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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
85/132

まだまだ続きます


 ……更に時間は流れ、八月中旬。


「狼くーん、まだー?」

「ちょっと待て」

 狼は旅行鞄を背負うと、靴を履いて、玄関(虹化粧の裏口)から出る。

「はーやーくー!」

「戸締りするまで待て」

 戸に鍵を掛けると、闇代の元へと駆け出した。闇代は、そんな彼に微笑みかけると、ちょこんと首を傾げた。

「あれ、お優さんは?」

「正面から出るって」

 狼が答え、それから二人は、仲良く並んで歩き出す。そこで狼も、気になったことを聞いてみた。

「で、一片は?」

「え? ここだけど?」

 闇代が指差したのは、彼女が引いているトランク(特大)。

「……生きてるよな?」

「当然」

 既に物言わぬ骸となりて、解体されたかと思いました。

「何で、そんなとこに……?」

「だって、逃げるんだもん」

 この中には、手足を縛られ、猿轡さるぐつわをした一片が押し込められている。因みに、縛ったのは優だ。押し込めたのも。

「まあ、こいつは嫌がるだろうけど……駅に着いたら出してやれよ」

「はーい」

 その前に窒息してないといいが。狭い空間+密閉状態+猿轡なのだから、そうなる可能性は十分にある。

 話しているうちに、二人は『虹化粧』の正面入り口までやって来る。

「おーい、何やってんだよ?」

「張り紙です」

 見れば、優が店の戸に紙を貼り付けていた。

「それでは、行きましょうか」

「うん」

「ああ」

 三人(+一人)は、揃って駅へと向かう。……『虹化粧』の張り紙には、こう書かれていた。『誠に勝手ながら、お盆の間はお休みさせて頂きます。優』と。

 彼らが向かうのは、闇代の生まれ育った町、『虹ヶ丘町』だ。



  ◇


 ……電車に揺られること計一時間弱。彼らは、『虹ヶ丘駅』に辿り着いた。

「んっ……やっと着いた」

 伸びをする闇代。所要時間はほんの一時間足らずだが、やはり疲れるのだろう。

「……やっと自由ダ」

 一片も手足をストレッチしている。駅でトランクから出されたが、手足の拘束は外されなかった。結果、緊縛状態で電車を乗り継ぐ羽目に。

「ここが闇代の故郷か……」

 狼は辺りを見回していた。と言っても、あるのは民家と電柱くらいだが。それも、あまり密集していない。つまり、ぽつりぽつりと立っているのだ。

「何にもないな」

「まあ、田舎だからね」

 狼たちの辺りも田舎だが、ここほど閑散としていない。少なくとも、駅の周りはもう少し賑わっていた。しかしここは、特にこれといった施設もなく、何となく寂れているように思える。

「電車を使う人も少ないし、こうなるのも無理ないんだけどね」

「ふーん」

 頷きながら、狼は適当に辺りをぶらつき始めた。まあ、別に見るものもないが。

「どこか行きたい場所とかある?」

 闇代に訊かれるが、特に希望のない狼は首を横に振った。

「じゃあ、少し寄り道していい?」

「好きにしろよ」

 そう言われて、闇代は狼の手を掴んで、

「ほらほら、こっちだよ」

 彼を引っ張りながら、駆けていく。……右手は狼の手を、左手はトランクを担ぎながら。

「おい、あんまり引っ張るなよ」

 そうやって連れて行かれたのは、とある小さな神社。山の上にあって、全体的にボロボロで、神主もいないような、地元の人からも忘れられていそうな場所だ。

「あら、結構渋い場所ですね」

 優(しっかり追いついていました)は、ここを出来る限りいい言葉で表現した(恐らく本音だろうが)。

「なんたって、こんな場所に?」

 不思議がる狼を尻目に、闇代は本殿(近くにある見取り図では本殿と鳥居しかない模様)の前に来ると、勝手に社の扉を開けだした。

「おい、それはさすがに……」

 狼は止めようとするが、闇代は平気平気と言って、そのまま社に入っていく。

「神ちゃん、久しぶりー。元気してたー?」

 中に入ると、闇代が突然誰かと話し出した。

「うん。ちょっと訳があって、離れてたの。ほら、もうお盆でしょ? だから帰ってきたの」

 しかし、会話の相手の声は聞こえてこない。

「……あいつ、とうとう壊れたのか?」

「あれは霊と会話しているんダ」

 失礼な勘違いを始めた狼に、一片が説明する。霊感がある者なら聞こえるだろう。社の中に住み着く霊の声が。

〈そっかー。闇代も元気でやってるみたいだなー〉

 声の主は、妙齢の女性(の姿をした霊)。闇代の肩を叩きながら、笑顔で話している。

「お盆が終わったらまた向こうに戻るけど、それまでこっちにいるからね」

〈了解。そんならあたしも、たまには社から出てみるわ。折角の盆だしな〉

「それがいいよ。それじゃあ、またね」

〈ああ。さいならー〉

 互いに手を振り、闇代は社から出てきた。

「お待たせ」

「もういいのか?」

「うん」

 闇代は頷くと、置いておいたトランクを手にした。

「他にも会いたい人がいるから、そっちにも行きたいの」

「まだ行くんか……」

 さすがに、旅行鞄を持っての移動は辛いだろうに。

「それにね、狼君にも、わたしの故郷を見てもらいたいの」

 それでも、そういう思いはあるもので。

「……ったく、仕方ねえな」

 それが分かるからこそ、狼も溜息混じりに、そう答えるのだった。

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