第47話 2割ずり下がる夜
『何故だろう…』
と考えながらマーキオ村へと徒歩にて帰る方々を見送る僕たちの列に、下唇がドリフのリーダーみたいになった生け贄装束の少女が並んでいる。
正直なところ僕の方が、
『ダメだこりゃ』
と言いたいオチになってしまったのには我が家の御意見番であるカリーナちゃんが、
「理由はどうあれ一度手放す事を決めた様なお前らに、この子は任せられないわっ!」
と彼女の下唇を捻り上げたまま叔母夫婦を叱りつけ、
『何とかしないと少女の下唇がモゲてしまう!』
と焦った集落に来ているマルテスさん率いる文官の方々の提案で、正式な書類を用意して王国法の元で彼女が【ウチの子】になってしまったからである。
まぁ、ウチの子と言っても僕が会長をしている商会預かりとなり、現在僕より一つ歳上の11歳の彼女が16歳になり成人するまでの5年間の扶養義務が出来ただけで、僕のお姉ちゃんになったとかでは無い。
どうやら大きな商会などでは希にある話で、家を追い出された子供が大棚に拾われて下働きになったと聞けば捨てたはずの親が現れて子供の権利…というか子供が汗水たらして稼いだお金の権利を主張してくる場合に用いられるらしく、その捨てた親に対しての親失格宣言と、新たな保護者への認定書をご領主様名義で出してもらうという流れである。
こうして、生け贄として差し出された少女エスカちゃんは我が家の一員となったわけだが、僕としては、
『いや、本当に生け贄もらったみたいじゃん! たしかに生け贄として送り出されたマーキオ村というかあの叔母夫婦の元には帰り難いだろうけど…村長の側近だった人の娘さんだよ? ある意味僕がご両親とお兄さんとやらを死に追い遣った仇って認定されてないかな?!』
と不安要素しかない。
まぁ幼い頃に親に売り飛ばされて、信じていた初恋の兄に再び売り飛ばされ、買われた先の育ての親を殴り飛ばして今に至るカリーナちゃんとしてはエスカちゃんに何か自分に重なる物を感じたのかも知れないのは僕も何となくは理解している。
しかしこの日の夜、我が家には僕と帰って来た二人の幼馴染みを想定したベッドが3つしかなく、来客用のベッドは客間のウルソさんと、空き部屋だった所でカリーナちゃんが使っている為に、エスカちゃんが寝る所がないので、一瞬、
『女の子同士だから今晩だけカリーナちゃんと寝てよ。 明日にはベッドを作ってあげるから…』
と言おうとした自分が居たが、
『いや、アレはカルロ♂だし!』
と忘れがちな真実を思い出した僕は、スラム地区でテント暮らしをしていた時の毛皮の毛布を引っ張り出してくると、少し気まずく四人で囲んだ夕食が終わったテーブルに今も座って、勝手が分からない他人の家にソワソワとしているエスカちゃんに、
「とりあえず、カリーナちゃんに聞いてお風呂に入って来なよ」
と促すと、僕の部屋のベッドを彼女に使わせる為に軽くと整えた後に、僕は居間の端にて、
『まぁ、秋口ならこの毛布でも十分だろう…それにしてもエスカちゃんの下唇は明日には腫れが引くかな? 夕食も四苦八苦しながら跳ね鹿肉シチューをスプーンをねじ込むみたいに食べていて、気の毒やら面白いやらで反応を我慢するのが大変だったよ』
などと考えて、
『明日も腫れていたらダメ元で低級ポーションでも飲ましてあげるかな』
と決めた僕は、本日は朝から狩りをした後に生け贄登場からの地べたでの正座で家族が増えるという怒涛の1日に疲れ果てており、
「エスカちゃんが、お風呂から上がったら僕の部屋に案内して、今日は寝てしまおう」
と本日の僕のベッドルームがわりとなる居間にて彼女が戻って来るのを待っていたのだが、
『えっ、長くない?』
と僕が心配になった頃に彼女がホカホカ状態で中庭の風呂小屋から居間へと戻って来たので、
『あぁ、女性は長風呂だったりするしね…』
などと納得した僕は彼女に、
「今日は僕のベッドで寝ると良いよ。 明日には簡単なベッドを作ってあげるし布団はまだ無いけど僕のを使えば…」
と説明している途中に、エスカちゃんは着ていた生け贄装束のズボンの紐をシュとほどくと彼女の足元にハラリと白いズボンがずり落ちる。
「わぁ! なに? なによっ!?」
と焦る僕を他所にエスカちゃんは、
「はい、覚悟は出来ておりますし…昨夜叔母からは、その…」
と、お風呂とは関係ない熱で顔を真っ赤にしながら、長介マウスのエスカちゃんが何かを決心されておられるご様子である。
『11歳だよね!? 判定を待たずともアウトだよ!』
と焦っいる僕の口からは、
「ちょ、ちょっ、まずはソレを!」
というのが精一杯で、アワアワしながら僕は彼女の足元の真っ白なズボンを指さして【履きなさい!】という意味で指を上下させるのだが、何を勘違いしたのかエスカちゃんは、
「し…下着もですね…」
と己の最後の下半身装備を外そうと手をかけたその時である。
「アタシがお風呂から上がるまで居間で待っててとは言ったが、アルマちゃんを誘惑しろとは言って無いんだけどぉぉぉっ!」
と、我が家の最高戦力であるカリーナちゃんがお風呂上がりのほんのり桜色の体から殺戮のオーラをたち昇らせながら、下着を2割がた脱いでしまっている前傾姿勢のエスカちゃんの頭をムンズと掴んでグンと引っ張り上げる。
するとエスカちゃんの下着も背筋が伸びた彼女の腕に引き上られ定位置近くまで戻る。
すると、カリーナちゃんは、
「ふん!」
と気合いと共に屈んだかと思うと、目にも止まらぬ早業で下着からズボンの順序でエスカちゃんの下半身装備をグッ、グッと履かせ、
「次やったら上唇もギュンてするわよっ!」
と彼女を叱ってくれたのであった。
力いっぱい履かされた為か食い込んだパンツの位置を直しながらエスカちゃんは、
「でも、やっぱり生け贄ですし…あんな立派なお風呂で頑張って隅々まで洗いましたから…そういう事かなぁ~って…」
と、盛大な勘違いを発表すると結局カリーナちゃんに、
「エスカちゃんには教育が必要だわねっ!」
と上唇を捻り上げの刑ではなく長時間に及ぶ教育的指導が別部屋にて行われたらしく、僕が居間の床にて目覚めた翌日の早朝には、
「水汲みが終わりましたカリーナ御姉様!」
とカリーナちゃんに従順な手下に仕上がっていたエスカちゃんが、テキパキと働いていたのであった。
『うん、良い感じ』
と、昨夜のパンツ2割下げ事件から生け贄根性を矯正してもらったらしい彼女を安心して眺めていた僕であるが、そうなると、
『いや、生け贄装束で元気に働けば働くほど何故か凄く罪悪感を感じるから、僕の私服を着せてカリーナちゃんと日用雑貨を買いにファベルの町に行かせよう』
と決めたのであった。
そして、朝の日課である集落の牧場の手伝いを終えた僕は、カリーナちゃんに、前回農場への引っ越し等でかなり使って少ない我が家の現金を全て託して、
「正規品の生活魔道具はウチ商会でも売れるから」
と、回路から組み上げた初級錬金術師向けの生活魔道具を持たせてカリーナちゃんとエスカちゃんのコンビをムギチャの引く荷馬車にて送り出した僕は、ウルソさんと、
「静かになりましたね…」
などと軽くお茶を楽しんだ後に、書き物仕事が一段落したであろう役場に向かい大工の親方達から頼まれた釘やドアの金具を作る為にウルソさんは役場内にある鍛冶場に向かい、僕は、
「よしベッドでも作るか!」
と、この世界に来て初めて本格的な見習い木工職人として木材から誰かの為の家具を作ってみる事にした。
『まぁ、木箱屋台や、大工さんに結構手伝ってもらった自宅の風呂小屋はノーカウントとして、僕の木工職人としての初めてを捧げるのが、体を捧げに来たエスカちゃんとは…』
と、危うくロリ少女へのワイセツ未遂という重たい十字架を背負う所だった昨夜の出来事を思い出し…といってもあの瞬間のエスカちゃんを脳内再生している訳では無い事だけはお伝えしたいのだが、
『我が家には僕を男食と勘違いしてお尻を差し出す覚悟を決めた過去のあるウルソさんに、もう言わずもがななカリーナちゃんと、新たに体を捧げにマーキオ村から来たエスカちゃんと…ノーマルタイプのキャラクターは居ないのかね?』
と思ってしまう僕であるが、そんな僕の脳内では前世のオッサンの自分が、
『前世オッサンの記憶持ちも大概だよね?』
と指摘して来るので、
「は~、まぁ、お互い様か…」
とタメ息まじりに呟いた僕は、中庭の風呂小屋作りで余っていた板材で大人しくベッド作りを開始したのであった。




