第8話 唸れ、夢の新装備
ほぼ、全財産で購入した冒険者装備であるが、
『なんだろう…悔しいけどお値段以上のクオリティーな気がする』
という出来映えであり、8万円という子供にとったら大金であるが命を守る鎧や武器をその金額で揃えるとなると、安いのか高いのか判断できずに、この3日間ずっと、
『頭装備はガラクタの山に転がっていたお鍋にアゴ紐をつけただけかな?』
などと不安でいっぱいであったが、いざ騙し絵顔のオッサンの店に来てみると、色々なガラクタからパーツや素材を集めて作り上げたリメイクというよりは材料だけがリサイクル品のオーダーメイドの一部金属板で補強してある革装備がそこにはあり、オジサンは、
「よし、微調整も特に必要ないな、流石はワシだ!」
と自画自賛しながら僕に鎧を着せてくれ、
「まだ体も成長しきっていないから体に負担の少ない軽めの素材で、調節ベルトをここと、それからここに付けたから長く使えるぞ」
などと自信有りそうに説明してくれる。
確かに良い出来映えであるが、オジサンから付け加えられた、
「この胸当ては軽くて丈夫な持ち手の外れた魔合金のフライパンを加工してだな…」
という説明に、
『僕の心臓はフライパンで守られる事になるのかぁ』
と、少し切ない気持ちにはなった。
しかし、フライパンと言われなければ鉄貨にも使われている異世界のステンレス的な錆びない合金の板であり、この3日で調査したところ町の防具屋で新品を買えばこの胸当てだけで銀貨5枚は飛んでいくかも知れないのは理解している。
なので、
『お値段以上だ…命が守れるならフライパンだって良いじゃないか!』
と自分に言い聞かせている。
あとは、すね当てにアームガード、それに鉄板で額のあたりの防御力を上げた革の帽子まであるフルセットと、
「重い剣や斧なんか振れないだろうし、ウェポンスキルが無いのなら長い槍も持ち運ぶのは邪魔だろうから」
と、メインウェポンとしてオススメされた鉈のような形状の大型のナイフと、そのナイフが装着出来る腰ベルトと、そのベルトに付属する革製のポーチも全部込みで銀貨8枚である。
僕の頭の中では前世で見たテレビCMの夢がありそうなグループの社長が、
「本日は、これ、ぜ~んぶで、8万円で、ご提供ですぅ」
と棒読み気味に囁くと、隣の愛人風の女性が、
「凄い、社長! 安い、やっすぅ~い!!」
と大袈裟に悶えているので、
『仕方ない出費だ』
と割りきり、オッサンに代金を支払うと、スキンヘッドに空が映りそうなぐらい張りのあるテカテカした笑顔で、
「まいど!」
と金を受け取り、彼はまたガラクタの山に潜って行ったのだった。
もちろんこのやり取りは店舗と思われるガラクタの山の外で行われており、
『腕は確かだけど、ここが店だとは買い物が済んだ今でも半信半疑だよ』
と、ガラクタの山に住む一種の妖精さんに出会ったような気持ちのまま僕は冒険者ギルドへと、
「こんな感じなら集落の片付け依頼を受けられますかね?」
とギルドマスターにお伺いをたてに向かう。
まぁ、そんな装備ではダメと言われても他のを買う余裕は既にないから、お伺いというより、
「これ全部で銀貨8枚でした」
って報告してギルドマスターの反応からこの買い物が安かったのか、それとも高くついたのかのチェックが目的で、ついでに、
「全財産持っていかれたので、出発までにサクッと稼げるお仕事ないですか?」
と、相談するのがメインであった。
そして装備を揃えた翌日、僕は見習い錬金術師の試験勉強を一旦ストップして、数日ぶりに冒険者として森にやってきている。
また薬草をせっせと摘んで銅貨を稼ごうという訳では無い。
なんと季節が味方をしてくれ、今は冬の蓄えの為に食料集めの依頼が熱く、中でもキノコが激アツなのだそうだ。
町の近くの森にてキノコ狩りの邪魔になる僕を崖へと追い詰めたダッシュボア達も冬のお肉の備蓄の為に連日手練れの冒険者達に倒されて塩漬け肉などに加工されており、
『いつもより安全に森で活動出来る』
というシーズンで、冒険者に成り立てのスラムっ子達にとって装備が無くても安全に稼げるのが、この秋恒例のキノコ狩りクエストなのだそうだ。
しかも、僕は昨日装備を完璧に揃えたので、装備無しのスラムっ子達より安全に森の奥まで突き進め、ライバルが少ないエリアかつ森の浅いエリアには無い高級なキノコを探すチャンスまで有るらしく、冒険者ギルドの職員さんからは、
「似たような毒キノコもあるけど、商品鑑定スキル持ちが買い取りカウンターに居るから安心して手当たり次第に摘んで来ると良いよ」
とアドバイスをもらっている。
キノコ狩りのマナーとして収穫前に笠の部分を軽く叩いて胞子を落としておけばまたその場所にキノコが生えてくるのは前世の知識で知っている為に、
『どんな希少キノコを乱獲しても絶滅はないかな?』
などと、森のキノコを総取りするつもりでウキウキと朝イチから遠くの森まで来たのは良いが、僕は浮かれてすっかりと、
『森のイノシシ魔物なんて連日間引いたぐらいでは完全に居なくならない』
という事を失念していたのであった。
森の浅いところならいざ知らず、倒して運び出す手間を考えると、こんな森の奥までお肉集めの冒険者が来る方が珍しい。
それに森の浅い所で仲間を狩られたイノシシ魔物達はむしろ森の奥に避難して、こちらの方に集まっているのではないか? という推測を今僕は見つけて収穫を開始した立派なキノコを握りしめながら、背後から聞こえる。
「フゴッ、フゴッ!」
という鼻息と、少し前に聞いた記憶のある「カッカ!」という力強く地面を引っ掻く音が聞こえた瞬間に、全ての状況と推測が1本の線につながり、僕は後ろを振り向かずに一目散に駆け出したのであった。
数本は収穫出来たが握りしめていた一番大きなキノコは離脱をするダッシュ時の腕の振り抜きで無惨に砕けてしまい。
『あっ、勿体無い』
とは思ったけど、命が一番大事であり、そのまま森を駆け抜ける。
一発目のダッシュボアのアタックを無傷で避けれた僕は、ヤツが樹木に激突でもしたのか背後で「ガチン!」という衝突音が聞こえたが、あえて振り向いて確認することなく可能な限り距離をとる。
『だいぶ引き離したか?』
と、走りながら背後をチラ見してみると、どうやらダッシュボアがこちらへとダッシュしてくる気配はなく、僕は一旦近くの木の陰に隠れ、息を整えながら静かに背後の様子を伺ってみる。
すると奴はスタート地点辺りで砕けたキノコを旨そうにモグモグしており、既にこちらに興味がなくなってしまっているらしい。
『助かった…前回は矢が刺さってブチギレモードだったから執拗に追い回されたのか?』
と思いながらも、
『いざとなったらこのキノコを投げたら足止めにはなるか』
と考えた僕は、可能ならば足止めに使えるこのキノコをメインに狙いつつ町の方へと退避する事にした。
正直な話、装備は整ったが一騎討ちで角ウサギを倒せる自信すらない僕が、前回のような奇跡でも起こらないかぎりダッシュボアが倒せる訳がないのだ。
『冬の食料の為に来たけど、それはこちらサイド《《の》》食料であって、こちらサイド《《が》》食料になる為じゃないぞ!』
と焦りながら町を目指す僕は、
『こんなの避難しながらキノコなんて見つけてる暇なんて無いがな!』
と、来た時のルンルンとした足取りで真っ直ぐ歩いて来れたのが嘘のように、
『なんでこんな奥に来るまで魔物に出会わなかったんだよぉ、手前で魔物に出会ってれば早めに引き返せたのにっ!』
と、自分の運の悪さを呪いたくなる程に、帰り道ではどこからか聞こえてくる森狼の遠吠えや、遠くで微かに聞こえる地面を掘り返しているような音が聞こえる度に、ビクビクしながら音の方向を確認しては迂回を重ね森の中で迷子になりかけながらも見慣れたエリアまで帰ってこれた。
『ここまで帰って来れたら大丈夫だな』
と緊張の糸が切れた途端にドッと疲れがやって来てしまうが、生きて帰ってこれた事に何とも言えない高揚感も覚えてしまう。
逃げながらも意地でキノコを2個ほど鞄に追加したけど、やはりキノコ狩りどころの騒ぎではなく、かといって安全な薬草摘みでもよく来ていた草原エリアと森の境目まで帰ってこれた時には昼をとっくに過ぎていたので、
『今から森の入り口でキノコ狩りって気分でもないし…今日は帰るかぁ』
と、使い慣れた鞄の中にある少量のキノコだけを戦果に町に向かって歩き出す。
するとこの草原エリアで森でお肉集めの狩りに来ていたベテラン冒険者チームだろうか、かなりの数の獲物の血抜きや解体を行ったらしく残された血溜まりや不要な部位にスライム達が群がっていた。
「おい、マナーがなってないな…野外で解体した場合に不要な部位は土に埋めるのが常識だろう!」
とボヤいてみたが、ダッシュボアは絶対に無理でもスライムならば新装備の試しに丁度良いと判断した僕は、
「フフっ、いいだろう。 このナタナイフの錆びにしてくれるわ」
と、魔物素材を練り込んだ魔合金の為に錆びないはずのナタみたいなナイフに、鉈と言えば草刈りや藪払いの定番というだけで、草刈りに一番似合う【正雄】という男前な名前をつけて格好をつけてみた。
そうして目の前のスライム達に向かい僕は腰から聖剣・正雄を引き抜くと、解体された魔物の内蔵や血溜まりに群がっている中で一番夢中でお食事中の一匹のスライムに向けて、
「ていっ!」
と正雄チョップを浴びせてゼリー状の体の中にある核を叩き割る。
するとゼリー状だったプルプルボディーのスライムは、食べ終わりに近づいた餡かけ料理の様にシャバシャバになり奴は崩れて水溜まりになる。
「フッ、つまらぬ物を斬ってしまった」
などと格好をつけていると、どうやらこの魔物の内臓ビュッフェには僕の思っていた以上にお客様であるスライム達が集まっており、ついでに待ちの客まで周囲の草むらに居たらしく、
『よくも仲間をシャバシャバにしてくれたな!』
とばかりに四方から僕に向かって飛びかかってくる。
予定外に草むらから飛び出した増援に僕は、
「ズルいぞ、こんなに居たのは聞いてないし、一斉には無しだって!」
と文句を言いながらも聖剣・正雄を振り回し応戦する。
一瞬現れたスライムの数に怯んだが、スライムアタックが体に何度かヒットした時に、
『あれ? 痛くなぁ~い』
と気づいた僕は急に勝てる気しかしなくなり無敵のヒーロー気分でスライムに向かってゆく。
流石は装備を整えただけはあり、衝撃はあるが痛くてうずくまる程ではなく、防御は考えずに飛びかかるスライムを次から次へと聖剣・正雄から繰り出される正雄スラッシュによりシャバシャバに変えてゆく。
そして、
「はぁ、はぁ、今日はこれくらいにしといてやる…」
と僕が疲れきった時には、20ぴき以上のスライムが触ったあとは確り洗わないと痒くなるシャバシャバの液体へと変わり地面に散乱しており、
「近くに小川が有るからスライムの粒魔石を回収したら装備を全部キレイキレイするかな」
とスラ汁で手が痒くなる前に全ての魔石を回収して小川でワシャワシャと洗い、防具や武器についたスラ汁も拭き取り綺麗にしようと、愛用の手拭いを鞄から出そうとした瞬間に僕は、
「ぬあぁぁっ、しくじったぁぁぁ!」
と小川のほとりで叫ぶ事になった。
それは鞄に詰めていた少量のキノコたちが一番小さいのを残して、無惨にもボロボロに砕けたり割けたりしていたのである。
「スライムなんかに喧嘩を売らずに帰るべきだった…」
と呟きながら重い足取りで町に向かって歩き出す頃には夕方近くになっており、
「キノコを売って晩ごはんは豪華にする予定だったけど、スライムの粒魔石でも屋台の肉入りスープと明日の朝食のパンぐらいは買える…よね…たぶん」
と、答えなど知らない質問を自分に投げ掛けながら、今一度鞄の中でクラッシュしてミックスされているキノコの残骸を眺めて、
『これは流石に買い取りは無理だな』
と諦める僕だった。




