第3話 カオスな現場
生皮のフンドシ姿のまま町に帰ったのだが、案の定というか僕は町の入り口の門で止められてしまい、別室へ連れていかれる事になった。
門兵さんが僕の顔を覚えていてくれた為に、
「変な格好の奴は帰れ!」
と追い返されてフンドシ姿のまま町から追放される事はなかったが、
「おいおい、流石にそれで町に入るのは…」
という事で門に併設された兵士の詰所の一室にて生皮フンドシ姿になった経緯を手に入れた金属製の矢じりも見せて話すと、門兵さんは頭をおさえながら、
「これは大事になるなぁ」
と呟いた後、一緒に事情聴取に同席してくれていた仲間の門兵さんに、
「すまないが冒険者ギルドからギルマスを呼んできてくれないか?」
といって、僕には、
「俺もちょっと出かけるが、お前は傷の手当からだ」
と言って、
「ほれ、医務室に行くぞ」
と僕は再び違う部屋へと誘導されたのだった。
新たに連れて来られた部屋にて、ここまで担当してくれた兵士さんは医務室担当の年配の兵士さんに何やらゴニョゴニョと耳元で説明をすると、
「俺が下着とズボン…って、シャツもボロボロだな。 まぁ、適当にみつくろって買って来てやるからしばらく医務室のベッドの換えシーツでも巻いとけ」
とシーツを投げてよこそうとするが、医務室担当の兵士さんに、
「先に体を綺麗にして傷の手当てが先だから、アディンは早く騎士団の所へ走らんか」
と呆れた様に促され、アディンさんと言われた兵士さんは、
「後は頼む」
とだけ言って出ていってしまった。
医務室に残された僕は初めて見る年配の兵士さんの二人だけとなり、大変気まずい空気を感じていると、年配の兵士さんはおもむろにニヤリと笑顔をつくり、
「では脱ぎなさい」
と、僕に指示してくる。
前世の知識とか関係なく動物的な勘で、
『ひぃ、変態さんかも!?』
と怯える僕を見て、年配の兵士さんは一瞬戸惑った後に、
「違う、違う、違う!」
と慌てたように、
「顔が怖いからと孫にまで泣かれているから怖がらせない様に笑顔を頑張って作ってみたが、違った怖さを与えてしまったらしい」
などと弁明すると、今度は自然な笑顔で、
「長年兵士をやっているリーパだ。 今は医務室や倉庫番担当で楽をさせてもらっている」
と自己紹介してくれ、
『良かった…変態さんではなかった』
と安心した僕は、
「あっ、アルマです。 はじめましてリーパさん」
と自己紹介をして頭を下げると、リーパさんは、
「おっ、アルマだな。なかなか礼儀正しいじゃないか!」
と褒めてくれ、そして、
「湯を沸かしてやるから体を洗ってさっぱりしたら傷の手当てをしてやろう」
と言ってゴソゴソと準備を始めてくれたのだった。
スラム地区在住の僕は最近では井戸や川の水で体を拭く程度である為に、
「お湯で体を? 良いんですか!」
と素直に喜ぶと、それを聞いたリーパさんは、
「苦労してるんだな…」
と色々と察して同情してくれたらしく、それからしばらくは体を洗ったり傷のチェックをしながら僕の身の上話を聞いてくれたのだった。
そして僕がファベルの町に流れてきた事や今日の出来事 (前世オッサンを省く) など僕に起こった全てを聞いたリーパさんは完全に僕側の味方になってくれたみたいで、
「そんな頑張っているアルマにダッシュボアを擦り付けたのか…許せんな!」
と、奴らの悪行に怒ってくれ、
「擦り付けた奴らやその親から使った分の代金は取り立ててやれば良いから上級ポーションを飲みなさい」
などと言って医務室の上等な方のポーションを差し出してくれたのだった。
今の僕には目ん玉が飛び出る程の高級品である初めての上級ポーションの味は、
『うん、体には良さそう』
という何とも微妙な物であったが、流石は上級ポーションというべきか、腕の深めの傷はまだ完全ではないが擦り傷や打撲の青あざは殆んど無くなり、その効果に驚く僕にリーパさんは、
「ありゃ、腕の傷はかなり深かったからか…仕方ないな、もう一本飲んどくか?」
などと言ってくれたのだった。
だけど、あまり美味しいとは言えない味と、今の暮らしでは低級ポーションすら満足に買えないのに上級ポーションという事から、慌てて、
「いえ、もう十分です。 あとは傷軟膏でも塗っておけばそのうち治りますから」
と遠慮をする僕にリーパさんは、
「そうか」
と言うと、
「こんなのなら医務室に常備されとるから着ておきなさい」
と、アディンさんはシーツを巻いておけと言っていたが、どうやら医務室にはシャツとパンツの替えが常備されていたらしい。
そんな訳で、現在は大人用のブカブカな肌着を腰の辺りでヒモで縛って着ている状態の僕に向けてリーパさんは、
「これから冒険者ギルドのギルマスやら騎士団長さんなんていう偉いさんの前に出るからな…もしかしたらアディンが服を買って帰ってくる前にお偉いさんが来るかも知れんから、ワシの上着でも羽織っておくか?」
などと聞き捨てならないセリフが混じった質問を聞いてきた。
僕はその質問の答えより先に、
「えっ、偉いさんの前に出る?!」
というキーワードに驚いてしまう。
しかしリーパさんは、
「そりゃあ、故意の魔物の擦り付けは犯罪だし、証拠としてアディンに見せた矢じりは騎士団長さんところの四男坊がリーダーの冒険者チームの印が入っていたらしいからな…」
などと、さも『当たり前だろ?』みたいな顔でこちらを見ている。
『ギルドにチクって奴らをギャフンと言わせてやる!』
と擦り付けを行った連中に制裁を考えていた僕でも、
「四男坊…ですか…」
と、思いもよらない大事になりそうな気配に少しビビったが、僕の中の前世の僕が、
『まぁ、こっちも死にかけたんだし、罪は罪だもんな。 騎士団長さんところのボンボンだろうと容赦する事はない!』
と全うな意見で鼓舞してくれ、
『よし、この際だから奴らのリーダーのパパやギルマスにも今回の件をキッチリ文句を言ってやってやる!』
と覚悟を決める事ができたのだった。
それから暫くして、現在僕が呼び出された広くて立派な門兵さん達の詰所の一室は大変カオスな状況になっている。
息子の悪行を知らされた騎士団長さんという屈強な男性が、
「まだ本当にデセオ達がやったと決まった訳では…」
と息子を庇うと、僕も初めて間近で見るこの町の冒険者ギルドの長であるギルドマスターさんが、
「前も言ったよな! 次に擦り付けの告発があった場合は審問官でも呼んできて嘘すらつけない状況で洗いざらい吐かせるぞって」
などと、どちらが偉いかは知らないが、この町の騎士団長さんにも構わず真っ赤な顔で怒鳴っており、門兵のアディンさんの上司である兵士長さんが、
「まぁまぁ、お二人とも…」
と二人の間に挟まれながら必死で宥めている。
そして僕はというと、同じ部屋にて中古の服を扱う露店の奥様が、
「兵士の兄さんは、《《これぐらい》》の背丈の少年に合う服を…なんて言ってきたけど、そんなもの実際に本人が来るか寸法を計ってから来ないと、どれが着られるかなんてワタシャ分からないわ!」
と、アディンさんにヤイヤイと怒りながらも僕を採寸してくれている。
僕はプリプリ怒っている奥様に、
「お手数かけてスミマセン…」
とアディンさんを守る為に頭を下げており、どうやら騎士団長さんを呼びに走った帰りで僕の着替えを買う為に立ち寄ったこの奥様の店からずっと彼女に文句を言われているであろうアディンさんは既に死んだ魚の様な目で、
「少々ブカブカでも良かったから…」
と奥様に聞こえない程度の小声でボヤいている。
あまりのこの部屋の状況に、僕としても、
『もう許して上げて!』
とは思うが、もうあっちもこっちも同時進行で進んでおり、古着屋の奥様が、
「よし、裾上げは必要だけどウチに有る品物で大概そろうね。 だけど下着だけは古着は嫌だろうから娘の店から新しいのを持ってきてあげるよ」
と僕に言った後に、言い争っているお偉いさんチームに、
「で、結局のところ誰がお代を払ってくれるんだい?」
と聞くと、サンドイッチの具材のようにお偉いさんに挟まれたままの兵士長さんが、
「まだ本当に擦り付けがあったかハッキリしないから一旦私がお支払しますので!」
と、騎士団長さんとギルマスの隙間から答えると、古着屋の奥様が、
「この子が払うのなら値引きしてあげたかったけど、違うのなら値引きは無しだね…ここまで来た手間賃もつけてやろうかな?」
などと言っているのを、アディンさんは、
「あんたじゃ話に成らないからって勝手に来たクセに」
と再び小声で愚痴っているのを奥様はノールックのまま、
「聞こえてるよ兄さん」
とだけ言うと、僕の服を用意して裾上げをするために店に帰るべく部屋を出て行ってしまった。
すると部屋での言い争いは騎士団長さんとギルマスの組だけになり、こちらは言わば犯罪事件の捜査についてのやり取りがメインの為に被害者である僕がどうのこうのと言う事もなく、アディンさんに、
「これ、僕って要ります?」
と聞くと、嫌味を散々言われていた奥様が帰ってホッとしたアディンさんは、
「今着ているブカブカの下着姿で家には帰れないだろうし、服が届いても今回の件でまたすぐに呼び出される可能性が高いから兵士長からは許可が出ているので今日は医務室に泊まりなよ」
と言うと、彼はチラリとまだ揉めているチームを見て軽くタメ息をついた後に、
「兵士長、アルマ少年がダッシュボアとの戦闘の疲れを訴えております。 上級ポーションで傷は殆んど癒えておりますが、失った血が足りないと思われますので何か栄養のある物と休息を…」
と、加害者の親である騎士団長さんと加害者も所属しているギルドの長に聞こえる様に、僕が怪我をしていた事を伝えてくれると、ようやく二人も僕という被害者の存在を思い出してくれた様で、
『あっ! 忘れてた』
みたいな顔で少し静かになり、間に挟まれていた兵士長さんも、やっと新鮮な空気が吸えた様で、
「ふぅ~」
と長い息を吐いた後に、アディンさんに、
「うん、悪いんだけどアディン君、アルマ君に何か買って来て食べさせてあげて」
と告げると、アディンさんは、
「了解しました!」
と元気良く返事をすると、僕にはだけ分かる様に目配せして、
「ほら、行くよ」
と、ほとんど声を出さずに口だけを動かし、一刻もはやくこのカオスな現場からの離脱を促すのだった。




