Beyond the best
「……見分けがつかない。」
崩れ落ちたバルサBの絶対障壁、GKダニエル。喉奥から乾いた呻きを漏らした。
後半23分に失点後、31分、37分と後半3失点。
バルサイレブン、サポーターと共に深い屈辱を味わっていた。
後半23分:
スコアは0-0のまま、カスティージャがペナルティエリア手前、ゴール正面約23mの位置でフリーキックを獲得した。
ダンがキックへ向かう。
前半に「懸河のドライブ」を完璧に弾き返したダニエルは、空手仕込みの間合いの型を構え、ダンの軸足の踏み込みへ全神経を集中させていた。
(さぁドライブを打って来い、またきっちり止めて見せるぜ)
ホイッスルが鳴る。
ダンが静かに助走を始める。
その左足が芝生を深く噛む。前半と「寸分の狂いもない」完璧な大樹の軸。
ダニエルは、前半完璧に弾き出した「あの急降下の軌道」の残像を脳裏に描き、素早くゴール内へ入り込む。
ドシュッ!!
放たれたのは、ドライブではなかった。
インパクトの瞬間に右足の足首の固定をわずかに変え、ボールの芯をインステップの骨で「パチン」と射抜いた――完全なる『無回転キック(ブレ球)』。
「しまっ……!?」
壁を越えたボールは、回転していない。
そのまま空気抵抗を乱暴に引っ掻きながら、不規則に蛇行する。
GKが下がる(距離が遠くなる)ほど、その変化量は増して行く。
ダニエルの反応速度を以っても、捉える事は困難だった。
ドンッ!!!
ダニエルの伸ばした腕をすり抜け、ボールがバルサのゴール左隅のネットを激しく揺らした。
「ゴオオオオオオオール!!! カスティージャ先制! 14番ダン・ホルトーリ、全く同じフォームから今度は悪魔の無回転を突き刺した!」
1-0。静まり返るバルサBの本拠地を、カスティージャの歓喜の声が切り裂いた。
31分はングゥアチュチュのパスに反応して裏抜け、スピードに乗ったシュートで2得点目。
37分はマリオの左からのクロスを受け取り、懸河ドライブで3得点目。ハットトリックを達成した。
そのまま、3-0での決着となった。
ピッチに膝をついたダニエルは、天を仰ぎながら「……サッカーには空手を使わないと言ったが、完敗だ。あの同じフォームからの4択では、喜屋武道の型でも捕らえられない」と、静かにダンの右足を称える笑みを浮かべた。
「ダンーーーやりやがったな!」
ベンチからコートを脱ぎ捨ててピッチへ乱入してきたチョビが、真っ赤なツンデレ顔でダンの首に飛びつく。
「ありがとう、チョビ。君のデータもあるから落ち着いてやれたよ」
ダンは嬉しそうに碧い目を細め、ングゥワチュチュ、マリオ達とガッチリとハイタッチを交わした。
3部リーグ(Bレベル)最大の決戦を、最高の「楽しいサッカー(日常)」で制したカスティージャの少年たち。
しかし、スタジアムのVIP席から、この熱狂を冷徹な目で見つめる、レアル・マドリード「トップチーム」のフロント陣の視線が。
楽しい時間の終わりはすぐそこに近づいていた。




