メルティング・ポット
スペインの太陽は、フィンランドのそれとは異なり、肌を刺すような暴力的な白さを持つ。
16歳になったばかりのダンは、マドリード郊外にあるレアル・マドリードの広大な練習施設「バルデベバス」の重い扉を叩いていた。
世界中から選び抜かれたバケモノ(天才)だけが集まる、通称カスティージャ(Bチーム)のロッカールーム。
フィンランドでの「最年少ゴール」という栄光を引っ提げてやってきたダンだったが、一歩足を踏み入れたその部屋は、言葉の通じない強烈な「個」の熱気とプライドで満ちていた。
「おいおい、噂の神童がお出ましだぞ」
最初に声をかけてきたのは、カスティージャの年長格であり、中性的な容姿をした小柄なゴールキーパー、21歳のビジョだった。
GKにしては細身だが、スカした態度とは裏腹に、その目は新入りであるダンの体幹(軸)の鋭さを一瞬で見抜いていた。
「私はビジョ。一応ここの守護神さ。まあ、メディアが騒ぐほど、お前の無回転、ドライブが通用するかどうかは……私のゴールで試させてもらうけどね」
ビジョがフッと不敵に笑うや否や、背後のロッカーから「どいてくれ、アミーゴ!」と、ガッシリした体躯の男が割り込んできた。
「ヘイ、俺はマリオ、左サイドバックやってる。お前のキックの噂は聞いてるぜ。俺のヘディングに合わせられるなら、アシスト王にしてやんよ!」
マリオは、すでに18歳とは思えぬ見事な口髭を蓄えており、私服のオーバーオールをハンガーにかけながら、豪快にダンの肩を叩いた。
その時、ロッカーの隅で、一人の少年がギリッと奥歯を噛み締めてダンを睨みつけていた。彼はチョビ。
マドリードのU-15チームでは「大将」として君臨し、将来のトップ下を嘱望され、飛び級昇格を果たした男だ。
「自称進学校」レベルの知性を持ち、ルックスも悪くない彼は、自分とポジション(シャドウ)が被るダンの存在が、面白く無かった。
「……ハーフの天才だか何だか知らないが、マドリードのトップ下は俺の場所だ。お前には1mmも譲る気はないからな」
チョビのわかりやすすぎるライバル宣言に、ダンが少し戸惑っていると、ダンの隣にスッと人影が並んだ。
「まあまあ、チョビ、そんなにピリピリしなさんな」
おっとりとした明るい声の主は、17歳のボランチ、ングゥワチュチュ。
アフリカ由来のしなやかな体の使い方と、類まれな戦術理解の高さを持つ彼は、どこか要領の良さを感じさせる笑顔で、ダンの背中をポンと叩いた。
「やぁダン、僕はングゥワチュチュ。これから同じ高校の1年先輩になる。チョビはああ見えて根は良い奴だから気にするな。スペイン語の授業でわからないことがあったら、僕が要領よく教えてあげるよ」
「……ありがとう、ングゥワチュチュ」
フィンランドの冷たい森から、いきなり世界最高峰の虎の穴へと放り込まれたダン。しかし、この濃いメンツの視線を受け止めながら、ダンの碧い瞳には、曾祖父・井助から受け継いだあの不敵な光が静かに宿り始めていた。
(じいちゃん。やっぱり世界の真ん中は、一筋縄じゃ行かないようだよ)
ここマドリードの地で、ダンの「楽ありゃ苦もある」激動の幕が、ついに上がった。
改めて、ざっくり言うと上からトップチーム(フル年代)/B(U-23)/U-19/U-15/U-12、以下低年齢(サッカーの楽しさを知るカテゴリー)に分かれる事が多いです。もっと小分けする事もあります。
ダンやチョビはU-19をほぼすっ飛ばし。ングゥワチュチュ、マリオも本来はU-19の年齢ながらBにいるプロスペクト(有望株)です。
しかし、ここはCL優勝回数ぶっちぎり1位の、レアル・マドリード。
彼らでも、トップチームに定着するのは険しい道のり。今後の展開やいかに。




