第41話 グランのお見合い
意図せず最強の護衛を味方につけていた僕は、その後何の不安もなく集落の我が家へと帰る事が出来た。
カリーナちゃんという味が濃いめのキャラを連れて帰って来た僕を見て、我が家でお留守番をしてくれていたウルソさんはとてもビックリしていたが、流石はあの飲み屋の常連ズの一人を師匠に持つだけはあり、
「もしかして、アルマ君の彼女さんですか?!」
という盛大な勘違いこそあったが、その勘違いのおかげでカリーナちゃんから、
「あら、嬉しい! チュウしてあげよっか?!」
などとからかわれても、
「アルマ君に悪いですから」
と瞬時に切り返して、なにやら会話が弾んですぐに打ち解けていた。
そんな感じで我が家での顔合わせも無事に終り、次は仮の役場に向かいウチの子になったメス馬のムギチャをマルテスさん達や派遣されている騎士団の方々にも御披露目して、
「グランの彼女候補のムギチャです」
と紹介したのであるが、マルテスさんたち役場の職員さん達はムギチャを全く見ずに僕の隣でニコニコしているカリーナちゃんばかりを見て、
「こちらの方は?」
と僕に質問してくる。
その質問に僕が、
「あぁ、僕の商会の…」
と説明するのを遮るようにカリーナちゃんは、皆さんに、
「アルマちゃんの商会の商人の彼女候補というか、むしろ嫁のカリーナですぅ~」
と挨拶をして、軽く皆さんの表情を引きつらせていた。
カリーナちゃんの自己紹介から不思議な間が少しあったが、ようやくフリーズ状態から復旧した騎士団の方々が、
「も、もう! 冗談でしょ…ビックリしましたよぉ~ハハッ」
と言って笑っているが、目にはまだ戸惑いの色が見える。
そんな騎士団の方をからかう様にカリーナちゃんも、
「あら、そんなにお似合いでした? アタシって実はアルマちゃんの商会の商人なんですのよん♡」
などと笑っていたが、しかし、先程のカリーナちゃんの自己紹介を何故かマルテスさんだけは本気にしたのか、早々にカリーナちゃん達が楽しげにネタばらしをしている輪から離れて僕の隣に移動してきたかと思うと、
「ご両親やこの集落で起きた事や、その後のダッシュボアの件も知っている。 だから強さに憧れて安心を求める気持ちは理解出来ない訳ではないが、アルマ君はまだ若い…まだ己の性癖を決めるには早すぎる。 たぶん一瞬の気の迷いで心の弱い所にスルリと忍び込まれただけだと私は思うぞ」
と何やら僕の眼を見て真剣に語りかけてくれているのだった。
僕はそんな真剣なマルテスさんに、
「大丈夫ですよ。 あれは彼女なりの冗談で…」
とカリーナちゃんの事を説明しようとするのだが、マルテスさんは益々真剣な表情になり、
「《《彼女》》…だと…」
と呟いたかと思うと、彼はガシッと僕の両肩を掴んで前後にシェイクさせながら、
「気を確り保つんだアルマ君! アノ者は男性だぞ。 君にはアレが…おのれぇ、精神操作系のスキル持ちか!?」
と、カリーナちゃんに敵意を向ける。
「いや、カリーナちゃんは棍棒のウェポンスキルでして」
と、追加で説明する僕を無視してマルテスさんは、カリーナちゃんと談笑している他のメンバーを見て、
「まさか、皆も惑わされているのか!? えぇい、ファベル準男爵家の文官頭であるこの私の精神操作無効のスキルの前では魅了や幻惑の類いは効かぬと知れ!」
などと軽い騒ぎにはなってしまったが、流石はコミュニケーション能力の高いカリーナちゃんだけはあり、この後すぐにマルテスさんとも先程のやり取りで笑い合う関係になっていたのだった。
そんなご挨拶イベントがやっと終わったのだが、本番はここからでムギチャをグランに紹介する為にグランが小型重機代わりに働くお屋敷の建設現場へと向かう事にする。
道中にある放牧エリアの牛魔物や、夏前に毛を刈り取ってサッパリしている羊魔物達に、
「新しい仲間のムギチャだよ」
と軽く挨拶をしてから建設現場を訪れたのだが、案の定というか大工の親方達は物珍しそうにカリーナちゃんに群がっていたが、こんな感じのオッサンや職人達を相手するのに慣れているのかカリーナちゃんはたちまち皆の人気者になっていた。
しかし、問題はグランである。
この一年近く同族といえば騎士団さんの連れている軍用馬以外になく、向こうは馬車を引いたり馬鎧を着たお仕事中の方々ばかりで、簡単に言ったらグランからすれば軍服の厳つい男性のなかに一人か二人混ざっている軍服レディーに声などかけれずモヤモヤしていたのだろう。
そんな中で今回は、作業着姿で来る日も来る日も肉体労働をしている様なグランの元に、若い私服の女性が現れたのにも等しく、そりゃあもう興奮する興奮する。
グランのヤツは上唇をめくり上げ、鼻息も荒く空気中に漂うメスの香りを探すかの様に首を伸ばすと、グランのリトルグランがリトルではなくなり、まるで彼も深呼吸をするかの様に元気に外へと飛び出している。
そんな醜態を見せられた日には、幼い頃より一緒に育った僕の方が幼馴染みのやるせない程のオスの本能を見せられて何故か恥ずかしくなる。
とまぁ、そんな感じでガツガツしている残念なオスを冷ややかに見つめるムギチャは飼い主のはずの僕ではなく、道中で見た森狼を乙女流棍棒術奥義、乙女流星撃 (※本当はちゃんとした名前があるらしい) で一撃で仕留めたカリーナちゃんの強さを見て、
【カリーナちゃん > 自分 > 僕】
という序列が出来上がっているらしく、何故かカリーナちゃんにスリ寄るムギチャは、
『ご主人、なんすですか? あのチ○コ野郎は』
という顔で助けを求め、カリーナちゃんから、
「ガッつく男はイマイチだろうけど、ムギっちの魅力にメロメロなだけだから、少し落ち着くまで待ってやんなよ」
とムギチャの頸元を軽く撫でながら説得してくれており、僕の方もこの後に仕事に戻れるか不安になるぐらい興奮しているグランに、
「まずは落ち着けグラン、とりあえずソレを仕舞え! ムギチャとの正式対面はその後だ。 頼むからお前の一人息子の紹介はもっとムギチャとの仲が深まってからにしろ!」
とグランに注意すると賢いグランは僕の言葉の意味がわかったのかシュンとなって、グランの一人息子も一緒にシュンとなり、
『失礼しました』
みたいに我が家へと戻ってくれた。
しかし、出会って数秒で真ん中の足をご披露したグランがこのあとで、どんなに涼しい顔でムギチャに改めて挨拶をしても、ムギチャの中ではマイナス評価からのスタートとなったらしい。
僕としては、
『頑張れ、グラン!』
と心の中で応援しながら、そっけなくムギチャにあしらわれながらも何度か彼女とお近づきになろうと必死なグランをしばらく見守っていた。
しかし、幼い時からグランを見てきた僕には、
『あっ、ダメだ、ついにハートにダメージが入ったな…』
と、グランの目の奥が悲しみの色に染まったのが分かり、
『はい、終了ぉ~!』
と、第一回お見合いチャレンジの終了宣言がなされる事になったのだった。
そんな傷心のグランに僕は、、
「まぁ、どうしてもならファベルの町に牧場を持ったからメス馬を集めてお見合いパーティーを開いてやるから…」
と頸元を軽く擦って慰めた後に、彼方では変なオスを紹介されてウンザリしているムギチャを宥めているカリーナちゃんに、
「残念な感じになったけど、あとは二人の問題だからお互いに任せようかカリーナちゃん」
と、ムギチャの実質上のご主人様であるカリーナちゃんに同意を求めると、カリーナちゃんはカリーナちゃんで、ムギチャに小声で、
「アタシはグランちゃんはアリだと思うけど、ムギっちがど~しても無理なら他のメンズをアルマちゃんにおねだりしてあげるからね」
などと、ムギチャに提案していたのであった。
『なんだが、誰も幸せに成らないお見合いだったな…』
などと残念な気持ちでムギチャを厩舎へと連れていったその足で我が家へと戻ったのであった。
その後、我が家へと到着して荷馬車の荷物を工房へと運び入れ、
「アルマちゃん、すっごく広いじゃない! この玄関横のスペースは何?!」
などとカリーナちゃんによるお宅探訪が始まる。
僕はカリーナちゃんに自宅を案内して回りながら、
「あぁ、ここは母さんがやっていた雑貨屋のスペースのつもりだよ。 看板だけは引き継いでいたからね…まさか名前だけだけど自分の商会を持つなんてね」
などと説明するとカリーナちゃんは、
「そうか! ファベルの牧場やミルクムギチャの屋台はここの傘下って事になったもんね」
と商人としての知識も頑張って覚えてくれたカリーナちゃんには、牧場の経営に必要な登録料を少しでも安くする為に新規開業ではなくて、この集落の名前だけの雑貨屋の事業拡大という形で必要な登録料を安い枠にした上に、本店と支店が手分けして払う登録料のメイン側の本店が準開拓地の為に無料となる仕組みを把握しており、
「やるじゃない。 よっアルマ会長、流石だねっ!」
と褒めてくれたのだが、彼女はガラガラの本店スペースを見て、
「でも、それならこれじゃあ勿体無いわねぇ~」
と言い出すと、彼女は暫く、
「う~ん」
と唸ったかと思えば、
「ヨシ決めた! アタシがアルマちゃんのママのお店を復活させちゃうわっ♡」
と言い出す。
彼女の計算では、
「寝起きするお部屋も有るし、町に商品を買い付けに行く荷馬車も有るし、店も有る。 それに可愛い売り子も居るとなればお店の登録料とかギルドに年会費も払ってるんだからやらないのは勿体無いよ!」
ということらしい。
僕が、
「でも、買いに来る人が…」
というと、カリーナちゃんは、
「そのうち人は増えるし、なんならファベルの町に行く道中だから下の寂れた何とか村で行商すれば良いだけだからっ! ねっ、お店を開いてみようよぉ~会長ぉ~♡」
と悶えている。
『あっ、僕の隣で悶える愛人風の女性枠はカリーナちゃんなんだね』
と理解した僕の脳内では、夢があるグループの社長さんと隣の愛人風の女性が何故か笑顔でウンウンと頷いている映像が浮かんだのだった。




