第49話 定期馬車で来た方々
予定外なマーキオ村のなんやかんやに巻き込まれてしまったが、マーキオ村の方々にもだが、何故かマルテスさんに、
「助かったよアルマ君! 本当にありがとうね」
と感謝されてしまった。
どうやらマルテスさん的にはマーキオ村の作物の現状を村に派遣されている部下からウッスラ聞いていたが、あちらも春先からの夜逃げ村人の現状把握だけで手一杯だったそうで、
「そこまでとは知らなかったし、私が報告を上げてから会議をしていたらマーキオ村に支援をだす前に秋の作付に間に合わずに冬に飢える村人の支援計画に切り替えたりと対策が後手後手になってしまっていた」
と村人の命を大事に考えて僕に感謝しているのかと思えば、マルテスさんは、
「あのままであれば、リデル様がこの集落に来られ、私がマーキオ村に赴任した時には村人からの怒りはきっと私に向かうところだったよ」
と、自分の身に危険が有ったかも知れない事を悪い顔色で話していた。
僕としては、
『中間管理職は大変だねぇ~、マルテスさんはこのまま行けば、ストレスで禿げるか、胃を壊すか…兎に角強く生きて下さいね』
と、マルテスさんの毛根と精神の健康を祈るしか出来なかった。
とまぁ、とりあえず生け贄騒動からの一件も落着したので、魔道具の杖づくりの練習や実験は勿論、薬師の初級錬金術師試験の勉強も出来ておらず、壊れた生活魔道具のランプの魔術回路を他機能魔石式ライトのフレームキットに乗せ換えて、手っ取り早くお金が稼げる手段に切り替えて、
『万が一だが半分に切ったジャガイモが発芽しなかったら追加でマーキオ村に支援しなきゃだし…』
という不安の為に先に稼いで対策しておく事を第一に過ごしている。
まぁ、集落に来た経緯はさて置いて、今は僕の代わりにエスカちゃんが仮の役場関係の朝の厩舎仕事や、夕方前のキッチンの手伝いに行ってくれているので、僕の自由時間が増えたことが地味に有難い。
『だって、役場のお駄賃の旨味が魔道具が作れる様になって薄れたんだモン!』
という事で、お駄賃はそのままエスカちゃんの物にして彼女の人生を豊かにする為に使ってもらう事になったのである。
僕から彼女に、
「どうする? 学校に入り直しても良いんだよ」
と、学費が支払われずに学校を中退したエスカちゃんに提案はしたのだが、実は彼女は錬金術師志望だったそうで、本当ならば基礎学科を終えた今年から錬金術師の勉強を始める事になっていたらしく、エスカちゃんは僕に、
「領都の学校では私が学校を退学した理由をあれこれと言う人間も居ますし、アルマ会長が師匠も持たずに独学で見習い試験に合格されたのであれば、その会長を師匠とし頑張れば私にもチャンスがありますので」
と、学生に戻る事を拒否して、僕と同じく独学からのいきなり受験の道を選んだ様である。
ならば応援するという選択肢しかない僕としては、
『僕の見習い試験の教本はあの日、割れた蜜壺から溢れたねっとりとした蜜にまみれて捨てちゃったから、今度錬金ギルドに行ったら買い直してプレゼントしなきゃな』
と考えていたのだが、
「あっ、明日派遣職員さんの交代の日だからファベルからギルドの職員さん来るから通販が頼めるじゃない!」
と、作った他機能魔石式ライトの買い取りついでに、錬金ギルド宛に教本の販売を依頼できる事を思いだし、
『出張ギルド様々だな』
と便利になった集落の暮らしの有り難さを噛み締めた翌日の事である。
そして翌日、朝方に到着した交代の職員さんや騎士団の方々を乗せた二台の馬車の一台から、
「アルマ君、久しぶりだね」
と、片手を上げて降りてきたのは騎士団長さん家の長男であるリッターさんだった。
出張ギルドの職員さんを待っていた僕としては思いもよらない人物の登場に、
「あっ、リッターさん。 どうしたの? 何時も来ている騎士団のカルパさんとかは、派遣は下っぱの仕事って言ってたけど…もしかして、リッターさん! 何かやっちゃったんですか?」
と、騎士団長の息子がド田舎に派遣されて来た事に、彼の事を心配した僕であるが、リッターさんは、
「私は心配される様なしくじりはしてないから安心してくれ」
というと、一緒に来た見慣れぬもう一人のフード姿の方を僕に、
「それと、こちら私のパートナーの…」
というと、その人はフードを外して、
「主人が…というか、義父や義弟もアルマさんには色々とご迷惑を」
と頭を下げてくれたのは綺麗な女性であった。
僕は彼女に、
「主人って言ってたし、リッターさんのいうパートナーってのは仕事ではなくて、人生のパートナーさんで?」
と聞くとその女性は、
「はい、妻のフラルと申します。今は仕事でもパートナーでしてよ」
と微笑んでいたが、僕としては何故リッターさんが奥さん連れで集落に来たのかが全く分からない。
するとリッターさんは、僕の背後に居るカリーナちゃんとエスカちゃんのコンビを見ると、
「アルマ君の商会の方にも関わる事だから後でアルマ君も含めてお嬢さん方にも少し時間をいただけると有難いんだけど、とりあえず私達はマルテス殿に報告を済ませに参りますので、後程…」
といって夫婦で役場の方へ向かって行ったのであった。
するとリッターさんを目で追っていたカリーナちゃんは、
「お嬢さんだなんて気を持たせる様な事を言ってぇ…もぉ~っ! なんで良い男はいつも奥さんが居るのかしらっ…残念」
と、どうやらリッターさんはカリーナちゃんのストライクゾーンど真ん中だったらしく、少し残念そうにしていたのだが、直ぐに、
「いいモン、今のアタシはアルマちゃんが育つの待ちだモン!」
と何やら怖い発言が聞こえた気がしたが、僕としてはこの場はスルーして出張ギルドの方への用事を済ませようとすると、今度はギルドチームの幌馬車から普段は一人か多くても二人の方しか降りて来ないはずが、知ってる人や知らない人がゾロゾロと現れたのだった。
「今日はナニ?」
と驚く僕に錬金ギルドのエリート職員のサビオさんが、
「アルマ君、そろそろ試験に来るかと思って待ってたんだよ。 どう勉強の方は?」
と、試験が受けられる日にちが経ったのに錬金ギルドに姿を見せない僕の事を心配してくれ、僕が、
「ちょっとばかり立て込んでまして…」
と言うのを聞いたサビオさんは、
「いいのいいの、勉強に行き詰まったんじゃないのなら問題ないよ。 私的には今ここで試験をしたいところだけど、規則で試験会場はギルドと決まっているからね」
などと話していると、背後から、
『そろそろ良いですかぁ?』
的な圧を感じたサビオさんが、
「そうだった。 今日の担当はウチだったんだけど、ちょっと色々有って大所帯になったんだ」
と言うと、『待ってました!』とばかりに商人ギルドのモンテさんがサビオさんの隣から、
「卵鳥の件とか報告する事は山ほど有りますが、そんな事より酷いじゃないですか!? あんなのを秘密にするなんて」
と膨れており、何故かファベルの農場の改修工事をしてくれていた常連ズの…名前は…まぁ、大工のオッサンから、
「アルマぁ~、助けてくれよぉ!」
と半泣きで助けを求められ、そしてオッサンの隣から知らないオッサンがひょっこり顔を出したかと思うと、困り顔の常連ズの一人のオッサンに、
「これ、早くワシを紹介せんか!」
と指示を出す。
すると、大工のオッサンは、
「わかりましたよぉ…アルマ、こちら職人ギルドのギルドマスターのスミスさんだ」
とマトリョーシカみたいにオッサンの背後からひょっこり現れた新規のオッサンを紹介してくれたのである。
『なんでギルドマスターまで!? 見習い木工職人としてちゃんと挨拶に行かなかったから文句でも言いにきたのかな?』
などと少し身構える僕の事を、大工のオッサンは、
「んで、こっちの少年が界隈では有名人のフンドシ戦士のアルマその人です」
と不要な説明付きでスミスさんに紹介している。
僕としては、
『頼むから変な紹介はヤメロ!』
と、思うのだが、しかし僕の後ろにいるエスカちゃんとカリーナちゃんの二人の乙女が、
「フンドシ戦士って?」
「アタシも知らないわっ」
と、何故か興味津々である。
そんな僕の変な二つ名を広めようとする大工のオッサンを軽く睨みながら、
『バカ! ウチのメンバーはその話は知らないから今さら広めるな』
という殺気を放つが、大工のオッサンはそんな僕の視線など完全に無視で、紹介が終わったと同時に僕にすがりつき、
「とりあえずアルマぁ~、お前さんからも言ってくれよ。 あの風呂場は設計図通りに作っただけだから説明しろと言われても答えられないって言ってるのに誰も信じてくれないんだぜぇぇぇぇ」
と、ついに泣き出してしまったのであった。
どうやら農場に卵鳥という鶏というかアヒルっぽいというか、まぁ兎に角家畜化された鳥の魔物の小屋を商人ギルドのモンテさんが担当して大工のオッサンに依頼してくれており、その仕上がりをモンテさんが確認しに行った時に、仕事終わりに農場チームのカメリアおばちゃん達が、
「今日もお疲れ様、良かったらお風呂入って行くかい?」
などと大工のオッサンをお風呂に誘う会話を聞いたモンテさんが、
「えっ、お風呂があるの?!」
と、あの農場の井戸場に作ってもらった自然循環パイプを使った薪釜風呂に興味を持った事が今回のきっかけだったらしく、その後にギルドサイドで会議が持たれ、
【新しい技術を使った風呂なので商人ギルドが中心となる!】
というモンテさんと、
「何か巻き込まれたから助けて下さい!」
と職人ギルドの会員である大工のオッサンに泣きつかれた職人ギルドマスターとしては、
【魔道具も使わずに安く作れるあの風呂については、あのパイプは鍛冶職人の領分で、あの風呂場は大工が作るんだから職人ギルドが主体でやらせて貰う!】
という言い分らしい。
そして、何故か巻き込まれた錬金ギルドとしては、
「えっ、パイプから水漏れしない湯船とかは錬金石粘土ですけど? まさか仲間外れで話を進めないですよね」
というスタンスで三つ巴状態で集落へ僕とあの風呂についての交渉をする為にやってきたらしい。
『なんだかまた面倒臭い事にならなきゃ良いんだけど…』




