第4話 詰所でお泊まり
アディンさんが屋台で買って来てくれた凄く遅い昼食と言うのか、少し早い夕食と言うのかよく分からない食事は大変ボリューミーで、村を離れてから今日までで一番豪華な食事であった。
アディンさんは、
「スマンなアルマ少年はまだ子供だからこんなに量は要らなかったんだな」
などと、この食事を兵士仲間の一食分の感覚で用意してくれたらしく、
『古着の時もそうだったが、アディンさんは子供とか縁遠い生活だったんだろうなぁ~』
と思いながらも僕は、
「ありがとうございました。 食べきれなかった分は夜食にしますので丁度良かったです」
と、お腹一杯食べてほっこりしている僕の近くで何やら書き物仕事をしているアディンさんに感謝を伝えると、彼は、
「えっ、夜勤の奴に保護しているアルマ少年の夕食の用意を申し送る為に書類を書いている最中なんだけど?」
と驚いており、そのセリフに僕としては、
『いや、そんなに食えないから勘弁して下さい』
という気持ちで苦笑いしていると、僕の本日のお宿代わりとなっている医務室の隅にてそのやり取りを聞いていたリーパさんが、
「アディンよ、数時間後にまた飯を食わす予定だったのか?」
と呆れながら、
「なら、夕食は焼き菓子とかパンなんかの日持ちのする軽い物を頼んでおいてやんな」
とアディンさんにアドバイスしてくれ、僕に、
「それなら明日以降の非常食として鞄に入れておけるだろ? ポーションの代金と一緒で飯代もアルマに迷惑をかけた奴らから払ってもらうから気にせずに買って貰えば良い」
と、悪戯っ子みたいな良い顔で笑っている。
僕はそんな有難い提案に、
「良いんですかね?」
と、素朴な疑問をリーパさん達に投げ掛けると二人は笑いながら、半月ほど前に有った騎士団長さんの四男坊が率いる駆け出し冒険者チームと、薬草を摘みに森近くに出かけていた町の薬師見習いとの間に有った魔物の擦り付けの疑いで、今日の様にギルマスと騎士団長さんが言い合った一件を話してくれ、アディンさんは、
「前回もダッシュボアを擦り付けた疑いだったし、被害にあった薬師見習いの少年も必死で逃げたら逃げ切れたと言っていたから何の証拠もなかったんだ。 それに騎士団長さんも息子可愛さに一旦不問という処置になったが…」
と、そこまで言うとリーパさんが、
「まぁ、前回は安い骨製の矢とかでダッシュボアを狩ろうとして矢も刺さらずに怒らせただけで失敗したとかだろうさ、でも、今回は鉄製の矢を用意してリベンジに向かって、見事に矢を命中はさせたが思いっきり怒らせただけで再び逃げ出したとかがオチだろうな」
と推測を語ると、僕に向かい、
「冒険者ギルドからも、また同じような訴えが無いか注意する様に言われていた所に持ってきて、ダッシュボアの皮で股間を隠したアルマがダッシュボアの魔石と共に持ち主が分かる証拠の矢じりまで提出したんだ。 これはもう前回の様に言い逃れはできんだろう」
と言った所で、
「コンコンコン」
と、医務室の扉が軽くノックされる。
すると、
「入るぞ」
という声と共に先程から更に老けた様に見える兵士長さんが、
「やっと終わった…ほら、古着屋の女将が急ぎで仕上げて届けてくれたぞ」
と僕の新しい着替えを手に部屋に入ってきたのだった。
アディンさんが、
「兵士長殿…大丈夫ですか?」
と心配する声に、兵士長さんは、
「事件については今回は流石に騎士団長殿も観念したらしく前回よりは揉めなかったが、あの二人が今度は親としての責任とギルドの長としての冒険者の教育の責任でね…そんなのコッチには関係ないのに」
と少し愚痴った後に、僕に向かい、
「アルマ君だったか、君も災難だったね」
との労いの言葉をかけてくれ、そして、
「命の危機を乗り越えた君の前では私の苦労なんて些細な事かもしれないと自分に言い聞かせて頑張って来たよ…」
と、力なく微笑む兵士長さんに中間管理職の悲哀を感じた僕は、
「服や食事に宿まで、何から何までお世話になって大変感謝しています」
と頭を下げて感謝を伝えると、兵士長さんは、「アハハ…」と力の抜けた笑いの後に
「そう言って貰えたら頑張った甲斐があるよ」
と、少しは元気が出た表情になってくれ、そして明日以降の僕の予定と、この一件の落とし処についての話をしてくれたのである。
どうやら、明日にも冒険者ギルド主導にて今回の件の尋問が行われ、そこで四男坊チームの犯行が確定すると成人前の四男坊率いる駆け出し冒険者チームの罪は保護者にも関係するらしく、騎士団長をはじめとしてこの町の有力者が数名ほど少し面倒な事になるそうだ。
そうなると前回の薬師見習いの一件も再び問題になるだろうが、あちらは、
『障害未遂事件』
程度なのでお金で示談に持って行ける。
しかし、僕の場合は怪我どころか下手をすると死んでいた為に、
『殺人未遂』
として動くか、
『傷害罪』
で対処するかであちら側の罪が変わってくるらしい。
そして一番の問題は、この町の治安を守っている兵士さんよりも上の組織である騎士団の長の息子がやらかした事により、騎士団長さんに大ダメージが入る事が避けられず、騎士団長さんの上司で町を預かる代官さんとしても大変頭の痛いトラブルに発展する事がほぼ確定している事である。
『いや、そんな事を僕に言われましても…』
と思ってしまうが、前世の知識から、
『お代官様としては部下のスキャンダルで住民を動揺させたりしたら領主様からお叱りを受けたり、下手をしたらクビを宣告される可能性もあるって事か…』
と、ご本人の預かり知らない所で起きた厄介事で立場が危うくなる偉いさんの事が何となく想像出来てしまい、
「いや、あの冒険者達が二度と擦り付けなんかしなくなれば僕としてはそこまでは…」
と、僕としても必要以上に大事になるのは望んでいない事を告げると、兵士長さんはキラキラした目になり、
「良いの? アルマ君は死にかけたんだよ!?」
と口では僕を心配する様な事を言っているが、兵士長さんの顔には、
『やったぁ! 被害者本人が重い罰を望んで無いのなら助かるぅ~』
と思いっきり太字で書いてある様な表情であった。
すると、それを隣で聞いていたリーパさんが、
「兵士長、笑えない悪さをした冒険者への罰を騎士団長殿やお代官様の為に軽い物にするのは表向きには構わないが、アルマ君は命懸けでダッシュボアと戦い大怪我をしたんだから、取れるモンだけは確り取ってやってくれよ!」
と僕の側に立って意見してくれ、アディンさんも、
「なら、アルマは貰えるなら何が欲しい? 装備とかお金とか…お代官様と交渉したら学校とかも無料で行けるかも!」
などと言ってくれたのだが、色々有り過ぎた1日な上に、久しぶりに腹一杯食べた事により、もう気絶しそうに眠たくなった僕が、
「それって今日中に決めないと駄目でしょうか? その…」
と言いかけると、流石は兵士長さんと言うべきか、彼はピンと来たようで、
「そうだね、今日はゆっくり休むと良い。 だれか家の者が居るなら使いの者に兵士の詰所にて保護している事を伝言させるが?」
と言ってくれ、僕が、
「お気遣いありがとうございます。 僕は現在スラム地区にてほぼ野宿ですので待っている家族も居ませんからお構い無く」
と伝えると、兵士長さんは、
『あっ、悪い事を聞いたか?』
などとでも言いたそうな顔になり、治療の時に僕の身の上話を聞いていたリーパさんが、
「兵士長、アルマの為に加害者達の親から家の1つでも捥ぎ取ってやって下さいよ」
などと兵士長さんに圧をかけると、兵士長さんは再び少し老けこんだ顔になり、
「う~ん…家かぁ…頑張ってはみる」
と、力なく答える兵士長さんを見て僕は、
『リーパさんからの無茶振りに分かりやすくテンションが下がったな…』
と顔に気持ちが出やすい兵士長さんを少し気の毒には思ったが、もう眠気マックスなので、
「では、すみませんが休ませていただます」
とだけ告げて、届いた服に着替えた後に医務室のベッドの1つを借りて眠る事にしたのであった。
『あっ、ベッドなんて何ヵ月ぶりだろう? 凄く眠れそう…だよ…』




