第48話 滲む夕日
カリーナちゃんとエスカちゃんの二人がファベルにの町から帰って来た。
出かける前にカリーナちゃんから、
「エスカちゃんの服を仕立てたりするからちょっと遅くなるかもぉ?」
と言われていたので、僕ものんびりとエスカちゃん用のベッドを仕上げて、
『空き部屋にエスカちゃんのベッドを配置するか、はたまた監視役としてカリーナちゃんと相部屋にするか?』
と悩んだ結果、
「まぁ、心は乙女同士で親分と子分的な関係でも相部屋は無しだな…ボディはやるせない程カルロさんだし」
という真っ当な意見に落ち着き我が家で唯一残っていた家具も何も無い部屋にベッドだけ備え付け、
『タンスとかは後から買えば良いよな』
とエスカちゃんの部屋とした。
そして、ベッドが完成してからも更に4日、カリーナちゃん達は未だ我が家には戻って来ていない。
僕は家畜のお世話のお手伝いや集落周りでの森ネズミや角ウサギを足バサミの罠で狙って小魔石集めや、近くの池にスライムが涌いたからという事で派遣された騎士団の方に紛れて聖剣・正雄を握りしめてスライム達に正雄スラッシュをお見舞いしたりして過ごしていた。
そうこうしているとカリーナちゃん達が戻って来たのであるが、二人は戻ってくるなり僕に、
「助けてあげて欲しいのぉ~」
「助けていただけませんか?」
とお願いするのである。
『あぁ、沢山買い物してきたみたいだから荷降ろしの手伝いかな?』
と思った僕が軽く、
「よし、任せてよ!」
と返事をしてしまったのが運のつきで、現在の僕は、
『あのぉ~薬師の初級錬金術師試験の勉強したいんですけど』
と思いながら、集落で生き残っていた牛魔物達をマーキオ村に派遣して畑を耕す農耕牛として働かせ、僕自身も秋植えの作物の作付の手伝い等を行っている。
どうしてこうなったかと言うと、カリーナちゃん達がファベルへと向かうついでに馬等を飼っていた金持ちな農家が一斉に居なくなっており、町に買い出しなど行くのも一苦労なマーキオ村にて、
「何か代わりに買って来ましょうか?」
と御用聞きをしてみたらしいのだが、マーキオ村に現在残っている村人は、以前は村長達に虐げられカツカツで生活していた反村長派閥の方々であり、金銭的にカリーナちゃん達にお使いを頼みどころでは無いし、大不作で来年蒔くための種を残せるかすら怪しい状況だったらしく、カリーナちゃん曰く、
「生け贄を捧げてでも何かにすがり付きたい気持ちも解っちゃって…」
と辛そうに語っていた。
そんな彼女的には、
『ほら、安心してエスカちゃんはこんな感じで元気に商会の子として頑張ってるわよぉ~』
とマーキオ村の残りのメンバーにエスカちゃんの無事を見せて安心させてあげたかっただけなのだが、エスカちゃんでは無くて村の方が無事とは言い難く、派遣されていた文官さんもたった二名で没収した罪人達の土地や、夜逃げ同然で居なくなった村人の把握と、残された家や土地の持ち主の変更手続きで手一杯で、村としても満足に機能して居なかったらしく、カリーナちゃんは、
「アルマちゃんに相談無しで悪いと思ったけど、生活魔道具を全部商人ギルドにお願いして現金に換えて、エスカちゃんの着替えとか必要な物を買った残りを秋植えの種芋とか秋に蒔く小麦の種に変えて、畑にまく肥料なんかも物知りなマゴスのおじいちゃんに聞いて買って来たんだけど、そもそも人手が足りなくて…」
と僕に助けを求め、隣ではエスカちゃんも、
「お願いします会長!」
と僕を見つめてくるので、内容も聞かずに「任せて!」と返事をしてしまった手前僕としても、
『よし、ここでマーキオ村に恩を売れば、もう呪っているヤツって認識から脱却出来るかも!?』
という打算もあり、マルテスさんに相談して集落からオスが多めでメスもミルクを出せるのは一頭のみとなっている牛魔物達の中から元気そうなヤツをマーキオ村にレンタルする許可が出たので、僕も牛達と一緒にマーキオ村に来てみたのだが、
『ある意味ウチの集落よりヤバくないか?!』
とファベルの町に行く時も用がないので素通りしていたマーキオ村は、下手をするとスラム地区より活気の無いシケシケな状態で、
『ここ一年程で以前の感じからコレなら呪いを疑いたくもなるな』
と変に納得してしまった僕は、
『ある意味で村長にヤられた被害者仲間か…』
と彼らに力を貸す事を決めたのだった。
マーキオ村担当の文官さんも交えて集落にて彼らの上司にあたるマルテスさんとも相談し、マーキオ村に対して、
【牛魔物のレンタル代金は来年度の年貢にて支払う】
という牛魔物代金の後払い制度と、
【ウチの商会から貸し出しという形をとる種や種芋も収穫後に同じ量か同等の値打ちの作物で返済】
として現在の負担を減らし、そして追加で没収してお代官様の所有となっている畑を利用して来年の春の作付から、
【土地使用料なし、牛魔物無料貸出し、種も村持ち、ちゃんと作物を育てたら年貢分を差し引いた残りを半分半分でわけっこする村営農場】
というアイデアを出してみたのである。
マルテスさんからは、
「もうすぐ、お屋敷が完成してリデル様が正式にココとマーキオ村の管理者として指揮をとられて、私がマーキオ村の担当になる予定だったけど、どうだいアルマ君、文官試験を受けて正式にマーキオ村の村長候補になってくれない? 推薦するよ」
と言われたが、丁重にお断りしておいたのだが、マルテスさんは、
「えっ、多分だけど錬金術師の試験より文官試験の方が楽だよ…入ってからが、ちょっとだけ大変かもだけど」
と、食い下がっていたが結局、
「本当ならあの状態の村を押し付けられるなんて聞いてなくて、私すら拒否した村だからなぁ…リデル様がトップに座って下さって幾分か責任から逃れたから渋々受けた仕事をアルマ君に押し付けるなんて無茶な相談か…」
などと少し寂しげにブツブツ独り言を呟いており、僕としては、
『あっ、絶対に文官には成らないでおこう…ストレスで禿げそう』
と、この世界での自分の未来から【地方公務員】という選択肢をソッと消したのであった。
という事で、エスカちゃんとカリーナちゃんからのお願いもあり、マルテスさんがマーキオ村の担当として赴任する前にマーキオ村が滅ばない様に、僕も頑張って、
『ほら、もう仲間だよ。 呪ってなんかないさ』
というアピールを兼ねて、ジャガイモの作付をお手伝いしているのである。
しかし、すごくモヤモヤするのは村人達が耕した畑にジャガイモを丸のままで植えようとしているのだ。
前世の自分はド田舎のオッサンであり、小学生の頃、秋のシーズンのイベントと言えば、運動会ともう一つは収穫祭という、
『田舎だねぇ~』
と、やっている本人達も感じるイベントが毎年開催されていた。
都会の子供は知らないかもしれないがグラウンド横に学校所有の畑があり授業の一環として畑作業を学ぶ時間があった。
ちなみにであるがお花を育てる学級花壇ではなく、ガッチリ農作物を育てる畑である。
秋にはその畑で生徒達が育てたジャガイモなどの野菜を使ったメニューを毎年1学期の始めに高学年中心の実行委員会の会議で決める。
するとメニューに必要な野菜を全校生徒を幾つかの班に分けて、班毎に割り振られた畑で作物を育て、秋には班対抗の作物の品評会を行った後に百人にも満たない生徒全員で野外で1学期に決めたそのメニューを作って、そして野外で皆で食べるという年中行事の為に培った僕の記憶が、
「半分に切って植えろや、勿体ない! 不作で食い物がピンチなんだろ!?」
と叫んでいるのである。
丸ごと植えても1株のジャガイモで、半分に切って灰を切り口にまぶして腐るのを予防すれば2株のジャガイモとなる。
僕の脳内では一瞬、
『こちらの世界で【白芋】と呼ばれているジャガイモは僕の知っているジャガイモじゃないかも…』
とは思ったが、
『メイクイーンでも男爵でも、どのジャガイモでも半分に切って植えて育ったモン!』
という前世での記憶から、近くの民家のキッチンから出た薪の灰をもらって来て、
「買い集めてくれた白芋を倍に増やす方法だからしっかり見て真似して下さい!」
といって聖剣・正雄で種芋を半分に切り、切り口を灰にグッと押し付けた後に、
「切り口を下にこうしてからの~、こう! そしたら1個の種芋から2株収穫出来ます」
と説明しながら植えつけて肥料を混ぜて牛魔物に馬用の農具を引かせて耕したフカフカの土をかぶせる。
しかしそんな僕の行動を見た村人達は、
「そんな事をしたら種芋が…」
と不安の声を上げている。
僕としては、本当はちょっぴり、
『なら、好きにしたら?』
とは感じるが、冬に腹ペコで苦しむ村の方々は見たくないので、
「ウチの商会から種芋を借りた人はコレに従って下さい! もしも枯れたら冬場に食料を補てんします。 種芋の倍の株が育っても元の種芋の数しか返済を求めませんので、騙されたと思ってチャレンジをお願いします」
と、前村長の件もあり立場を利用した強制には少し気が引けたが、追加の保証も提示して少し強引にお願いした結果、
「アルマ会長さん、ほれ、しっかり半分に切ってから植えてやすぜ…もしも枯れた時は頼みまやしたからね」
と、本当に半分に切って植えている事を僕に見せる為に各畑を回らされているのである。
「こんな証明をワザワザしなくても不作になったら追加の援助ぐらいするのに…」
とウンザリ気味にマーキオ村のあちこちの畑を巡る僕の隣でカリーナちゃんが、
「まぁねぇ~、アルマちゃんのお願い通りにやってるから、これ以上呪わないでねぇ~って意味も入っているんじゃないのかしらん?」
と嫌な推測をし、その隣ではエスカちゃんが、
「私も、アルマ会長は《《もう》》マーキオ村を呪ってなんかいませんよって言ったのですが…」
と、なんだか前は僕がちゃんと呪っていた前提の口振りであった。
『それ以上は止めて…泣いちゃうから』
と切なくなる僕の目に秋口の夕日がしみて、少し滲んでいたのだった。




