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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
O―貪る。ナイツ
51/132

意外な展開って、逆転も早いのかな? 違う?


  ◆


 ……ほんの少し前。


「えっ……!」

 突然の強い光に、闇代は急停止して目を瞑る。

「わっ!」

「……!」

「きゃっ!」

 急に止まったせいで、後ろを走っていた狼と一片がぶつかってしまった。そしてそのまま、三人仲良く倒れこむ。

「俺としたことが……」

 一片はすぐに立ち上がった。……が。

「痛っ……」

 狼は額を押さえながら、倒れた半身を起こそうとする。

「狼君……」

 痛みを堪え、咄嗟に閉じていた目を開くと、眼前には闇代の顔があった。

「嬉しいけど、でも、こんな道端で……」

 頬を上気させ、瞳を潤ませている彼女を前に、狼の動きが一瞬止まった。

「だけど……いいよ、あたし」

 そして目を瞑る闇代。この状況で、狼のとった行動は―――

「んなアホなこと……やってる場合かぁぁぁーーー!」

「ひゃっ!」

 頬に拳骨を一発かまし、即座に飛び退いた。

「馬鹿やってないでとっとと行くぞ!」

 そのまま、闇代を置き去りにして一片と共に再び走り出す。

「うぅ~……押し倒したのはそっちなのにぃ~」

 一人残された闇代は、涙目になりながら彼らを追いかけるのだった。


  ◇


 ……そして優は。

「さてと、色々話してもらおうかな」

 笑顔で、倒れている二人を見下ろす優。刀を、彼らが握っている銃に突き刺して、抵抗手段を根こそぎ奪う。

「とりあえず、あなたたちの目的について、細かいこととか教えてもらうよ」

 剣先を器用に使って、男の顎を持ち上げる。しかし、男の顔には生気がなかった。

「ん?」

 それに不信感を抱いたのと、後頭部に強い衝撃を受けたのは、ほぼ同時だったという。



「優!」

 やや遅れて、狼達が到着した。だが―――

「なっ……!」

「そんな……!」

 彼らが目の当たりにしたのは、想像を絶する光景だった。全身を紅に染め、傍らに刀を放り出して倒れている優。その姿は最早、その判別すら難しくなっていた。そして、その頭を踏みつける銃を持った男。それを見て、おかしそうに笑っている女。三人に、特に狼にとっては、この状況を認識するのさえ躊躇われてしまう。

「ああ、君達は確か、この魔女んとこの子達だったね」

 男が振り返り、気持ちの悪い笑みをこちらに向けてきた。

「もしかして、加勢しに来たの? だったら残念、もう遅いよ」

 男は優の頭を蹴り、その顔を狼達のほうへ向けさせる。

「……っ!」

 白目を剥き、口から泡を吹き出している優の顔に、闇代は顔を手で覆い、狼は口を押さえて吐き気を堪えた。

「君達も、すぐにこうしてあげるから、大人しく屠られてよ」

 男は手にした銃を狼達に向け、まるで勝ち誇ったかのような台詞を吐く。

「とりあえず、これでも喰らいな」

 トリガーが引かれ、銃声が轟く。しかし―――

「……まさか」

 空となった鞘を片手に、一片が狼達を庇うように立ちはだかって、それを止めていた。

「退魔師でもないであろうお前達が、それを持っているとはな」

 そして彼も右手の銃を、男達に向ける。

「おや、確か君は、一片家の出来損ないだったかな?」

 一片は安っぽい挑発に乗ることもなく、別のことを口にする。

「そこの奴から話を聞いたとき、もしやとは思ったが……。本当にお前達だったとはな」

「……おい、一片」

 狼が突然、一片に掴みかかった。

「お前、こいつらが誰か知ってるのか?」

 顔を俯かせ表情が読み取れない狼の声は、無機物が発したと思えるように冷たい。しかし一片は臆することなく、静かに答えた。

「顔と名前、それから断片的な情報を知っている程度ダ。家の者達と何やら不穏なことを取り決めしていたようダガ、俺に詳しいことは知らされていない」

 彼は狼の手を振り解くと、再び男達を見据える。

「確か、郁葉と咲葉、と言ったな。その銃は恐らく霊銃であろう? 家の者から借り受けたのか?」

 一片の問いに、郁葉と呼ばれた男が答える。

「ああ。君の家の人達は、あっさりと貸してくれたよ。何でも、先祖の体の一部だったそうじゃないか。そんなものを簡単に人に貸すなんて、愚かにも程があるよね。尤も、」

 郁葉は視線を下に移し、嘲るような笑みを浮かべる。

霊銃こいつの能力にまんまと騙されて、速攻でくたばったこいつに比べれば、ましとも言えるけどね」

 けらけらと笑い声を上げる郁葉に対し、狼はふつふつと湧き上がる何かを感じていた。その正体がはっきりする頃には、郁葉の下品な笑い声も止んでいるのだった。

「君は確か、あの家では邪魔者扱いされてたんだよね。素質がないくせに、伝家の秘宝を使いこなして成金の如く強くなったもんだから、正しく目の上のたんこぶだって。それなら、君を殺しても文句は言われないはずだ。寧ろ感謝されるかな?」

 言うや否や、郁葉は一片目掛けて銃を乱射する。しかし、既に一片が展開した風の障壁により、その弾丸は一つたりとも彼らへと通らない。

「ああそうか。かの秘宝は風の刃を持って全ての攻撃を防ぐんだったね」

 これはしまったと言わんばかりに、顔を手で覆って大仰なポーズをとる郁葉。だが、そんな大きな隙を見ても、一片は一向に攻めようとしない。

「どうしたの? こんなに隙を晒してるのに、不意打ちもせず突っ立ってるの?」

 郁葉にも指摘されるが、一片は眉一つ動かさないでいる。

「もしかして、こいつの能力に気づいた?」

 一片には、郁葉が唇の端を吊り上げたかのように『見えた』。それを自覚しているため、彼は口を動かさずに、必死に状況を分析し、対策を考えているのだ。

「察しの通りだよ。こいつの能力は『幻覚』。当てなくても、撃つだけで周囲の人間を『幻覚』で惑わせる。まあ、体の構造が似てる異種族にも効果があるみたいだけどね。実際、この魔女もこいつに引っかかったんだから」

 自分の優位を確信したからか、郁葉が態々その力について語りだした。しかし、一片にはその程度のことくらい、既に気が付いている。

「さすがは退魔師の家系に生まれただけのことはあるよ。いや、もしかしたら知り合いの誰かが使ってたのかな? 退魔師の霊銃って、使用者の魂に関係なくその個体自体に能力が備わってるみたいだし。お陰で霊感のない僕らでさえこんなに簡単に扱えるんだから」

 べらべらと話している郁葉。しかし、その姿も『幻覚』なのかもしれない。そう思うと、一片は自らが展開した風の外には出られず、また無闇に攻撃することも出来ない。まるで、精神的に拘束されているかのようだ。

「というか、退魔師の連中もおめでたいよね。僕らの目的も知らないで、たった少し、はした金をちらつかせただけでこんな危ない武器を易々と貸しちゃうんだもん。彼らは自分が人の社会を陰で守っているって思ってるらしいけど、そんな奴らが実は人類滅亡に加担してるなんて、滑稽にも程があるよね」

「……さい」

「滑稽と言えば話は戻るけど、やっぱりこの魔女は馬鹿だよね。所詮は人とは相成れない種族なのに、それも分からず僕らに楯突いて、挙句無残にやられるなんて」

「……るさい」

「ていうか君達退魔師や除霊師も、言ってみれば異種族みたいなものだよね。どう? 今からでも僕らに協力しない? 下等な人間どもと群れてるより、そっちのほうが絶対いいよ」

「……うるさい」

「ま、仮に嫌だと言っても、その時は僕らにボコられて葬られるだけだけどね。ここに転がっている、無能な魔女さんと同じように」

「うるさいっ!」

 突然の怒号が、郁葉のマシンガントークを遮った。その発信源は、目を見開き、拳を握り、体中の血管がはちきれそうなくらいの表情で、これ以上ない怒りを露にした、狼であった。

「てめえに何が分かる!? 自分のせいで誰かが犠牲になったって自分を責めてた優は、母親の仇と自分の気持ちで板ばさみになってた闇代は、そんな闇代を目にして後悔に苦しめられた一片は、人間と一体どこが違うって言うんだ!? 悩んで苦しんで必死になって、精一杯生きてるこいつらは、てめえが嘲笑っていい奴じゃねえ! 愚かだ無能だ滑稽だと? ふざけんな! 人を見下しやがって、神様にでもなったつもりか!?」

 一歩、その足が前へ出る。

「おい、よせ……!」

 一片の制止も聞かず、また一歩、踏み出す狼。

「狼君、駄目!」

 闇代が引き留めようとするが、それさえ振り切って更に一歩。

「てめえらがそんなにふざけたこと抜かすなら、俺がぶっ飛ばしてやる!」

 そして、郁葉に向かって駆け出す。対して、郁葉は微動だにしない。

「馬鹿だね。今の話聞いてた? 僕らの姿は君には―――」

 郁葉の言葉が、止まる。狼が体の向きを変え、郁葉の遥か後方へ走り出したのだ。

「まさか、君―――」

 言いかけたところで、狼の腕から何かが飛び出し、彼の前方へ突き進んでいく。

「ぐはっ……!」

 郁葉が苦悶の表情を浮かべたかと思えば、その姿が霞のように掻き消えた。

「ど、どうなってるんだ……!?」

 代わりに、狼の目の前に郁葉が現れた。いや、恐らくこれは、彼の言っていた『幻覚』とやらが解けたのだろう。

「聞いてたさ。けどな」

 狼は既に立ち止まっており、右手に、小さい照る照る坊主のような形状をした物体を握り締めていた。

「『砕ける旋律』ブレイク。こいつで、てめえのそのふざけた頭をかち割りたいと思ったら、自然とてめえの『本当の姿』が見えたんだよ!」

 その手の武器を離して、取り付けてあるロープを利用してくるくる回す。遠心力を利用して、先端の球体部分による打撃の威力を高める気だろうか。

「そんじゃあ、とっととくたばりな!」

 狼は、高速回転させた武器を頭上へ持ってくる。高速回転しているそれは、振り下ろせばさぞかし強烈な破壊力を見せ付けてくれるだろう。

「くっ……!」

 郁葉は咄嗟に銃を向ける。が―――

「させん」

「がっ……!」

 横合いから一片に狙撃され、銃を手から離してしまう。

「咲葉……!」

 横に目をやり、傍らにいるであろう妹へ助けを求めるが、

「きゃっ!」

 その咲葉は、何故か独りでに宙を舞っていて、とても郁葉の援護など出来ない。

「はああっ!」

 凶器が振り下ろされる。郁葉は目を瞑り、腕で頭を庇って、来るであろう衝撃に備えた。

「……あれ?」

 しかし、それが彼に振り下ろされることはなく。

「まったく、それはさすがにやりすぎだよ」

 その凶器は、狼の背後に立った、優の手によって止められていたのだった。

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