町の人気者
……一行が次に向かったのは、割と人の多い通り。そこに入った途端、道を行く人々が、闇代に声を掛けてきた。
「あら、闇代ちゃんじゃない。戻ってきたの?」
「うん」
「おや、闇代ちゃんか。久方ぶりじゃの」
「お爺ちゃんも久しぶり」
「あーっ! 闇代ちゃんだー!」
〈おい、闇代じゃねえか〉
〈戻ってたんか〉
「そうだよー」
老若男女(ついでに生死も)問わず、彼女に声を掛けていく。そんな様子を見て、狼は驚いていた。
「お前、地元のアイドルかよ……?」
「まあ、除霊師だからね」
「除霊師って、みんな知ってるのかよ?」
「うん」
この町の住人は、無論霊感を持たない者が殆どだが、そのほぼ全員が霊の存在を知っている。それ故、町にいる除霊師のことも、町長より知られているくらいだ。そうでなくとも、こんな小さい町に金髪の幼女がいれば、否応なく有名になってしまうだろう。
「この町だと、霊も人も、みんな顔見知りだよ」
やがて周囲に人だかりが出来、闇代だけでなく、傍にいる狼たちも注目の的になった。
「闇代ちゃん、その子は彼氏かい?」
「ううん、お婿さん」
「おいこら」
「ほーう、それなら子供が出来るのも時間の問題かね?」
「ちょっと気が早いよ~」
「早いも何も出来ねえから!」
狼に子孫を残す能力はない。闇代もそれを了解しているはずなのだが……まあ、いいか。
「そっちの麗人は?」
「この子たちの保護者です、一応」
「なるほど。子供たちだけだと不安ですからね~」
「はい」
優もこの空気に馴染んだ様子。予想通りといえばそれまでだが。
〈おい、こいつ退魔師だぜ……〉
〈まじかよ? やっべー、逃げないと!〉
「……もう引退した。今はただの人ダ」
何か、一部から怖がられている一片。まあ、(自称元)退魔師では、仕方ないだろうが。
そんなこんなで、彼らが人混みから抜け出せたのは、一時間ほど後である。
◇
「ったく、えらい目にあったな」
一行は昼食を取るため、近くにあった蕎麦屋に来ていた。―――のだが。
「おい、見てみろよ。闇代がいるぜ」
「マジだ。いなくなったって聞いてたが……」
「こっちに戻ってきたらしいぞ。あ、そうだ、折角だから写真撮っとこう」
「……(怒)」
通路を挟んだ反対側の席にいた若者たちが闇代にカメラ(スマホに内蔵されてる奴)を向けた途端、傍にいた女性店員が額に青筋を浮かべる。そして、闇代を遮るように、若者たちの前に立ち塞がった。
「んだよ、邪魔すんなっての!」
「店内での撮影はご遠慮ください」
「はぁ? 何言って―――」
「店内での撮影はご遠慮ください」
「……はい」
その行動に文句を言おうとした若者たちも、店員に笑顔(with怒りマーク)で凄まれ、渋々引き下がった。
「……」
その様子を見ていた狼は、何とも言えない表情を闇代に向けた。
「ん? もしかして、お揚げが欲しいの?」
「いや、いらんが」
闇代は油揚げの入ったきつね蕎麦を食べるのに夢中で、今の光景をまったく見ていなかったようだ。
「ほら、あげるよ。あーんして」
「いらんっての」
闇代が箸で食べかけの揚げを持ってくるが、狼はそれを突っ撥ねる。
「……ん?」
ふと横を見れば、先程の女性店員がこちらをじっと眺めている。―――いいなぁ、私も欲しいなぁ。そんな声が、どこからともなく聞こえてきた気がした。
「……頼むから、ほんとに止めてくれ」
「そう?」
闇代は少し残念そうにしながら、揚げを自分の口に運んだ。狼も自分の蕎麦を平らげ、再び視線を横へ向けるが、そこにはもう女性店員の姿はなかった。
◇
……食後、またも人々に取り囲まれつつ、彼らはとある校舎の前までやって来た。
「ここは?」
「わたしが春まで通ってた学校だよ」
校門に取り付けられたプレートには『絆学園』とある。夏休みだが、部活に来る生徒のためなのか、門は開いている。
「ほら、行こ」
どうやら、ここが彼女の目的地らしい。今は完全に部外者であるはずなのに、何食わぬ顔で敷地内に入っていく。
「私と瞳君はここで待ってますから、狼は闇代ちゃんと一緒に行ってください」
優に言われ、狼は仕方なく闇代について行った。
「あ、闇代ちゃんだー」
誰かが声を上げ、それに呼応するように沢山の生徒(部活中なのか体操着姿)が集まってきた。
「ほんとだー」
「闇代ちゃん久しぶりー」
「戻ってたんだー」
そしてまた、人々に囲まれる。どこでも人気者だな、闇代は。
「後ろの人、もしかして彼氏?」
「うん」
「違う」
「へー、そうなんだ」
「違うっての」
最早お約束のやり取り。それが終わると、別の一人が思い出したかのように口を開く。
「そういえば、神ちゃんが会いたがってたよ」
「さっき会ってきた」
「そうだったんだ」
さっきの霊と知り合いらしい。この子も霊感持ちなのだろうか。
「お父さんには会ったの?」
「まだだよ」
「それなら早く帰ったほうがいいよ。闇代ちゃんがいなくなってから、すごく寂しそうだったから」
闇代の父親も有名人らしい。除霊師の知名度、恐るべし。
「それじゃあ、一回顔見せないと」
「そのために来たんじゃないのか?」
少なくとも、狼はそう聞いていた様子。ともあれ、彼女は次の目的地を実家に決めたようだ。
「じゃあ、もう行くね」
「えー? もう行っちゃうの?」
「暫くこっちにいるから、ね?」
名残惜しそうな生徒たちに別れを告げる闇代。そんなこんなで、彼らは『絆学園』を後にしたのだった。




