11章-4(屋上の二人)
屋上に着いたときには 屋上には
学園祭の 見物の人たちが
十人近くいた。
だから 青山幸村と伊藤七の 二人は
生徒たちが ほとんどいない
屋上のすみっこまで とぼとぼと
歩いていった。
伊藤七は うつむきながら 顔を下に
向けて 歩いていた。
それは 伊藤七が 屋上に着く前に
大粒の涙を 流していて そして
屋上に来る間も 屋上に着いてからも
涙がこぼれるのを 必死で
こらえていたからであった。
屋上のすみっこまで 着いてから二人は
お互いに 向きあった。
そして青山幸村は 勇気を出して
こう切り出した。
「伊藤さん。 伊藤さんは とても
素晴らしい人です。
どれほど 今まで努力してきたかは
自分にはわかりません。
でも この自分にも 伊藤さんの
苦しさと痛みと 絶望はわかる気がします。
だから 涙を流さないでと言っても
気休めにもならないことは よく
わかります。
だけど 泣かないでください。
お願いします」
と 青山幸村が言ったところで 伊藤七がやっと
その重たい口を 開いた。
「わたしは もうダメよ。
もう二度と 歌をうたうことは
出来ないんだわ。
一生 このかすれた 変な声のままで
生きてゆくんだわ。
わたしは もうおしまいよ」
と 言ったあとに とうとう大粒の涙を
流して かすれた声で 手で顔を
おおいながら 泣き声あげて
泣き出した。
今まで 我慢してきた分だけの涙の量だった。
青山幸村は 伊藤七が 少し落ちついて
ちょっと泣きやむまで 待った方が
いいのかなと思って 泣きやむまで
待つことにした。
でも 数分しても 泣きやむ気配すら
なかったので 青山幸村は とうとう
ほおっておくことが 出来なくなった。
そして 伊藤七に 泣きやんでもらうには
自分の今までのことを 話そう
そうして最後の方で 好きって
勇気を出して 言おうと思ったのだった。




