第38話 賑やかになる
皆が眠る墓地の片隅の花壇に春に蒔いた花の種から早いものは花をつけはじめ少し賑やかになった夏の日に、僕は両親達のお墓周りの草引きをしながら、
『みんな、来月には前世でいう初盆だし、こっちの世界にはそんな風習って無さそうだけど、何だかモヤモヤするから墓掃除はしとくね』
などと心の中で呟き、草を引き終えて綺麗になった墓地にて並んで眠る両親のお墓の前で、
「お父さん、お母さん、まだどんな所になるか分からないけど、なんか町に牧場を持つ事になりました」
などと僕が近況報告していると、珍しく集落に荷馬車が数台やって来た。
『ん? 次の騎士団の方々の交代にはまだ一週間ほど早いし…誰だろうか』
と掃除も近況報告も終えた僕は、集落の一番端っこにある見晴らしのいい墓地から、荷馬車の停車した集落の中心の広場を目指して歩き始めた。
すると荷馬車から降りた人影も何やら広場にて集落に派遣されている騎士団の方々と話した後に、どうやら彼方からも僕を見つけて歩いてくる。
数名の人影の先頭で、
「お~い、アルマぁ~! 持って来てやったぞぉ~」
と手を振る人物は、マドラのオッサンであり、その後には何故かあの飲み屋で見た事のある常連ズのオッサン数名がゾロゾロとついてきて、
「ここが、フンドシ村だろ? なかなか広くて景色も良いな」
とか、
「久しぶりだな、この前フンドシ戦士がファベルに帰還ていた噂を聞いたのに顔を見せなかったってカサドルが泣いてたぜ」
だの、
「アディンの野郎がべっぴんさんをつかまえて、親父さんの店にめっきり来なくなってよぉ」
などと、好き勝手な話をしてくるが、僕としては、
『なんでこのメンバーがウチの集落に…あとフンドシ村って何だよ!?』
と、あの店で僕に少し嫌な思い出を作ってくれたという、若干ではあるが人として尊敬出来ない面々の登場に、僕としては、
「いらっしゃい。 皆さんお久しぶりで」
と中身は分別のある大人として頑張って挨拶をしているが流石にちょっぴり笑顔が少し引きつってしまうのは許して欲しい…人間だもの。
さて、そんな彼らがこの集落に来た理由なのであるが、マドラのオッサンが我が家に試作を終えた製品版のハンドルーターと木工ルーターを届けに来たのは理解出来る。
そして、良く分からないのが常連のオッサンズのメンバーである。
そのオッサン達は全員何らかの職人さん達だそうで、一人は現在集落に住み込みで役場を建てている親方さん達の仕事仲間で、
「急ぎで木材を運んでくれって言われてよぉ」
と、どうやら風呂小屋にかなりの木材を使ってしまい肝心なお屋敷兼役場の材料が不足して半月に一度の定期便を待てない状態だったらしい。
そしてもう一人は、
「実はオレっちの弟子なんだけどよ…ほれ噂のフンドシ戦士アルマだぞ挨拶しねぇか」
と、背後に隠れる様に控えていた青年に僕に挨拶するように促すと、その青年はかぶっていた帽子を取って、
「アルマさん、お噂は師匠から聞いています。 オイラはウルソと申します」
と頭を下げた彼には丸くて可愛いケモミミがついており、ペッコリ90度の姿勢のまま彼は、
「フンドシ一丁で素手でダッシュボアを倒したアルマさんを尊敬しています」
と、どうやら獣人族の血を引く方々には成人の儀式とかを達成した戦士として認識してくれているのだろうか、尊敬の目で僕を見てくれる。
しかし僕としては、
『いや、フンドシ一丁で倒したんじゃなくて、色々足掻いた結果フンドシ姿に至ったんだけど』
と、どんな風に盛られた話が彼に伝わっているか不安だが、師匠だという常連のオッサンズの一人を間に挟んだ伝言ゲームの為に原作は改変されている事は確実である。
しかし、その伝言ゲームでは信用の欠片も無いオッサンでも彼はちゃんと師匠として弟子の事を考えているみたいで、
「ほら、ウルソは獣人の血を引いてるだろ…オレっちは気にしないんだが、ファベルの町には獣人族を下に見る野郎も居てよぉ。 腕は確かだが独り立ちさせるのが不安だったんだ」
と、ウルソさんを手元おいていたところ、僕の話題から、
『アルマの生まれた集落なら工房を開く登録料が要らないらしい』
と聞いてファベルの町の役場に相談に行ったところ、お代官様親子から認められて、
「集落の役場が建ってから移住者の受け入れを開始する予定だったが、鍛冶職人なら何かと役に立つし、何より仮の役場には鍛冶場が有るのに活かせてないから丁度良い!」
と、仮役場の鍛冶設備の管理を任されるウチの集落お抱え鍛冶職人に任命されたのだそうだ。
鍛冶の師匠である常連ズのオッサンが、
「ウルソもアルマの事を尊敬しているし、獣人族の心意気を知るアルマならウルソを認めてくれるとオレっちは見込んでるんだ。 アルマ、可愛い弟子を頼んだぜ!」
と師匠っぽい事を言っている。
無論、僕はケモミミだろうが何だろうが偏見はなく、ウルソさんの真面目そうな人柄も認めているのだが、師匠であるオッサンの中で僕のアイデンティティーがフンドシに成っている事だけは認めたくない。
そして、残り一名の常連ズのオッサンは、
「商人ギルドから農業地区の家と厩舎の修繕の依頼が来てよぉ、俺が請け負ったんだが、まさか《《あの》》アルマの物件だと聞いた時は腰を抜かすかと思ったぜ。 フンドシ戦士様は冒険者だとばかり思ってたが、まさか商会の会長様だったとはな…ほれ、商人ギルドのモンテって兄ちゃんからの手紙だ」
と笑って手紙を僕に渡してくれた。
手紙の内容では、どうやらモンテさんが上手いことやってくれてお代官様からの報酬で農業地区の物件を用意してくれたそうで、
『廃業して少し荒れていた牧場と高齢の夫婦が息子さんの居る領都近くの町に引っ越す予定の牧場と隣接した農地を購入しました。 秋に畑の収穫が終わり次第引っ越すそうなのでそれまではご夫婦が住んでおられますが、畑は来年からすぐに作付が出来る状態の良い畑で、農耕用の立派な馬魔物も連れていけないからと家と土地のオマケとして付けてくれました』
という報告が書いてあり、モンテさんから仕事を依頼された常連ズのオッサンは、
「職人ギルドのギルドマスターからもくれぐれもアルマ《《さん》》にヨロシクって言われてよぉ。 アルマは一体なにモンなんだ?」
と不思議そうにしていたのだった。
そんな牧場の修繕の依頼を受けた常連ズのオッサンは、
「前の仕事がずれ込んでスラム地区の現場の仕事を受け損ねて暇していたんだ! 助かったぜアルマ。 で、牧場の修繕だけど何か希望はあるか?!」
と、我が家にて図面を広げて打ち合わせをしたのであるが、そこそこ広い牧場だったのか従業員の宿舎が10室の個室とオーナーの住居まであり、
「とりあえず、冬までにこの宿舎と、こちらの一軒家のキッチンと居間を最優先で直していただけますか?」
とお願いすると彼は、
「任せとけ、それぐらいなら秋口には仕上げてやる」
と頼もしい答えを返してくれたのであった。
そして我が家の工房スペースに据え置きタイプのハンドルーター魔道具と、
「想像してたより軽いんだ!」
と、ゴツい見た目だが思いの外軽くて使いやすそうな木工ルーター魔道具が運び込まれ、まだ幼なじみ達を迎え入れる予定のまだ無い客間に、
「まだ仮の役場として鍛冶屋の建物を使っているから当面はここに住みなよ」
と、今後は僕のメイン収入になる予定の多機能魔石式ライトのフレーム作りを依頼する事になる予定のウルソさんを早々に抱き込む事に成功したのだった。
工事現場から頼まれた荷物の搬入や、僕との打ち合わせに、弟子の落ち着き先も決まったオッサン達は嵐の様に帰って行き、我が家には残されたウルソさんと僕だけに成ってしまった。
『下心と勢いでウルソさんを我が家に来てもらったけど…』
と、二人っきりになった一発目の会話をどう切り出すか迷う僕と、あからさまに戸惑っているウルソさんという少し気まずい時間が我が家の居間には流れており、気を遣ってくれたらしいウルソさんが、
「アルマさん、今日からお世話になります」
と、丁寧な挨拶をしてくれた事を皮切りに僕も、
「アルマで良いよ。 ウルソさんの方が年上なんだから」
などと会話が始まり、その後集落を軽く案内してマルテスさん達との顔合わせも無事に終了したウルソさんと我が家の食卓にて簡単な歓迎会を行った。
食後に、
「アルマさ…えっとアルマ君、住む場所からご飯まで、本当にありがとうございます」
と感謝を述べるウルソさんに、僕は、
「いえいえ、気にしなくて良いよ。 部屋は空いていたんだし、パンは役場の皆さんのために僕が手伝って焼いた残りだし、料理だって一人分も二人分も手間はあまり変わらないから気にしないで」
と伝えた後に、
「1日荷馬車に揺られて、休みなしで挨拶回りしたから疲れたんじゃない?」
と聞くとウルソさんは、少し照れくさそうに笑いながら、
「はい、正直クタクタです」
と答えたので、僕は彼に、
「じゃあ、先にお風呂に入るかい?」
とお風呂へと誘い、我が家の薪釜風呂はどうやら一般的では無いらしいので彼に使い方を教える意味で、
「ウルソさん、色々教えてあげるからコッチに来て」
と彼を中庭に作ったお手製の風呂小屋に呼ぶのだが、ウルソさんは一瞬固まったかと思うと、何かを決意した顔になり、
「師匠から世の中には色々な趣味の方が居ると聞いています。 とくに強い戦士にはそういった趣味の方が…大丈夫です。 帰る間際に師匠から世話になった分は体で返せと言われていますから、どうかアルマ君、初めてだから痛くしないで下さいね」
と涙を溜めた痛々しい笑顔をコチラに向けるウルソさんに僕は思考がフリーズし、脳内では議員の皆さんが、
『あれ、かな?』
とか
『アレだと思われてるねぇ』
だのと議論した結果、僕は、
「こっちとら10才に成り立てホヤホヤだぞ! そんな業の深そうな趣味な訳あるか!?」
と怒鳴ってしまっていた。
しかし、良く考えてみると、
『ウルソさんの体が目当てで優しくしていたんじゃなく、鍛冶職人としての技術に期待していただけで…ん? ある意味僕は、ウルソさんではなくて、その技術だけを求めて…それじゃあ体目当ての下衆と大差ないのでは!』
と気がついた僕は自分の事が恥ずかしく思え、急に大声を出した僕に驚いているウルソさんに、
「急に怒鳴ってスミマセン」
と頭を下げるが、ウルソさんは落ち着いたトーンで淡々と、
「師匠が言ってました。 暴力を振るう男ほど急に優しく接して来るって…」
と、彼は僕に男食だけでなくDV野郎というレッテルまで貼ろうとしてきたのであった。




