バルデベバスの支配者たち
「……おいおい、どっちが大人なんだか分からねえな」
レアル・マドリードBの主戦場であるスペイン3部リーグ。
日曜日、本拠地バルデベバスのピッチに広がっていたのは、スタジアムを埋めたスカウトやサポーターたちが思わず苦笑するほどの、圧倒的なワンサイドゲームだった。
そう、「圧倒的なワンサイドゲーム」だった。
対戦相手は、激しい球際とフィジカルを武器にする3部のベテラン揃いの地方クラブ。しかし、16歳のダン、17歳のングゥワチュチュ、18歳のマリオの3人がピッチの中央軸に並んだカスティージャのフットボールは、そんな大人の泥臭さを文字通り嘲笑うかのように美しく、そして楽しげに躍動していた。
後半25分:完璧なる「楽勝」のオーケストラ
試合はすでに3-0。カスティージャの「楽しいサッカー」は、後半に入っても全く速度を落とさない。
「網を張って!1枚切るよ!」
最後方から、守護神ビジョの、極めて的確な指示が飛ぶ。
相手チームの捨て身のロングボールは、ビジョの陣形指示の前に、トラップすら許されない。
こぼれ球に真っ先に反応したのは、ボランチのングゥワチュチュだ。
しなやかな身体能力で、相手インサイドハーフのスライディングをヒラリとかわす。
一番相手の嫌がるバイタルエリアのスペースを見つけ、針の穴を通すような縦パスを巧に通した。
「ダン、行くよ!」
パスを受けたダンの足元に、すぐさま相手の屈強なセンターバックが2人がかりで激しいタックルを仕掛ける。
しかし、ダンには深川の「丸太乗り」で培われた天性の体幹がある。相手の肉体がぶつかった瞬間、足裏の吸い付くようなタッチで衝撃をいなし、上半身の軸をブレさせずに前を向いた。
「ヘイ、空を飛ぶぜアミーゴ!」
左サイドからマリオが、爆発的なスプリントで相手のディフェンスラインを強引に引き裂いていく。マリオのその規格外の突進力に相手ディフェンスの視線が完全に引っ張られた、その一瞬。
(――ここだ)
ダンは、ゴールほぼ正面、約22mの位置で、右足を鋭くコンパクトに振り抜いた。
ドゥオオシュッ!!
白く乾いたマドリードの空を切り裂く重低音。
放たれたボールは、バーから明らかに上へと外れるような高さへと跳ね上がる。
相手キーパーがホッと息を吐き出して天を見上げた、その時。
猛烈な縦回転を与えられたボールは、大気の壁に叩きつけられたかのように、ゴール直前でガクッと垂直に近い角度で急降下していく。
ドンッ!!
曾祖父・井助の遺産を応用開発した、ダンだけの「懸河のキック」。キーパーはなすすべも無かった。
「ゴ、ゴォオオオオール!!! またしても14番、ダン・ホルトーリ! マドリード、これで4点目!」
スタジアムが拍手と大歓声に包まれる中、マリオがダンの首に飛びつき、ングゥワチュチュが笑顔で駆け寄ってくる。
ベンチでは、同じポジションのライバルである同級生のチョビが、「ふ、ふん、今のパスワークは俺の予習通りの崩しだな……!」と、悔しそうなツンデレ顔を見せながらも、嬉しさを隠せずに小さくガッツポーズをしていた。
3部リーグのレベルは、今の彼らにとっては何の苦にもならない。
自分たちの才能を100%発揮し、仲間と通じ合い、ただひたすらに勝利を重ねる。16歳のダンにとって、このバルデベバスのピッチは、世界で一番自由で、世界で一番「楽しいフットボール」の聖地だった。
スペインは2部までが完全プロリーグで、3部はプロ混在です。
ラ・リーガ(1部)所属チームのBチーム(U-23)の多くは、3部に所属しています。
特にレアルマドリーのような強豪の場合、Bチーム(3部)では順調な成長、実績であっても、
トップチーム(1部)との隔たりが大きい為、昇格自体が困難で、昇格できた者も定着できないのが大多数の現状です。
定着できない(ましな方)選手は、5大リーグの下位または昇格を狙う2部強豪、あるいは5大リーグ以外の強豪にレンタル移籍が多いです。
ダンはトッププロスペクト(特段に有望の扱い)ですが、それでも今後どうなって行くのか…




