやく辿り着いた。

かつての友の住処。

そこは、普通の集合住宅だった。

とは言え、この街の《《普通》》は普通じゃない。

この建物も、例によって美しい。


建物に入り、階段を上る。

そして俺たちは、ある部屋の前までやって来た。

俺は今も定位置(シェリーの左肩)に居る。


「ここだ。シェリー、スマンがノックしてくれ」


シェリーが、少し強めにノックすると、男の声が中から聞こえる。

一寸(ちょっと)してからドアが開き、男が出てきた。


「どちら様で……って、お嬢ちゃん、部屋間違えたんじゃねえか?」


懐かしいな。

灰色熊(グリズリー)を彷彿させる銀髪に髭面。

威圧感すら覚える大男。

友は、友のままだった。


気が付けば、俺の口から自然と声が零れていた。


「久しぶりだな、レフカン」


その瞬間、レフカンの目は俺に向き、瞳は大きく広がった。

そして叫んだ。


「カモメが喋った!」


もう何度目かの台詞に俺は内心苦笑し、友を宥めるべく語りかける。


「落ち着け、レフカン。俺だ。ルカーヴだよ」


俺の言葉にレフカンは怪訝そうな顔を見せ、疑問を口にする。


「……ルカだと? 俺の名も、知ってる?」


「ああ、そのルカだよ。こんな成りだがな」


そう言って羽を畳み直す仕草を見せる。

するとレフカンは先ほどに増して目を丸くし、満面の笑顔を見せた。

そして、


「マジか! なんでお前、そんな姿に?」


と言い放つ。

懐かしい笑顔だ。

もっとも、俺は野郎(おとこ)の笑顔に興味はないが。

シェリーだけで十分だ。


それでも、レフカンの物言いは昔と変わらない。

その懐かしさに心地良さを感じながら、俺もまた、昔の調子で返事した。


「まあ、そこは色々な。

 立ち話も何だし、どっか行こうぜ」


「ん? 俺の部屋でも……」


首を傾げてそう答えたレフカン。

だが、即座に目線は上を向き、遅れて何度か小さく頷いて見せる。


「良くないか。

 わかった。ちょっと待っててくれ。

 準備して来る」


そう言ってレフカンは部屋の奥へと消えていった。

そして、少し間を置き、レフカンが戻って来た。


「またせたな。さあ、行こうか」


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