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前世の記憶が生えたとて、スキルなしには厳しいです  作者: ヒコしろう


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第44話 魔道具の杖

正直なところビックリカミングアウトがあり後半は猪鍋パーティーどころではなくなってしまったが、何とかスタッフの皆のスラムからの引っ越しが無事に終了した。


まだ牧場の母屋の二階部分や厩舎に放牧場の柵、それに農家サイドの家などの改修工事が終わっていないが、工事を請け負ってくれているあの店の常連の一人でもある大工のオッサンは、


「商人ギルドの兄ちゃんからは新築が建つ程の報酬を提示してもらってるから、拡張でも改造でも言ってくれや!」


と言ってくれたので、集落にて我が家に居候中の熊耳鍛冶職人のオルソさんに注文して作ってもらった薪風呂用の循環パイプと、今朝錬金ギルドで購入しておいた錬金石粘土に僕の手書きの図面を添えて、


「井戸場隣にこれで風呂を作って、その後に風呂小屋を頼みます。 お年寄りや子供も入るので湯船は浅めで跨ぎやすく、魔合金の手すりをココとココに…」


など細かく注文しておいたが、大工のオッサンは、


「こんなんで湯が勝手に釜から湯船に行くってのか?」


と信じていない様子だったが、集落の我が家にて実際に薪釜風呂を使った経験のあるカリーナちゃんが、


「アタシも最初はビックリしたんだけどぉ~、それがねっ、ちゃんと温かくなるのぉ!」


と大工のオッサンに熱く語ってくれ、大工のオッサンも半信半疑ではあるが、


「図面通りにバシッと仕上げるから、出来上がったらいっぺん入らせてくれるか?」


と楽しみに作業を引き受けてくれたのでお風呂問題は解決だろう。


あとは、引っ越し組には料理上手な方々も居るし、キッズ達もお手伝いなら出来るのでミルクムギチャ屋台で売る焼き菓子を母屋のキッチンにある薪オーブンで作る事からチャレンジしてもらい、このメンバーで稼げる方法を模索していくしかない。


そして僕は、今朝錬金ギルドにて魔道具を買い取ってもらったお金で手元に残っている半分ほどをファナさんに預けると、


「また半月後に創薬の初級錬金術師の試験を受けに来ますので、それまではこれでやりくりをお願いします」


と引っ越し組の日用品などの不足分の購入と、皆の食料の備蓄が寂しくなった場合の補充をお願いすると、ファナさんよりウチで商人としての道を一から頑張ると決めてくれたアクアさんの方が、


「アルマ様のお留守の間はファナさんのお役に立てるように頑張ります!」


と大変やる気になってくれていたので、あのチーム全体の中で一番心配だったメンバーが落ち着いて仕事に励んでくれる事になり一安心である。


ちなみに二番目だった心配はマゴスじーちゃんがポックリ逝った場合ちびっ子が第一発見者になってトラウマを刻まないかというものだったが、現時点で暫定一位に躍り出てしまった。


『頼む、マゴスじーちゃん。 ちびっ子達のハートが成長するまでは何とか長生きしてくれ』


と願いながら僕はカリーナちゃんと再び集落へ戻る事にした。


帰る前に二人で商業ギルドに寄り、正式に集落の我が家にて母さんから受け継いだマルシャン商会をオープンする報告と、今回の牧場取得や改修の件でお世話になっている商人ギルドのモンテさんにご挨拶に向かう。


久しぶりに会ったモンテさんは、


「あっ、つぎの集落への訪問担当が私だったからその時に詳しい報告をして驚かせたかったのに、もう現場を見てきたんですね」


と少し残念そうにしていたものの、


「ファベル準男爵様との交渉であの一等地の商会の建物と同額の報酬をいただきましたので、あの農業地区の土地は商人ギルドでもなかなか買い手がつかなかった牧場と捨て値でも先に現金化したかった老夫婦の畑と家でしたので、改修工事が終わってもかなり予算が余ってしまう計算ですから、牛魔物でも予約しておきますか?」


などと、改修工事についてお金の心配は全く無い事を教えてくれた。


その情報だけでも僕としては十分ビックリなのだが、


「実はスラムの働けない方々を牧場の従業員として雇った事にしたので、何らかの仕事をしてもらわないと町に届け出た手前、彼らに牧場の仕事をお願いしたいのですが、お年寄りやちびっ子に牛魔物は大変ではないですか?」


と相談した僕にモンテさんは、


「なら卵鳥牧場にしますか? 卵鳥なら少し暴れても子供の力でも制圧できますし、卵も売れるしオスなら頃合いを見て肉として出荷も出来ますよ」


と提案してくれた。


『卵鳥って、たしか前に騎士団のカパルさんとソロさんに連れて行ってもらったお店の看板商品の食材だったな』


と思い出した僕は、


『アレは美味しかったし、一般的に食べられているなら販売ルートも見つけ易いかも!』


と考えて、


「それってモンテさんの方で手配とかお願い出来ますか?」


と彼に聞くと、モンテさんはニッコリ微笑み、


「手数料をいただきます…と普通なら言いたい所ですが、多機能魔石式ライトの件で暫く我がファベルの各ギルド全体が恩恵にあずかれそうですので、ギルドマスター達からも特に気をかけて、他の町に越して行かない様にサポートするよう言われていますから、頑丈な飼育小屋も親方が建てくれますし、近隣の町を探して卵鳥も飼いやすくて病気に強い良い品種を集めてみせます」


と言ってくれたので、半月後には何らかの進展があるだろう。


あとは商人ギルドにてファベルの町のお店を幾つか紹介してもらい、集落の我が家の店舗スペースに並べる移住者を狙った石鹸やブラシに、厚手の布の反物や鍋やフライパンに鍬やスコップなどを購入してカリーナちゃんと二人で集落へと帰ったのであった。


それから道中でキャンプを一晩はさみ無事に集落まで帰ってきたのであるが、半月後にまた創薬系の初級錬金術師試験があるというのに工房にて僕は眠る時間も惜しい程に魔道具の研究に励んでいる。


ランプなどの生活魔道具の次の段階の魔道具というのが、まぁ面白いこと面白いこと…もうこんなのずっと実験していたい。


例えば以前ゴミ置場から改修された壊れた魔道具の杖は回路のレシピに照らし合わせると火属性魔法のファイアボールの杖のようだ。


魔石から一定量の魔力を取り出す回路から次は生活魔道具の点火棒にも使われている火の魔方陣を回路化した少し複雑な紋様の回路経由する。


すると次は炎を生み出す指令を帯びたその魔力を圧縮させる為のかなり繊細で複雑な模様の回路へと魔力は流れる。


あとは水生成水筒のように回路から離れた蓋の内側から水を作り出した要領で、仕上がった効果つきの魔力を任意の方向に魔力を流しやすい材料を使ったり、魔道具用のインクで道筋を作り誘導し、最後に魔力を加速させて飛ばす指示を与える魔術回路を挟めば、魔術回路の一番先っちょからテニスボール大の火球が現れて真っ直ぐに飛んで行くという仕組みである。


仕組みを調べる事を目的に壊れていた魔道具の杖を直した為に修復されたコイツは錬金ギルドで買い取ってはもらえないので、自動的に僕の新装備に追加される事になるが、


『やっと魔法が撃てる!』


と、魔方陣で魔法を使っている気分を味わって我慢していた自分におさらば出来る事になったのであるが、問題はこの杖がファイアボールの魔道具の杖という事で、


『火事が怖くて自宅では使えないし、森で使うにしても山火事が怖いからバンバン撃ちまくれないか…』


という事だけが不満である。


どうやら資料にある記述では威力的には火魔法スキル持ちのファイアボールに遠く及ばないが、虫魔物なら大概一撃で倒せ、カスッただけで羽を焼いたりと動きを封じ、角ウサギでも直撃ならば一撃で狩れるらしいが、どう考えても毛皮の買い取りについては残念な事になりそうだ。


そしてこの杖をちゃんとレシピ通りに作れば金貨5枚となる。


まぁ、【杖】と言われているが見た目は魔術回路と魔石を収める円筒状のパーツに持ち手がついた赤ちゃんのガラガラっぽい間抜けなフォルムで、


『魔法は撃てるが、見た目がなぁ~』


と感じる僕であるが、金の為ならこの魔法が撃てるガラガラを大量生産するのはなんの問題も無く、ただ自分用のはもっと良い感じな見た目に改造すれば良い話である。


それに材料費を差し引いても3本も作れば白金貨一枚ちょっとになり、角ウサギ狩りを1ヶ月ほど頑張ったのと同じぐらいの稼ぎとなるので、自分のは後回しにしてでも杖を30本は作ってイザという時の資金を一千万円分となる白金貨10枚は貯めておきたい。


『奴隷の相場なんて知らないけど、オルス君とルーチェちゃんを解放する為に白金貨10枚あれば手付金ぐらいにはなるかな?』


という理由からであるが、その前に我が家は現在大きな問題にぶち当たっている。


それは、


『ルーターの魔道具を動かす魔石すら在庫切れである』


という切実な物だ。


今までは魔石ライトの起動チェックとルーターの動力の他は日々の灯り用で使っていた角ウサギや森ネズミの魔石であるが、試験勉強に集中する為に狩りを疎かにしていたツケが回って来たところに、魔道具の杖の起動チェックは3発も撃てば角ウサギの小魔石が失くなる程に魔力を食う。


『なら、自前の魔力で撃てばいいじゃないの?』


と思うだろうが、回路が安全に起動する一定量を流すのが難しく、それならば魔法学校に通い基礎から学んで、クソ長い詠唱により極限まで集中を高めて空中に己の魔力を使い魔法陣を描きそこに魔力をドカンと流し込めばスキルが無くても魔道具の杖なんて目じゃない破壊力の魔法が撃てるのでそちらをオススメする。


まぁ、馬鹿みたいに金持ちならば、この五十万円相当の杖を消耗品として魔石ではなく己の魔力を全力で流せば一撃…まぁ、運が良ければ二撃ぐらいなら魔法スキル持ちのほどの威力を再現できる。


しかし、この《《バースト運用》》と呼ばれる戦法にはリスクが伴い、使用者にダメージが入る魔力暴発(マナバーン)が起こってしまう可能性があり、上手く発動すれば敵に大ダメージが入るかもしれないが、暴発すれば自分だけが酷い目に逢い、上級ポーションをがぶ飲みした上でお高い魔道具の杖も再起不能となり、お財布にもダイレクトアタックとなる博打戦法でもあるのだ。


このゴミ置場で拾ったこの魔道具の杖も魔石切れでやむを得ずに己の力で魔法を放ったのか、暴発はしないまでも強い魔力負荷で圧縮の回路が焼ききれて使用不能になっていたと思われる。


『緊急事態なら仕方ないのかな? 僕は魔術回路を直せるかメンテナンス後に一撃ならバースト運用とやらも使えて、そんなにお財布にダメージは入らないけど、何度も修理した回路なんて暴発のリスクも上りそうだからバースト運用は怖くて使えないな』


と思うので、我が家に残る最後の魔石をファイアボールの杖にインして、


『魔石でちゃんと運用しよう!』


と心に決めて、開店準備の終了したカリーナちゃんに、 


「ねぇ、ねぇ、夏も終わったし、そろそろ冬の蓄え用のお肉を一緒に狩りに行って欲しいなぁ~」


とおねだりすると、カリーナちゃんは、


「あら、デート? でも勉強は良いのかしらん?!」


というカリーナちゃんに僕は、


「魔石が無いと魔道具が作れないし、秋のうちに薬草とかも集めないとね。 最悪創薬の初級錬金術師試験は落ちても半月後に再チャレンジしたら良いだけだし、今はお肉と魔石が優先だよ」


というと、カリーナちゃんは、


「だったらアルマちゃん、アタシは倒した魔物の皮が欲しいなぁ~」


と可愛くおねだりするので、


『冬用の毛皮の服でも作りたいのかな?』


と感じた僕は、


「集落で一緒に狩りをする時はお肉と魔石以外はカリーナちゃんの好きにしていいよ」


と、最強のボディーガードでもあるカリーナちゃんへの報酬として魔物素材をプレゼンする約束をしたのだった。

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