第45話 呼び声は響く
深刻な魔石不足の為に、
『駄目ならファベルの町で魔石を買えばいいけど、折角強い仲間が居るのだから』
という事でカリーナちゃんと集落周辺の森に入って獣道に足バサミの罠を仕掛けようとしたのだが、カリーナちゃんから、
「アルマちゃん、たぶんだけどこの獣道の感じだとぉ、その可愛らしい罠じゃ無理かと思うのよねぇ~、アタシ」
というアドバイスを頂いた。
確かにこの辺りをメインの狩り場にしていた弓使いの狩人だったキゴニスおじさんのメインターゲットは跳ね鹿という平気で人の頭上を飛び越えるほどのジャンプ力を使って、小川や谷を飛び越えて逃げたり、オスは鋭く尖った角とその脚力を使ってかなり遠い間合いからでもミサイルみたいな頭突きを仕掛けてくる中型の魔物だったので、
『う~ん、確かに跳ね鹿ならこれじゃ挟まれないし、もし挟まれてもジャンプ一発でバラバラにされるな』
と理解した僕は、
「そうだね。 足バサミは集落周り草むらとかで森ネズミの巣穴を探した方が良さそうだ」
という事で、本日は罠での狩りを諦め僕は魔石不足により今回は自宅に置いてきたマジックバックではなく担いできた麻袋の中からファイアボールの魔道具の杖を取り出して、
「じゃあ、カリーナちゃん、今日の狙いは鹿魔物にしよう」
と言ってみたものの、
『はて、跳ね鹿なんてこの広い森でどうやって見つけるんだ?』
という問題に直面する。
すると、カリーナちゃんが急に真剣な顔で僕の両肩をグッと掴み力任せに大木の影でしゃがませると、
「静かにっ」
と囁くというカリーナちゃんの行動に、
『森の奥にで二人っきりで、力任せ!? ひぃぃ! 襲われるぅ~』
などと一瞬焦った僕の耳に遠くから甲高い笛の音のような音が聞こえた瞬間に僕の脳裏には、
『あっ、キゴニスおじさんの首から下げていた笛と同じだ!』
とアルマ君としての昔の記憶と前世でのテレビなどで知った知識がガチっと繋がり、
『そうか、集落でたまに聞こえていたあの音は無口なキゴニスおじさんがノリノリで笛を吹いていると思っていたけど、あれは跳ね鹿の鳴き声か!』
と理解するアルマ君と、その隣では前世のオッサンの自分が、
『コール猟ってのがあったな』
と、獲物の声を真似て群れの足を止めたり、仲間の鳴き声と勘違いした獲物からの返事を頼りに距離を詰めて狩るという猟の方法を思いだし、キゴニスおじさんがそのコール猟をしていた事に気がつき、そして僕の脳内では野生担当の自分が、
『エモノ、アッチ!』
と興奮しだす。
僕を木の影にしゃがませたカリーナちゃんが、小声で、
「アタシの知ってる槍鹿ってのと少し違う声だけど、この地域の種類の鹿魔物かしら…まぁ、時期的にオスがメスを呼ぶムラムラ期だからあの声を目指して移動ね」
と、いつもの口調よりキリッとした雰囲気のカリーナちゃんに、少しカルロさん味を感じて、
『カルロさんが出てきた!?』
とドキっとしてしまう僕に、カリーナちゃんは、
「どうしたのアルマちゃん、興奮しちゃったの? アルマちゃんも男の子なのね♡」
とクスクスと笑っていたが、すぐに真剣なモードに戻り、
「でも、狩りは興奮しちゃうけど、獲物を前にして平静を保てないと怪我しちゃうからね」
とアドバイスする彼女は、
「アッチね」
と体勢を低くしたまま移動を開始する。
僕としては、カリーナちゃんの『興奮しちゃった?』にエロい意味が含まれているかとヒヤヒヤしたが、
『あぁ、狩りね…』
と安心した瞬間に、
『もしかして、僕を一旦冷静にさせる為か!?』
という彼女なりの気遣いからの言い回しだった可能性に気がつき、
『やるな、カリーナちゃん』
と彼女の後に続いて僕も体勢を低くしたま森の木々を縫う様に移動を始める。
しかし、大人と子供で移動速度が違うのでカリーナちゃんの後に僕が続くのは至って自然の事なのだが、僕の視界には先程からカリーナちゃんのお尻…というか大殿筋が右へ左へと揺れ動き、
『えぇい、気が散る!』
と思った瞬間にカリーナちゃんの大殿筋がキュッと引き締まりカルロな一面を見せたかと思うと、
「居た」
という囁きが男前な大殿筋の持ち主から聞こえ、僕の視界にはカリーナちゃんの大殿筋越しのなだらか斜面の下に跳ね鹿達の姿が見えたのだった。
『本当に声を辿って跳ね鹿に出会えた!』
と感動にも似た感情と共に、
『跳ね鹿の群れにたどり着いたけど…どうしようかな?』
と悩む僕にカリーナちゃんは、
「アルマちゃん、今日は一頭あれば十分かしら?」
と聞くので僕は、
「運び出せるのはカリーナちゃんしか居ないし一頭で十分だよ」
と伝えると彼女は、
「じゃあ、アルマちゃんは、あの立派な角のオスのも~っと向こう側にその杖で、ファイアボールを打ち込んでくれるかしら?」
という、僕としては、
「ファイアボールを飛ばすのは構わないけど当てなくていいの?」
カリーナちゃんに聞くのだが、彼女は、
「当てなくて良いからバーンとやってみて♡」
というお願いに、僕は、
「では!」
と小声で短く返事をして、赤ちゃんのガラガラみたいな杖を構えて杖の持ち手にあるボタンを押し込むと、魔術回路がカチリと繋がり魔石から魔力が回路へと流れ、紋様に刻まれた効果が発動し、魔道具の杖の先端から、
「ボッ」
と火の玉が飛び出し、跳ね鹿の群れの向こうへと飛んで行く。
現在の我が家は魔石不足状態であり、杖を直した後に起動確認の為に集落近くの池に向かって撃った以来の魔道具の杖の感覚に、
『あぁ、魔法を使ってるよ…快・感』
などとゾクゾクしちゃうである。
そんな僕の放った火の玉は、目的地までは距離もあり飛んでいる最中に魔法としての威力もかなり落ちたファイアボールで、
『有効射程としては五十メートルも無いな…近い程威力は出そうだけど』
などと折角魔道具の杖を使えるチャンスなので分析をしている、その音もなく飛んで行った火の玉が斜面の下でお食事中の跳ね鹿達の更に奥に到達した。
火の玉の軌道としては跳ね鹿達から警戒され難そうなやや上空を飛び、群れの先に着弾したソレが、
「ボッ!」
と、一瞬だけ燃え上がったインパクトは跳ね鹿を驚かせるには十分だったらしく、着弾したファイアボールの反対側へと群れが一斉に走りだす。
それはつまり、斜面の上のこちらへ向かい跳ね鹿達が押し寄せるという事である。
『群れが来る!』
と跳ね鹿達の迫力に少しビビる僕と違い、斜面の上の木の影に潜んでいたカリーナちゃんが腰から下げたバトルメイスを引き抜いて群れの前に立ちはだかると、その群れの中から立派な角を持つ一番大きなオス目掛けて、
「ふん!」
という男らしい吐息をもらしながら一撃をお見舞いする。
すると森には焦った跳ね鹿達の足音とは別に鈍い衝撃音が響き、オス鹿は事故でも起こしたバイクかの様に前方回転気味に近くの木にぶち当たり、低木をなぎ倒しながら停止したのだった。
あまりの出来事に唖然とする僕の横を跳ね鹿の群れが通り過ぎるとカリーナちゃんは、
「帰ったらウルソっちにもう1本ラブリースティックを作ってもらっちゃお。 やっぱり2本持たないと調子が出ないわ」
と何やらご不満な雰囲気である。
完全に沈黙しているオス鹿に近づきながらカリーナちゃんに僕は、
「一撃で仕留めたのに何が調子が悪かったのさ?」
と質問すると、彼女は残念そうに、
「群れのナンバー2みたいなオスもアタシの横を通ったのに手が出せなかったのよねぇ~、本当は両手に棍棒を持つスタイルだから左手にもラブリースティックを持ってたらって思ったら悔しくて、悔しくてぇ!」
と言ってから僕に、
「アルマちゃん、狙ったオスに逃げられちゃったアタシを慰めてくれるかしらん♡」
甘えるので僕は、モジモジと期待しているカリーナちゃんに、
「慰めはしないけど、一番大きな立派な角のオスを仕留めた事をスッゴク褒めてはあげるよ」
というとカリーナちゃんは、
「やったぁ! 褒められるって事はアルマちゃんからご褒美のチュウが貰えちゃうのかな?」
などと言っているので、僕は呆れた様に、
「チュウはしないけど、お風呂を沸かして一番風呂をプレゼントするよ」
と言いながら在らぬ方向に首が曲がっているオス鹿の側に立ち、改めてその大きさに驚きながらカリーナちゃんに、
「もう一頭倒さなくて正解かも…カリーナちゃんの武器が増えて、もう一頭倒せる様になる前にこれを複数運び出す方法を先に見つけないとね」
と伝えると、彼女も倒した獲物をしっかり確認した後に、
「アルマちゃん、今日はマジックバックは無いのよね…なら解体したら持ちにくいから血抜きだけしたらアタシが担いで帰るしかないわね」
と、カリーナちゃん的にも思いの外大物だったらしく微妙に後悔をしている風に見えた。
倒した跳ね鹿の足の筋の辺りを聖剣・正雄で切りつけた後に麻袋からロープを取り出して木に吊るして血が抜けるのを暫し待ちながら薬草などを周辺で探している時にカリーナちゃんに、僕は何気なく、
「なんで今日は乙女流星撃を出さなかったの?」
と聞くと彼女は、
「大きめの皮が欲しいからねぇ~、乙女流星撃なんて使ったら首がへし折れるのを通り越して首が爆散しちゃうじゃなぁ~い」
と、毒消し草をプチっと摘み取りながら答えてくれ、そのあまりの頼もしさに僕は、
「カリーナちゃんも冒険者登録しない? パーティー組もうよ」
と誘ってみたが、カリーナちゃんは、
「そのお誘いはいくらアルマちゃんの頼みでもお断りねっ♡ だって冒険者になったらアタシの居所がバレちゃうかもだモン」
と可愛く断られてしまい、なんかイケると思って告白したのにフラれたような気分の僕は、なんとも言えない微妙な気持ちのまま集落へと帰還したのであった。
そんなこんなで戦利品である跳ね鹿を両肩に渡す様に担いで前を歩くカリーナちゃんの逞しい背中を見ながら、僕は、
『必殺技をかけてるロビンマスクみたいな完璧な肉体だな』
などと感心していると、前方で何か有ったのか前を歩くカリーナちゃんの足がピタリと止まる。
僕が
「どうしたの?」
と彼女の逞しい過ぎる広背筋の横から前を覗き見ると、集落の仮の役場近くにはいつになく人が集まり、現在集落を代理で任されているマルテスさんが、
「やっと帰ってきた! アルマ君、急いで、急いで!!」
と焦り気味に僕を急かす様に呼びながらも自らも此方に走ってきたマルテスさんに僕が、
「こんなに大物が狩れましたよ。 それより慌ててどうしたんですか?」
と呑気な報告をしていると、マルテスさんは、
「獲物はカリーナさんにお任せして、とりあえずこちらへ」
と僕を引っ張ろうとする。
しかし僕は少し抵抗しながら、
「えっ、お客さんなら流石に軽く着替えた方が良くないですか?」
と訪ねるとマルテスさんがは、
「そのままで良いから! 私も生け贄なんてどう扱って良いか分からないですから…」
と何だか不吉なキーワードを口走っている。
僕は、聞き間違えの可能性から、
「えっ、今何と仰いました?」
と改めてきくが、マルテスさんから反ってきたのは、
「だから、アルマ君宛にマーキオ村から生け贄の女性が届いたんだよ!」
という、聞き間違えではなかったが、何一つ理解が出来ない答えであった。




